母国を捨てた起業家たち。

昨年の秋からこの春にかけて、3社のスタートアップにエンジェル投資をした。

一見すると、3社に共通点は見当たらない。業種も、ステージも、地理的条件も異なる。

でも、一歩引いて3社を俯瞰してみると、自分でも計画していなかったパターンが浮かび上がった。そしてそれは、起業家および投資家としての僕の信念を、最も明確に言語化したものだった。

3社とも「AI」を使っている。3社とも、創業者が母国を離れて異国で起業している。そして、3社とも、日本と深い接点を持っている。

Dwilar:「移民」が創業者になるとき

Dwilar創業者の中村さんと出会ったのは、2024年のIVS京都。共通の知り合いを通じて紹介された。僕の記憶が正しければ、当時の彼はまだUC Bekeley MBAに在学中で、不動産 x 金融のスタートアップを立ち上げようとしていた気がする。おもしろそうだな・・・と思ったが、彼のモデルでは、僕の財布の大きさでは無理な話で、先には進まなかった。次にお会いしたのは、いつだったかは憶えていない。彼がPivotしたのか? 僕の理解が違っていたのかは分からないが、「これはオモシロイ!」と思った。

彼は大学時代、神戸で「移民の子供たち」に勉強を教える塾のような事業を10数カ所運営していた。優秀な子供たちばかりだ。でも、日本語のレベルが追いつかず、公立の小学校の授業についていけない。神戸市もそういう子供たちを支援すべく、助成金を出していた。上手くいっていた。ところが、市長が変わり、政策が変わり、助成金が打ち切られた。

彼は大学卒業後、トヨタ自動車やP&Gといった大企業を経験した後、UC Berkeleyで、自費でMBAを取得した。相当な覚悟だったと思う。その時、今度は自分自身が「移民」になった。 与信がない。実績がない。アパートを借りるのも、クレジットカードを作るのも、とてつもなく大変だということに気づいた。

その実体験がスタートアップになった。Dwilarは、移民が母国で積み上げてきた経済的履歴をAIで分析し、米国のアパートのオーナーや不動産会社、金融機関に提供するというビジネスだ。太平洋の両側で感じた「痛み」から生まれた事業。僕は応援したいと思った。

Retreat Technologies:オペレーション・エクセレンスという静かな強さ

Retreat 共同創業者の一人、山田さんとは、同じくベイエリアで起業している共通の知り合いを通じて知り合った。彼らのビジネスは旅行関連だ。

旅行業界は成熟したビジネスだし、ExpediaやBooking.com等、マーケットを占有しているプレイヤーが既にいる。そこにどんなオポチュニティがあるのか? と思うかもしれない。でも、彼らが目をつけたのは、それらの巨人たちがすべてB2Cプレイヤーであるという事実だ。B2Bには、ポッカリと穴が空いている。 法人向けの出張手配、グループ・リトリート、チームのオフサイト。派手なコンシューマー向けブランディングよりも、オペレーション・エクセレンスがモノを言う世界。そこにこそ、日本人の創業者の強みが生きるのではないか?

決め手は創業者二人の人柄だった。とても誠実な二人で、厳しい局面でも踏ん張ってやっていけるだろうと思った。スタートアップには、必ず厳しい局面が来る。実際、山田さんはベイエリアで成功しかけた最初のスタートアップでの思いもよらぬ挫折を経験している。諦めない強さがある。

彼はソフトバンクでエンジニアをしていたらしく、旅行業界に知見があったわけではない。そのピースを埋めているのが、もうひとりの創業者、Jack Tadami 。純粋な日本人だが、何故、そういう名前を名乗っているのかは知らない。彼はLos Angeles で旅行関連の米国法人を経営していたらしく、業界の人脈とオペレーションのKnow-Howを持っている。

投資するにあたって明確な戦略があったわけではない。僕の「直観」として、何かに繋がるのではないか?と思った。そして実際、予想もしなかった形で、いくつかのピースが繋がり始めている。

