この時期のミュンヘンは既に肌寒い。薄手のダウンジャケットを着ている人が散見される。東京でいうと、11月くらいの季節だろうか?
初めてミュンヘンに来たのは昨年7月、Tokyo Munich FinTech Symposium を開催するためだった。7月のミュンヘンは東京と異なり、湿度が低くカラッとしており、とても心地よい季節だった。ドイツ駐在経験のある商社出身の友人に訊いたところ、ミュンヘンは内陸でアルプスに近く、9月になると駆け足で秋がやってくるらしい。Google Map で確認すると、オーストリア国境まで100キロもない・・・。
今回のミュンヘンは「スタートアップ事情」を学ぶために立ち寄った。もう少し具体的に言うと、ベルリンとミュンヘンの「スタートアップシーンの違い」を知ることが目的である。
訪問したのは、LMU (Ludwig-Maximilians-Universität München)の「Entrepreneurship Center」。LMUはミュンヘン中央部に位置し、ドイツでもトップクラスの大学である。LMUでは、約10年前から起業家育成プログラムを立ち上げており、年に2回、いわゆるバッチプログラムを運営している。
このバッチに応募するには、いくつかの条件がある。チーム内に最低1人、LMUの学生ないしは出身者が含まれることが必要。それ以外は外部の人間であっても構わない。ご多分に漏れず、最初は応募者は少なく、このプログラムに参加することはそれ程難しくはなかったようだが、最近では毎回120チームほどの応募があり、採択されるのは、その中から12-17チーム(と言っていたと思う)。採択されると、最初の数ヶ月間は、施設内のオフィスを使用することができる。
まあ、ここまでは、よくある同種のプログラムと大きな違いはない。しかし、LMU主催のイベント(Demo Dayのようなものか?)には、Mark Zuckerberg(facebook)や Niklas Zennström(Skype Founder)等、Techシーンの大物起業家が講演に来ているのには目を引かれた。
また、Entrepreneurship Center には「German Accelerator」というアクセラレーターが入居しており、そこの Marketing & Event Manager, Laura Goetze に話を聞くことができた。German Accelerator は、Silicon Valley にも拠点があり、ドイツの起業家がシリコンバレーのエコシステムに入り込めるよう、様々なサポートをしている。驚いたのは、German Accelerator 運営費のなんと「9割」をドイツ政府がスポンサーしていることだ!本気度が伝わってくる。
しかし、ミュンヘンのスタートアップシーンは、ベルリンのそれには及ばないらしい。定量的な情報は帰国後に調べようと思っているが、参考までに、ミュンヘンとベルリンのスタートアップシーンの違いを箇条書きに整理してみた(あくまでも参考程度に参照されたし)。
<ミュンヘン>
・人口は、約140万人。
・B2Bがメイン。ディープなテクノロジースタートアップが多い。大企業の研究者のスピンオフ等が多いのか?
・ミュンヘンには、Mercedes Benz, BMW, Munich Re(世界最大の再保険会社), Allianz, SIEMENS等の大企業の本社が集積。
・LMUを含めて、テクノロジー、サイエンス等に優れた大学が多々立地。
・物価が高い。成熟したカルチャー。フォーマル(礼儀正しい)なコミュニケーションが求められる。
・Risk-Averse なカルチャーのため、シード・アーリーステージのスタートアップへの投資が少ない。ビジネスモデルが固まり、売上が上がってきたミドルステージ以降のスタートアップに、ミリオンユーロ単位(億円単位)での投資を好む投資家が多いという。
<ベルリン>
・人口は、約350万人。ドイツ最大の都市。
・歴史的背景により、英語が通じる(これは大きな要素だと思う)。役所関係を除くと、ドイツ語が話せなくても生活にほぼ支障を来さない。
・B2Cが多い。シリコンバレーの影響が強い。最近はフード関連のスタートアップが多いらしい(資金調達がし易いという)。
・一方、A.I.やBlockchain等のテクノロジースタートアップも存在する。
・物価が安い。ミュンヘンの7割程度(平石の実感値)。
・人との繋がりがインフォーマル。シリコンバレーライクに、色々な人とカジュアルに繋がれる。スタートアップカルチャーがある。
・ベルリンの起業家の40%程度が「外国人」らしい!コスモポリタンな街である。雰囲気は、New York の East Village や Brooklyn に似ている。
・シード・アーリーステージからミドル・レイターステージまで、投資家が存在。シード・アーリーステージを対象としたVCのLP(VCファンドの投資家)はローカル(ドイツ国内)の投資家が多いが、シリーズA以降をターゲットとしたVCファンドの場合、そのLPは「海外の投資家」が大半を占めるという。
・評価が分かれるが、何といっても、Rocket Internet の存在は大きいだろう。
クリステンセンの言葉を拝借すると、ミュンヘンは「持続的イノベーション」、ベルリンは「破壊的イノベーション」に適したエコシステムだと言えるだろう。
<ドイツ全般>
SAPを除き、ドイツの殆どの大企業は、スタートアップを買収することには消極的(殆どない)。カルチャーがあまりに異なるのだろう。スタートアップのEXITとしてのM&Aは、その買い手の大半は「米国企業」だそうだ。
一方、世界的な産業の転換期において、ドイツの大企業もいかにイノベーションを起こすか?に関する問題意識は強く、「イノベーション・センター」的な施設をベルリンに移す企業が多いと聞いた。
ドイツは日本同様、基本的に「Risk-Averse(保守的)」「Product Oriented(ハードウエア指向)」なカルチャーの国であり、また、大企業とスタートアップの「ギャップ」は大きく、表現は別として、両国の「オープン・イノベーション」の現状を共有することで、学び合えることがあるように感じた。
近いうちに、上記に関する統計データを含めて、改めてレポートしたい。
ミュンヘンの後、投資先とのMTGのためベルリンを訪問し、先程到着したロンドンにて。