第3回 小林 雅氏 – 法政大学MBAとの共同講座 2006/9/1 (2)

ベンチャーキャピタリストの資質について

平石:
小林さんから見て、ベンチャーキャピタルに向くのはどうい人か、 ベンチャーキャピタリストに必要な要件などを挙げていただくと、 どんなことですか?

小林:

写真:小林 雅 氏

どういう規模でやりたいかどういうことをやりたいかによって、 異なると思っています。 例えばYahooに投資したマイケル・モリッツのような方から、 資金調達を受けたいとGoogleの人は思うわけですね。

Googleはセコイアキャピタルとクライナー・バーキンスという、 シリコンバレーの2大ベンチャーキャピタルから、資金調達を受けたのですが両方ともシリコンバレーの、 2大ベンチャーキャピタルです。 当初は両方とも単独で投資をさせてください、といった話だったのですが、結局両方投資することになりました。 投資したのはネットスケープやアマゾンなどの世界の、名だたる企業に、投資してきたベンチャーキャピタリストです。

そこで私は社長に説明の一部を任せて頂き、 一生懸命日本語で説明したんです。 そうしたらお客様からその後問い合わせを何回か頂き、実際にその企業が初の導入企業になったんです。 社長は驚いて、ネットエイジができて初の契約企業だったので、「小室さんすごいから、明日から一人で行っておいで」と言われて、 基本的にひとりで営業に行くようになったんです。しばらく営業をしている間にだんだん面白いほど 営業を取れるようになってきて、 最後には企画の仕事を全面的にやらせて頂きました。最初に考えていた、本当にやりたかった仕事にたどり着けたので、
その時はとても嬉しかったです。 大学を卒業して資生堂に入る前日、 社長に「なんで最後にやりたい仕事ができたかわかる?」って言われました。

やはりそういうのは圧倒的な実績がないと厳しいので トラックレコード(投資信託や投資ファンドといった、金融投資商品の収益実績の履歴)が重要だなと思います。 ところが最初はトラックレコードがないので、 いかにそれを作っていきますかということが、非常に重要なキャリアになります。

あとは、良いチャンスが回ってくるかといったことも、 とても重要です。 インタースコープのケースでは当時私は27歳で、 トラックレコードはありませんでした。 しかし平石さんなどが投資を受け入れていただいて、 社外取締役にも就任させていただきました。

グロービスではそういった、 若手にチャンスを与えてくれたということが一番大きくて、 チャンスがあれば現場として学ぶ事が多いんです。運にも左右されますけども、 そういった強いチャンスが非常に重要かなと思います。 ベンチャーキャピタリストの資質としては、ビジネスマンで「できる人」と「できない人」というのと同じです。

仕事できるかできないかの違いだけだと思いますけど、あとは起業家精神があって、 起業家に近いマインドをもって出来るかどうか、という事ですね。当然ながら会社の経営管理と言うことで、経営全般の知識、 例えば戦略を学んできたか、学んだことを吸収できるか、 というのは非常に重要ですね。

たとえば人事やってきましたといって人事の話でも、 一面的な話で企業経営というのは、総合的な判断を求められますから、 そういう「判断力や重要な意志決定に対して、的確な判断が出来るかどうか」が非常に重要だと思います。

ベンチャーキャピタリストの経験で学んだこと

平石:
いま小林さんがチャンスに恵まれて、 学びがあったとおっしゃったんですけども、 ベンチャーキャピタリストとしてなる前となった後で、 学んだことって何ですか?

小林:
例えばあるソフトウェア会社に投資したケースですが、 非常に優秀なエンジニアがいらっしゃった会社だったんですね。
そして新しいソフトウェアを作りましたと。
当時、若かった私はソフトウェアの会社に投資できて面白いな、 と思いまして投資をいたしました。 ところ全く売れなかったんですね。

これは非常に学びましたね。
他の会社だと、開発マネジメントが全然できてない会社に 投資したことがあるんですどバグだらけでお客様に供給できず、 納期が遅れて結局キャッシュアウトしてうまくいかなかった、 という事がありました。

マネジメントになると違う視点も必要です。 ワークスアプリケーションズでは大成功しましたが、もう片方は大失敗したり。

そういった失敗を会社と共有できる経験が 出来る点は非常に重要ですね。成功例よりも、失敗から学ぶ方が大きいんです。それが面白いですね。

成功する経営者の共通項

平石:
投資関連のことで、 これは僕が聞いてみたいと思っていたことなんですが、 成功の定義にもよりますけど様々な起業家を見てきて、 成功する経営者の共通項というのは何がありますか。

小林:

写真:小林 雅 氏

成功の定義というより、私が投資したいと思うのは、 市場、テーマとして面白いかどうかです。あとはトレンドを重視していて目が輝いている経営者かどうか、 といいますのを非常に重視しています。 そういった方たちをどういう風に見極めるのか。それは優れた経営者をたくさん見るしかない、と思っています。 例えば、ニュー・インダストリー・リーダーサミットに参加していて、その中で成功した経営者の方がいるわけです。 そこでそういった方たちと親しくしていると、 特徴がわかるわけじゃないです。例えば目が輝いているとか、話がわかりやすいとかですね。

平石:
仕事もできるし人間性もいいと、そういうことですね。 じゃあ仕事も出来る、人望もあるという方の中でも、 様々な要因でうまくいかないことがあるじゃないですか。その条件を兼ね備えていてなお、 抜きんでる人って何が違うのでしょうか?

小林:
運ではないでしょうか。基本的にはいい人に投資していて、それでもなおかつ失敗することもあります。
うまい人はいい機会をとらえていて、そこでまた成長します。
そういう運を寄せ集めるような人ですね。もう、笑顔がいい人、明快で人気がある人、そういった人に投資をして、その中で10社20社投資して、成功すれば、リターンは大きなものがありますし、いいかなと思います。

小林さんが注目している市場

平石:
では、小林さん自身について聞きたいんですけども、
小林さんが注目している新技術や新市場はどんなことですか。
小林:
インターネット関連ずっとやっていますので、Web2.0の市場は非常に注目しています。
とくにコミュニティ関係です。具体的なサービス名を挙げますと、DeNAがやっているモバゲータウンみたいなものが非常に面白いと思っています。エンタメの要素をもっていて、ビジネス的にはクチコミの要素を持って爆発的に伸びたりするので、それは非常に面白いな、と思っていますね。ミクシィみたいな会社がヤフーを脅かすといったことは誰も思っていなかったので、そういう地殻変動が起きるチャンスかな、と思っています。

小林さんの夢

平石:
最後に小林さんの夢についてお聞かせください。

小林:
夢というより目標ですが、5年後軽井沢に別荘立てたい1000平米以上の土地で何かしたいと思っています。
仕事ではいつかGoogleのような会社を創りたいですね。期限区切ってやるのがいいのかと思っていて、10年以内にとは言ってはいます。
平石:
じゃあ10年後軽井沢に別荘できたら是非招待してください。みなさん証人ですからね。