Entention Social:97%の中にもダイヤモンドはいる。

3社目は、最も長いストーリーがある。

創業者のPhilipは、ベトナム系アメリカ人。京都大学で原子力工学の博士号を取得しており、超優秀だ。京都に惚れ込み、そのまま住み着いた。僕が彼と知り合ったのは、サンブリッジ時代に阪急電鉄にご出資いただき設立したファンドを運営していた時のことだ。彼は原子力の仕事には就かず、「Gochiso(ご馳走)」というスタートアップを立ち上げようとしていた。加盟店になってくれたレストランで食事をすると、その食事代の一定割合が指定するNPOへの寄付になるというモデルだった。社会的インパクトへの情熱に根ざした美しいアイデアだったが、爆発的な広がりにはならず、休眠させた。

Philipは諦めなかった。次に彼が始めたのは、サステナビリティ領域で、中小企業向けに自社のCO2削減への取り組みを可視化し、ウェブサイトに表示できるプロダクトだった。エストニアのアクセラレーターに採択され、前に進み始めていた。ところが、Trump 2.0で潮の流れが変わった。というか、止まったと言った方が適切だろう。米国では、再生可能エネルギー系のスタートアップが、充てにしていた政府の助成金がカットされ、窮地に陥っているらしい。Philipも、またPivotせざるを得なくなった。

彼が辿り着いたアイデアは、僕が最も可能性を感じるものだ。彼の洞察はシンプルだが、パワフルだ。シード・アーリーステージの創業者は、やることなすことすべてが初めてで、相談する相手もなく、孤独である。 アクセラレーター、YC、Techstars等――に採択されるのは、スタートアップのわずか3%に過ぎない。では、残りの97%はどうすればいいのか? その中にだって、ダイヤモンドの原石はいるはずだ。

Entention Socialは、アクセラレーターに採択されなくても、同じステージの創業者同士がざっくばらんに相談し合える――精神的にも実務的にも支え合える――ピアコミュニティを創ろうとしている。

これは、僕にとって、とても個人的に響いた。2006年、ドリームビジョンを創業したとき、僕は本当はEduTechスタートアップを立ち上げたかった。実務家同士が学び合うプラットフォームだ。でも、自分なりにフィージビリティ・スタディをした結果、当時の日本の社会環境では、アントレプレナーシップを大学のカリキュラムに導入するなどということは、到底受け入れられないと判断し、断念した。また、僕の実力的にも到底無理な話だった。

それから15年後の2021年、伊藤羊一さんから武蔵野大学アントレプレナーシップ学部の創設に声を掛けられた時、僕はこれは神様の啓示だと思い、二つ返事で引き受けた。自分が断念したアイデアが、思いもしなかった形で戻ってきた。

Philipが Entention Social で創ろうとしているものを見た時、僕は同じ共鳴を感じた。僕がドリームビジョンで実現できなかった「実務家同士が学び合うプラットフォーム」を、彼と一緒に創れるかもしれない。そう思った。

3社をつなぐもの

僕は「投資テーゼ」を先に立てて、それに合うスタートアップを探したわけではない。この3社は、25年間、起業家であり投資家として築いてきた人間関係のネットワークの中から、僕のところにやってきた。あるいは、僕が見つけたものだ。

でも、3社を並べてみると、テーゼは明確だ。

僕が今、最も惹かれる起業家は、ひとつの市場の中で最適化しようとしている人たちではない。母国を離れ――自らの意志で、あるいは環境に押されて――文化や言語やシステムの交差点で創っている人たちだ。 自らのルーツに根ざした規律や誠実さを持ちながら、地理に縛られることを拒否している。

以前も書いたが、単一民族国家である日本は、グローバル化する世界において構造的なハンディキャップを抱えている。でも、この3人の起業家たち――そして彼らのような人たち――は、そのハンディキャップは宿命ではないことの「生きた証拠」だ。日本の起業家精神の未来は、東京から生まれるとは限らない。京都から、バークレーから、タリンから――日本との接点を持つ創業者たちが創ることを選んだ場所から、生まれるかもしれない。

「故郷」は関係ない。「創る」ことが、すべてだ。

諦めない創業者。形を変え続けるアイデア。そしてその根底にある、僕も共有する信念――Where diamonds shape themselves.

