ほぼ5ヶ月ぶりの更新となったが、実は「Medium」では頻繁に書いていた。というのは、Wordpressのライセンス or 技術的問題なのか? 海外出張の際、現地からはアクセスできない・・・。
ここ1-2ヶ月、Mediumに書いていたのは、「GoGlobal Catalyst」というシンガポールに設立する新会社(僕の新しいチャレンジ)について。下記のエントリーを読んでいただけたら嬉しい。
そのGoGlobal Catalyst のアドバイザーに就任してくれることになっている「Keith Teare」が、ロンドンとブラッセル(ベルギー)で開催された「MCC(Mathias Corvinus Collegium)」というカンファレンスで、「Can Europe Produce World Class AI Innovation?」というテーマで講演した。
今回のエントリーは、その内容を踏まえたベンチャーキャピタル(以下VC )への投資額に関する考察である。
まずは、下記のグラフを見て欲しい。
年間一人当たりのVCへの投資額は、アメリカ全体で「510ドル」、ベイエリア(サンフランシスコ&シリコンバレー)だと「2,340ドル」。EUは「55ドル」。UK(英国)は「320ドル」。
日本はどうだろう? INITIAL (現SPEEDA) によると、2021年の日本でのVCファンドの組成額は「6,172億円」。それを「1億2,000万人」で割ると「37ドル (¥140/USD)」。
残念ながら、シリコンバレーの「63分の1」。英国の1/9。EUの約7割に留まる。
2021年度末の日本企業の内部留保は「516兆円」。VCファンドへの投資額(組成額)が「6,172億円」なので、「VCファンドへの投資額/企業の内部留保」は「0.12%」。仮に、企業の内部留保から英国と同じVC投資額/GDP per Capita(0.69%)がVCファンドに投資されると「3兆5,600億円」になる。
数字的には不可能な額ではないだろう。問題は、それに見合う投資先(スタートアップ)があるか?ということだ。
「ドラギ・レポート(Draghi Report)」によると、2008年から2021年に掛けて「ヨーロッパで誕生したユニコーン」の約30%が、本社をヨーロッパ外に移転したらしい。その殆どは「アメリカ」である。
そのようなスタートアップの代表的な例として、Stripe(アイルランド)、WhatsApp(ウクライナ)、ticketmaster(フランス)等を挙げることができる。
質問は何故、彼らが本社をアメリカに移転したか?
その答えは上のグラフが示すとおり、ヨーロッパよりもアメリカ、この場合、シリコンバレーを指す、の方がより大きな資金を調達できるからである。「Sustainable(持続可能)」と言えば聞こえはいいが、要するに「現状を維持したい(リスクは冒したくない)」というのが、ヨーロッパの基本的価値観なのだろう。日本も基本的には同じである。
上記と関連があるかは別として、ヨーロッパのVCの最大の投資家(LP)は、European Investment Bank」であり、「60%」は彼らによる投資だという。つまりは、政府の資金(税金)ということだ。
それに対して、シリコンバレーのVCの投資家(LP)は100%、民間の投資家である。
統計データは持ち合わせていないが、ヨーロッパのファミリーオフィス(裕福な同族企業や個人)の投資先はほぼ100%、アメリカだという。
「鶏と卵」かもしれないが、お金はユニコーンを追いかけるし、ユニコーンはお金のある場所に移動する。
そのような状況を改善することを目的に、Keith の親友でもある「Saul Klein」が「21年前」、ロンドンにシリコンバレーのようなエコシステムを創ることを目的として「LocalGlobe」というVCを立ち上げた。他にも、Entrepreneur FirstやSeed Camp等、素晴らしいアクセラレーターやVCファンドがある。
それによって、ロンドンのスタートアップエコシステムはとても成長した(僕は一時期、TechCity Londonという政府 (UKTI & City of London) 主導による活動のメンターをしていたことがある)が、それでもまだ、シリコンバレーには遠く及ばない。
要するに、時間が掛かる・・・ということだ。
一方、ヨーロッパのVC v.s. アメリカのVCの「投資パフォーマンス」を調べたところ、意外にもヨーロッパのそれの方が、極僅かながらアメリカのVCの投資パフォーマンスを上回っていることが分かった。
2002年以降のVCのパフォーマンス(年間利回り)を比較すると、ヨーロッパのVC:12.65%、アメリカのVC:12.25%と、僅かながらヨーロッパのVCがアメリカのVCを上回る。
2022年までの5年間では、ヨーロッパのVCは「31.44%」というさらに高いリターンを達成した一方、アメリカのVCのリターンは「25.20%」に留まっている。
その理由は、アメリカのVCは「超優良パフォーマンスVC」と「(元本割れ)VC」とが極端に分かれているため、平均値にすると、そのような結果になるのではないかと推測している。
上のグラフの「Financings」は「投資ラウンド(投資案件)」、「Dollars」は「投資回収した金額」を指していると思われる。
過去10年間(2013-2022)に「EXIT」したスタートアップの投資案件のうち、「10倍以上」のリターンを生み出したのは「4%未満」であり、「48%」は「1倍未満のリターン(損失)」。要するに「案件の半分」は「儲からない」ということだ。
さて、話をVCへの投資額(ファンド組成額)に戻すと、シリコンバレー > イギリス > EU > 日本という順番になっており、皮膚感覚に近い。
VCはイノベーションの「燃料」であり、触媒(カタリスト)でもある。
問題は、どうすればVCファンドへの投資を増やせるか? に加えて、世の中の価値観を変えて行くにはどうすれば良いか? である。
後者があって初めて、前者が増えていくという因果関係だろうが、これはかなり難しい・・・。
