第1回 前刀 禎明氏 – 法政大学MBAとの共同講座 2006/7/26 (2)

起業当時の話

平石:
早速ですけれども、まず起業ということについて、話をしていただきたいんですが、99年に前刀さんが起業したときの、起業のきっかけは何だったのですか?

前刀:

写真:前刀 禎明氏

AOLにいた時に実は外から、アオルって何の会社ですか?って聞かれたことがあります。当時AOLはまったく無名でしたから。そんな会社でも、そのとき当時インターネット世界NO.1の会社だったわけです。なかなか、会員数が伸びなかったのですが、マーケティングを担当したときに、映画「ユー・ガット・メール」を使ったことで、月々の会員数が倍になりました。さらに、ここで戦略的なアプローチをかけようとしたのですが、やはり、ジョイントベンチャーでは、絶対にこの動きの早い業界で勝てないと思ったんです。フリープロバイダのビジネスモデル、これはヨーロッパが一番最初なんですけれども、ロンドンでそういうものがあったのは知っていましたから、だったら自分でやった方が早いということで始めたのがきっかけですね。一番嫌だったのは、目の前にある成長の機会とか、成功の機会をみすみす逃すことなんですよね。だから起業したんです。

平石:
不安とかはなかったんですか?

前刀:
スクラッチからグラウンドを作っていくというのはそのときが初めてでしたから、不安はあるといえばありましたけれども、それよりも期待の方が大きかったですよね。何かにチャレンジしていくっていうことが好きですから。たまたまそういうことを同じようにやりたいと思っていた外国人がいてですね、そいつとであったんですよ。で、一緒にやりましょうということで、ビジネスプランをかためて、ベンチャーキャピタルにプレゼンテーションをしに行きました。突然が多 いんですよ、私は。突然AOLに入って、突然やめていって。
プロバイダの事業ってある程度資本金が要るわけですよね。その出資をベンチャーキャピタルから得ることができなければまたしても無職の状況になってしまうので、そこは必死でしたね。今まで、自分がやってきたキャリアを最大限にプレゼンテーションしました。日本のベンチャーキャピタルはどうか知りませんけれども、外国のベンチャーキャピタルは結構、その人のトラックレコードと言うか、何をやってきたかっていうのは、ものすごく信用するわけです。
平石:
最初からどこかのVCからお金を預かることが決まっていたわけじゃないんですよね?

前刀:
決まってないですよ。それは出てくるかどうかわからなかったですよ。毎日毎日何社かに向かってプレゼンをするわけです。毎日毎日同じことをしゃべっていましたね。

平石:
何社ぐらいプレゼンをしたんですか?

前刀:
10社はくだらないですね。

平石:
AOLをやめたときには、とにかくお金は集めるんだということしか考えなかったんですかね?集まんなかったらどうしようとか。

前刀:
そういう時は、自分の中にあるきっとできるという想い、そこを信じてやっていくしかないですね。
もちろん、起業ゼロからおこしていくっていう意味では不安はあります。ところで、この中に転職経験のある方どれぐらいいらっしゃいますか?
では、2回以上転職したことある方いますか? 結構いるじゃないですか。転職、どうってことないでしょ?結局、慣れです、慣れ。慣れは大事。やはり、変に不安を持って、びくびくすると絶対に成功しない。だから、後ろ向きの転職はよくないと言うことと、やは り、転職のきっかけは、今いる会社、もともといた会社でのある種の達成感も重要です。

私が信条としているのは、さっきの自分を変える力とかそういうのにつながってくるのですけれども、惰性で仕事が出来てしまうようになったら、仕事を変えた方が良いということです。要するに成長終わってしまうから。惰性で仕事をすると人間はいくらでも馬鹿になりますから。頭も使わなければ、自分の能力もあんまり把握しなくなってしまいます。自分が向上心が強いと思う人はがらっと環境を変えて転職する、もしくは同じ会社にいるのだったら、さらに難しい仕事に チャレンジしていくべきだと思います。

創業当初のプロセス

平石:

写真:平石郁生

ベンチャーキャピタルにプレゼンテーションしたということですが、結果的に資金は集まるまでのプロセス、ポイントとなったことを教えていただけますか?

前刀:
結局は人です。どういう人がやるかというのは重要です。ですから、同じビジネスプランでも、成功するか、しないかというのは、誰がやるかで変わってきます。

そういう意味では、ものすごくいいビジネスプランだけれども、この人がやるのではというものよりも、このビジネスプランは 少し怪しいというものでも、他の人がやれば成功するのかもしれません。結局、企業経営は経営者の求心力が重要であり、どういう人を集めることができると いったことは重要です。特にベンチャーなんてそれしかない。

平石:
最初、前刀さん以外に、本当のスタート時のメンバーは、大体何人ぐらいだったのですか?

前刀:
5人だけのような状態でした。プレゼンテーションしている時は。今思えばね、よく出しましたよね。最初にはじめたときって言うのは、自分入れて、そのとき決まっていたのが4人とか。

平石:
前刀さん以外の3人の方は、前からの知り合いだったのですか?

前刀:
いや、全然知りませんでした。

平石:
では、ライブドアをやろうといった時に、知り合ったということですか?

前刀:
そうですね。

平石:
その三人以外の人たちは、一般的にいう採用活動をして集まったって言うことですね。

前刀:
そういうことです。

平石:
メンバーを集める時に、一番重視していたことと、苦労したこと、それぞれ聞かせてもらえますか?

前刀:
人手が足りなかったので、あまり厳選している暇はありませんでした。立ち上げ期では、そこで実際やってみて残っていく人もいれば、しばらく大きくなって全くそこに合わなくなって、やめる人が出てくるわけです。現実問題そういうことが多いですよね。

後は人づてです。人づてで紹介してもらって、実際会ってみて、この人はいいかどうかを見極める。でも、人を採るのは本当に難しいです。いわゆる、ヘッドハンターを経由するとあたりはずれがありましたね。なので、少ない人数でまわしていくには、人の紹介が必要でした。

平石:
この人と一緒にやろうという風に決めるときは、大体どんなことを見ていましたか?

前刀:
感覚的な部分になってしまいますね。まず自分と合う合わないというのも当然ありますし、一緒にその一つの目標に向けてやろうという気持ちになれるかというのも重要ですよね。

平石:
他に何かありますか?こういう人は創業期には、一緒にやってはいけないとか。

前刀:
いわゆる、すごくサラリーマンボケしたような人って駄目ですね。なにかブランドがないと、自分の価値ってこれですよ、と言うことを明確に言えない人は難しいです。だから、どこどこの誰々とか、アップルの前刀とか、アップルがつかないと全然認知されないような人は駄目ですね。

平石:
最後にマーケティングに関して、いつの時代にも通用することを、あげてくださいと言ったら、前刀さんはなんと答えますか?

前刀:
コンシューマーが何を求めているかを見極めることが一番重要です。

メーカーが考える技術的にできるということと、ユーザーが使って便利だと思うっていう事は違うということです。マーケティングも同じですね。iPodの特徴はハードディスクが入っているとか、ディスプレイが付いるとか、インターフェイスに優れているとか色々とあると思いますが、そこのすばらしさだけを追求 したってそんなもの絶対に売れないです。

コンシュマーにとっては、中に入っているのがフラッシュメモリーだろうが、ハードディスクだろうがそんなことどうでもいいわけですから。

何が一番求められてるのかと言うことを常に見極めることが大切ですよね。
とにかくそこに尽きると思います。