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。国境を越えて、日本と接点を持ちながら起業している創業者をご存知でしたら、是非、教えて下さい。

AI一強時代、日本に足りないのは「多様性」だ。

2025年から2026年にかけて、世界の株式市場とスタートアップ・エコシステムは歴史的な転換点を迎えている。 今回は、直近の市場動向、アジア各国の新興企業向け市場との比較、そしてグローバルなVC投資の最新トレンドを踏まえて、日本のスタートアップ市場の現在地と今後の展望を考えてみたい。

アジアのマクロ環境を俯瞰する

各国の証券市場を理解するには、まず基盤となるマクロ経済とデジタル環境を押さえておく必要がある。アジア主要5カ国を比較すると、こうなる [1] [2] [3] [4]。

Prompted by myself. Researched by Manus AI. 2026.0418

※日本のVC投資額は「Japan Startup Finance 2025(Speeda)」に従い、狭義のVCによる投資額のみを記載。総資金調達額(VC・事業法人・金融機関・海外法人等合計)は8,840億円(約56億ドル)。他国のVC投資額は各国のスタートアップデータベースおよびCrunchbase等に基づく推計値。

シンガポールは人口わずか620万人だが、1人当たりGDPは$88,447(約1,390万円: ¥157/$USD, 以下同様に計算)。東南アジアのVC投資の91%(約49億ドル)を吸収する「ハブ」として機能している。ユニコーン18社。小さな国が圧倒的な存在感を示している。

日本はGDP約4兆ドル(約628兆円)、スタートアップへの投資額も約56億ドルとアジア有数の規模だ。しかし、ユニコーンはたったの8社。経済規模に対して明らかに少ない。スタートアップが「メガベンチャー」へスケールする過程に、構造的な課題があることは明白だ。

インドネシア、マレーシア、タイは、インターネット普及率こそ急速に伸びているが、1人当たりGDPはまだ成長途上。VC投資も低迷している。これらの国では、テック系スタートアップよりも、既存産業で確実に利益を出せる企業が好まれる傾向が強い。

東証グロース市場の「厚み」

マクロ環境の違いは、各国の「新興企業向け証券市場」の構造にそのまま反映される。比較すると、東証グロース市場の特徴が浮かび上がってくる [5]。「小粒上場」と揶揄されがちな東証グロース市場だが、東南アジア諸国と比較すると、その優位性が分かる。

Prompted by myself. Researched by Manus AI. 2026.0418

東証グロース市場は時価総額約553億ドルと他国を圧倒しながら、上位10社への集中度は25.9%と低い。一部のメガベンチャーに依存せず、多様なセクターの企業群で支えられている「厚みのある市場」だ。

シンガポール(SGX Catalist)は集中度52.0%。少数の企業が市場を牽引している。また、SGXの主力プレイヤーは、REIT(不動産投資信託)やメガバンクなど「安定した高配当」を好む資金だ。そのため、Amazonのように「利益をすべて成長投資に回し、長期間赤字を掘り続ける」というSaaSやディープテック特有のモデルは、SGXの投資家からは全く評価されない(敬遠される)。

数年前、シンガポールの友人から聞いた話とも一致している。彼が言うには「FinTechと定義するよりも、(従来型の)Financial Serviceと自社を定義した方が投資家に安心してもらえる」らしい。

マレーシアやタイでは、テクノロジー企業よりも消費財やインフラ系の中堅企業が上位を占める。新興国のマクロ環境では、投資家が「将来の成長性」よりも「現在の収益性」を重視せざるを得ないからだ。

東証グロース市場が直面する2つの「構造的課題」

他国と比較して規模も分散性も圧倒的な東証グロース市場だが、足元は厳しい。日経平均の力強い上昇とは裏腹に、グロース市場は低迷期を迎えている。この「二極化」には、2つの構造的理由がある [6]。