最後に、ヨーロッパからイノベーションを生み出すために必要なこととして、Keith が講演の中で指摘していた「3点」を紹介したい。
1, Culture: Reward falirue. Reward experimentation. Reward Science, but not complete. And put money behind.「失敗と実験、そして(不完全でもいいので)科学」に報酬を与えるカルチャーが必要だ。そして、それらに投資する。
2, Social System: Europe is heavily academic, even more true in Japan, China, and Russia. これは解説が必要だろう。
Google 創業者 Larry Page と Sergey Brin (モスクワ出身) がスタンフォード大学博士課程在学中に検索エンジンを開発し、起業したことは周知のとおりだが、その成果はほぼすべて彼ら2人が所有し、スタンフォード大学は極僅かな利益しか得ていないという。
それに対して、Keithが関与したUniversity of Bristol(イギリス)のオーディオ関連のスタートアップでは、殆ど何もしていない教授が会社の株式の70%のシェアを持ち、20代前半の学生は「3%」しか所有できず、残りは大学が所有したという。
その背景には、そのスタートアップの技術やアイディアは、大学発だ!という主張(カルチャー)があるのだろう。
3, Entrepreneurs don’t always have the ideas. But, they have the ability to execute the ideas. 起業家は必ずしも「アイディア」を持っているわけではない。但し、アイディアを「具現化」する能力を持っている。
Keith はそう言っている。僕も100% agreeだ。さらに言えば、ドラッカーは「起業家は必ずしも、自ら変化を起こすわけではない。但し、変化を『機会』として利用する」と言っている。同じことだ。
ここを誤解している人がまだまだ大半だと思う。
アイディアを「具現化」する「起業家」をリスペクトし、報酬を与える必要がある。まあ、そんなことは皆んな分かっているのだろうw。
ところで、日本では先週金曜日(9/27)、自民党の総裁選があった。今まで長い間、「党内野党」と揶揄されてきた「石破 茂 氏」が5度目の挑戦で総裁の座を射止めた。海外のメディアも早速、報じている。
His outspoken views have earned him enemies in the LDP. He was sidelined by outgoing Prime Minister Kishida, becoming a dissenting voice in the party who enjoyed broad support from LDP rank-and-file members as well as the public (by Reuters). 彼の率直な物言いは、自民党内で敵を作ってきた。彼は退任する岸田首相によって閑職に追いやられ、党内で反対意見を表明する人物となったが、一般党員や国民からは広く支持を得ていた。
In a political culture that prizes conformity, Ishiba has long been something of an outlier, willing to criticize and go against his own party. That willingness to speak out made him powerful enemies within the LDP but endeared him to more grassroots members and the public (by CNN). 協調性を重んじる政治文化の中で、石破氏は長い間、異端児的な存在であり、自分から進んで自らの党を批判したり反対する言動を取ってきた。そのことで、自民党内には多くの敵を作ってきたが、一方、草の根メンバーや一般国民からは強い支持を得た。
僕は政治の世界は知らないが、テレビや新聞の報道を見る限り、自民党の「半数」は石破さんの方針や人事案に反対しているらしい・・・。結局、国民のための政治や自分たちではなく、自民党内における自分たちの権力を確保することが最優先なのだろう。
昨夜のフジテレビの番組(Mr. サンデー)に出演された安野貴博さん(都知事選に立候補されたAIエンジニア&起業家&SF作家)が、石破さんが総裁になったことで自民党は変わると思いますか? という司会者の質問に対して、「(誰が総裁になっても自民党は)変わらない」と答えていた。
僕は残念に思った(石破さんに頑張って欲しい!)が、どうやら彼の判断が正しいのかもしれない。
自民党よりも先に代表選を実施した立憲民主党も代表に選出された野田さんの人事に「No side ならぬOne Sideだ」と不満を表明していたようで、それが人間の性なのかもしれないが、だとすれば哀しい現実だ。
さて、Peter Thiel は、優秀な高校生には大学に行かないでくれ!と言い、彼が運営する Founders Fundに応募して欲しいと頼んでいるらしい。選考を通過した若者は、年間100,000ドルが支給され、起業家としてスタートアップを設立できるように様々な教育やレッスンを受けられるという。
ドラッカーは、こう言っている。「『機能しなくなったもの』を定期的に廃棄する仕組みが必要だ」。
そして、こう続けている。「イノベーションは大変な仕事である。イノベーションを起こすためには、常に優秀な人材をフリーにしておく必要がある。優秀な人材に『死体が腐敗しないための仕事(後ろ向きの仕事)』をさせることほど不毛なことはない」と言っている。
何かを得るには、何かを捨てないとね。
明日から10月。今年も残すところ、あと3ヶ月。
死にゆくものは何で、生まれてくるものは何か? そして、その狭間で論争になっているものは何か? それをどう見極めるかで10年後が大きく異なる。