1つ目は、マクロ環境の激変による資金逃避。 地政学リスクの高まりやグローバルな金利上昇への警戒から、機関投資家は流動性の低い小型グロース株を避け、大型株(プライム市場)へ資金をシフトさせている。

2つ目は、東証による上場維持基準の厳格化。 周知のとおり、「上場後5年以内に時価総額100億円」というルールが導入され、かつての「小粒上場」が実質的に許容されなくなった。IPOのハードルが急激に上がり、2024年から2025年にかけてIPO件数が激減する「IPOの冬」が到来している。

「AI」一強のグローバル投資環境

グローバルに目を向けると、さらに劇的な変化が起きている。

サンブリッジ時代からの知り合いのKeith Teareの妻、Gené Teare(Crunchbase News’ senior data editor)によるCrunchbaseの最新レポートによると、2026年Q1のグローバルVC投資総額は過去最高の3,000億ドルに達した [7]。

しかし、その内訳は極端だ。全VC投資額の「80%(2,420億ドル)」がAI関連企業に集中。さらに驚くべきことに、そのうちの65%(1,880億ドル)が、OpenAI($122B)、Anthropic($30B)、xAI($20B)、Waymo($16B)という米国のたった4社に独占されている。

国別で見ても、米国企業が全体の83%(2,500億ドル)を占有。まさに「AI一強」「米国一強」のWinner-takes-allだ

内向きとの決別。”United Characters of Japan” への挑戦

この「米国AI一強」のグローバル環境と、国内市場の基準厳格化という逆風の中で、日本のスタートアップ・エコシステムが生き残る道はどこにあるのか?

僕は「圧倒的な内向き志向からの脱却」と「多様性の受容」が必要だと思う。

現在、日本の証券市場は極めてドメスティックな状態に陥っている。2026年4月現在、東証全体(3,924社)に占める外国企業の数はわずか「5社」だ [8]。プライム1社、スタンダード2社、グロース2社。1990年のピーク時には125社の外国企業が上場していたから、35年間で96%減。ほぼ絶滅である。

Claude Opus 4.6にその原因を質問すると、以下の回答だった。ある意味、外国企業にとっても、東証にとっても、合理的ではある。
1. そもそも「重複上場」モデルの限界
2. ITの進展で重複上場の意味が消失
3. 日本語の壁 ── 開示・IR・アナリストカバレッジ
4. 日本の投資家が外国株を買わない
5. 東証の誘致姿勢の後退
6. 為替リスクと円の長期的な不安定さ

NYSEやNASDAQ、London証券取引所に上場している銘柄が、高いコストを払って東証に重複上場する意味は無くなったということだ。一方、日本企業は、NYSEやNASDAQに重複上場しているケースが多く、証券市場の実力を物語っている。

それどころか、日本で6,500万人以上が使っている決済サービスのPayPay」ですら、日本の証券取引所を「素通り」してNASDAQに行った。外国企業が東証から去っていくだけでなく、日本発の企業までもが東証を選ばない。

一方、米国のNYSEには530社以上の国際企業が上場し [9]、NASDAQには1,500社を超える外国企業がいる [10]。 プライム市場がNYSEやNASDAQと直接競争するのは、ほぼ不可能だろう。しかし、素人考えかもしれないが、新興企業向けのグロース市場であれば、東証が本気になれば、東南アジアをはじめとする海外の新興企業を呼び込むことは十分に可能なはずだ。

事実として、僕が2012年、初めてシンガポールを訪れ、参加したEchelonというスタートアップ向けカンファレンスには、当時の東証マザーズの引受担当者がブースを出し、シンガポールや香港と、アジアのスタートアップの誘致を競っていた。しかし、いつの間にかそうした動きは消え、市場は再び「内向き」に閉じてしまった。

東南アジアの有望な新興企業を日本の証券市場に呼び込むには、英語での審査体制の構築、英語でのアナリストレポートの提供、英語から日本語への翻訳・通訳を伴うIR活動の支援が不可欠だ。最初はペイしないだろう。ビジネスとして成立するまでには、10年単位の地道な努力が必要かもしれない。でも、人口減少が確実な日本で、「日本語」でしかビジネスが完結しない証券市場のままでは、「金融」という本来、グローバルであるべき産業の中で、新興市場のグローバル化など実現できるはずがない。

その根底には、日本が単一民族国家であり、母国語が日本語であるという「ハンディキャップ」への自覚が、圧倒的に不足しているという問題がある。

僕は以前、ベルリン発のスタートアップ「Infarm」に投資し、日本法人を経営していた。Infarmは約1,000人の従業員が50〜60カ国の国籍で構成される、極めてdiversified & globalizedな組織だった。ドイツで創業したにもかかわらず、創業者は3人ともイスラエル出身。ドイツ人比率は30%未満、英語ネイティブも20〜30%程度だったが、社内公用語は当然「英語」だった。

こういう環境を経験すると、全員が日本人で日本語しか話さない日本の典型的なスタートアップは、率直に言って「50年前に戻って白黒テレビを見ている」ような感覚に陥る。

ベルリンの公立インターナショナルスクールでは、17カ国籍の子どもたちが共に学び、各国の郷土料理を振る舞う学園祭が行われている。こうした「多様性に富む環境」で育った子どもたちは、自然と異文化理解力やコミュニケーション能力を身につける。「相手は自分とは異なる」ことを前提として向き合う。周囲が全員日本人という環境で育った子どもたちとは、18歳になった時に見えている世界がまるで違う。

日本でこの環境を根本から変えることは至極困難だ。しかし、だからと言って何もしなければ、それは「座して死を待つ」ことと同義だろう。

実例がある。ラグビーの日本代表には多くの外国出身選手が所属し、リーチ・マイケル選手がキャプテンを務めていた。それに対して文句を言う日本人はいなかった。ビジネスや金融の世界でも、全く同じであるべきだ。

多様な「キャラクター」── 国籍も文化も専門性も異なる個性ある人材たち ── が日本というフィールドで融合する “United Characters of Japan”。日本独自の強み(製造業の基盤やロボティクスなど)と、世界中の多様なタレントや資本が出会い、化学反応を起こす場所。

これこそが、「AI一強」の米国に対抗し、日本のスタートアップ・エコシステムがグローバルで存在感を発揮するための、唯一にして最大の挑戦である。

References

[1] World Bank. (2024). World Development Indicators: GDP and GDP per capita. [2] INITIAL Inc. / STARTUP DB. (2026). Japan Startup Finance 2025 Annual Report. [3] Hurun Research Institute. (2025). Global Unicorn Index 2025. [4] International Telecommunication Union (ITU). (2024). Percentage of Individuals using the Internet. [5] Manus AI. (2026). アジア主要新興企業向け株式市場の比較分析レポート. [6] Manus AI. (2026). 東京証券取引所グロース市場の今後の展望と構造的課題. [7] Crunchbase News. (2026). Q1 2026 Shatters Venture Funding Records As AI Boom Pushes Startup Investment To $300B. [8] Japan Exchange Group (JPX). (2026). Number of Listed Companies/Shares. [9] New York Stock Exchange (NYSE). (2026). International Listings. [10] Ritter, J. R. (2026). The Number of Operating Companies Listed on Nasdaq. University of Florida.

東証グロース市場トップ20:2025〜2026年を振り返る。

僕は、いわゆるビットバレーと言われた時代に起業した人間の一人だ。

旧東証マザーズ(現グロース市場)に上場していた時価総額上位のスタートアップには、サイバーエージェントDeNAmixiなど、僕と同じ時代に創業された会社が名を連ねていた。しかし、彼らはすでにプライム市場へと移籍している

東証がいわゆる「小粒上場」の弊害を是正すべく、上場維持基準をIPO後5年で「100億円以上」としたのは周知の事実である。では、今、グロース市場ではどんなスタートアップが存在感を放っているのか?

2026年3月31日時点の時価総額上位20社をピックアップし、時価総額と営業利益の増減を分析してみた。これが、なかなか興味深かった。僕たちの時代とは打って変わって、インターネット系企業やSaaS系企業の存在感が薄れている。

個別の企業の話に入る前に、まず彼らが置かれている市場の「不都合な真実」と向き合っておく必要がある。

※為替レートは三菱UFJ銀行TTMレートを使用。2025年3月31日時点:1USD=149.52円、2026年3月31日時点:1USD=159.88円。

大局観:グロース市場の不振

東証グロース市場は長らく、高成長スタートアップの主要な上場の場として位置づけられてきた。しかし、プライム市場・スタンダード市場と比較したとき、ご存じのとおり、この2年間で憂慮すべき乖離が生じている。

2024年1月を基準(=100)として、2026年3月31日までの時価総額累計変化を見ると、興味深い事実が浮かび上がる(出所:JPX時価総額推移データ)。

グロース市場の累計変化率+27.7%は、一見すると健闘しているように映る。しかし、その推移を追うと話は変わってくる。2024年初頭に伸長率でプライムを上回り、2025年半ばには約+38%に達するピークを迎えたものの、2025年後半から急反転した。一方のプライム市場は2025年半ば以降に加速し、2026年初頭にはグロースを逆転している。

絶対値で見れば、その差はさらに際立つ。

グロース市場の前年比成長率は13.7%。プライム市場の28.5%と大きく差が開いた。 上場603社を擁するグロース市場全体の時価総額は**8兆8,400億円(約553億USD)**に過ぎず、プライム市場のわずか約0.75%に相当する。 この構造的なアンバランスは、投資家心理の根本的な変化を映し出している——資金は「成長の物語」から、実証済みのスケーラブルな収益性を持つ企業へと移動しつつある。

グロース市場の上場1社あたり平均時価総額は、依然として小さい。

こうした市場全体の不振という逆風の中で、以下にプロファイルするトップ20社は、厳しいグロース株環境に打ち勝った、あるいは少なくとも踏みとどまった精鋭たちだ。

時価総額トップ20(2026年3月31日時点)

以下のテーブルは、2026年3月31日時点における東証グロース市場の時価総額上位20社を、1年前の評価額と比較してランキングしたものだ。

なお、PowerX・HUMAN MADE・Northsandの3社は2025年後半に上場したため、2025年3月時点では未上場だった。

評価額の主なポイント

不動の首位。TRIALホールディングス(141A) は首位の座を盤石にした。時価総額はほぼ倍増し5,154億円(約32.2億USD)超に達しており、小売テック事業における継続的な収益改善がその原動力だ。

新興勢力の爆発的成長。BuySell Technologies(+133.3%)Next Generation Technology Group(+162.2%)QPS Holdings(+273.8%) は驚異的な評価額成長を示した。それぞれ強い業績モメンタムと、リユース、AIインフラ、衛星技術をめぐる投資家の期待感の拡大が追い風となっている。

IPOの存在感。 2025年後半に上場したPowerX・HUMAN MADE・Northsandの3社は、デビューと同時にトップ20入りを果たした。グロース市場全体が選別的になっている中でも、説得力あるIPOストーリーには依然として市場が反応することを示している。

かつての覇者たちの大幅修正。freee(▲42.4%)GENDA(▲48.2%)COVER Corporation(▲44.2%) はいずれも大幅な時価総額の下落を経験した。投資家が「とにかく成長」という物語から離れつつある、より広い潮流の反映だ。GENDAの場合、営業利益のわずかな減少に加え、度重なる株式希薄化への懸念が重なり、時価総額の48%暴落という結果を招いた。

営業利益・利益率の分析

評価額はストーリーの半分に過ぎない。以下のテーブルは、各社の直近完結事業年度と前年度の営業利益・営業利益率を比較したものだ。

※各社の決算期はまちまちであり、「最新FY」とは掲載時点で最も直近の完結事業年度を指す。

収益性の主なポイント

収益性への転換点。freee(4478) は歴史的な節目を迎えた——83.9億円(約5,600万USD)の営業損失から、6.1億円(約400万USD)の黒字転換を果たした。にもかかわらず、市場の反応は急激な売り込みだった。黒字化の規模がアナリスト予想を大きく下回り、今後のガイダンスも緩やかな利益率改善にとどまることが嫌気されたのだ。このエピソードは、グロース市場が現在直面している本質的な課題を象徴している。黒字化するだけでは、もはや十分ではない。その速度と規模も、高まる期待に応えなければならない。

利益率トップクラス。HUMAN MADE(456A) は営業利益率31.7%という突出した数字を叩き出しており、圧倒的なブランド力と価格設定力を示している。Northsand(446A)LAホールディングス(2986) も20%超の高い利益率を維持しており、リスクオフ環境でも高収益ビジネスモデルが機能することを証明している。

ディープテックはキャッシュを燃やし続ける。 宇宙・衛星系のAstroscale(186A)・Synspective(290A)、そしてバイオテクのSanBio(4592)は、いずれも大幅な営業損失を計上し続けている。グロース市場の二極化がより鮮明になっていることを示すデータだ——一方では高収益のコンシューマー/ソフトウェアビジネス、他方では資本集約型のフロンティア・テックベンチャー。

利益と評価額の相関が強まる。MTGの225.4%という営業利益急増 は、時価総額118.1%増と直結している。一方、GENDAの小幅な営業利益減 は、株式希薄化への懸念と相まって、時価総額48.2%の崩落を招いた。売上成長を最終利益に転換できない企業に対して、市場の目はますます厳しくなっている。

まとめ:岐路に立つグロース市場

2026年のグロース市場は、「重大な転換点」を迎えている。 市場全体のデータが示すとおり、前年比の成長率はプライム市場の28.5%に対し、わずか13.7%にとどまる。この相対的な不振は、投資家心理の構造的な変化を反映している——資金は、実証済みのスケーラブルな収益性を持つ企業へと流れている。そしてグロース市場は、その定義を踏まえると、まだそのラインを超えていない企業が多く残っている。

そうした厳しい環境の中で、今回プロファイルしたトップ20社は多様なスペクトルを形成している。一方の極には、TRIALホールディングス、MTG、BuySell Technologiesのような企業がいる——規律ある実行力と力強い利益成長が、リスク回避の市場においても卓越したリターンをもたらすことを証明した。もう一方の極には、freee・GENDA・COVER Corporationのようなかつての市場の寵児がいる——投資家が収益化タイムラインについて期待値を修正した結果、評価が急激に見直された。

今年のデータが伝える核心的なメッセージは明確だ。今の市場では、「成長しているだけ」はもはや投資テーゼとして成立しない。 日本のスタートアップエコシステムの次の章を定義するのは、トップラインの成長と意味のある利益率改善を両立させ、そのトラジェクトリーを市場に明確に伝えられる企業だ。

では、それを実現するためには、何が必要か? 国内市場における伸び代を徹底的に追求することは、そのひとつだろう。但し、米中の熾烈な「AI 覇権争い」、縮みゆく日本の人口、そして昨今の地政学的リスクを考えると、日本市場に安住していては、中長期的な成長は覚束ないだろう。


次回予告:「大いなる乖離——なぜグロース市場は頭打ちになり、プライムは急伸したのか」

2025年前半、日本の東証グロース市場は楽観ムードに包まれていた。しかし後半、足元は静かに崩れ始めていた。一方のプライム市場は、「高市政権」が掲げる積極財政という追い風を得て、着実に史上最高値へと上昇していった。この鮮烈な乖離を生んだのは何か? 次号では、2025年の日本株市場の地形を塗り替えた「3つのショックと1つのユーフォリア」を解剖する——トランプ関税ショック、日銀の歴史的な金利正常化、AIインフラブームの第2波、そして「高市トレード」。マクロの力学が、企業ファンダメンタルズではなく、日本株投資のルールを書き換えたナラティブである。


お読みいただきありがとうございます。今後も日本のスタートアップおよびパブリックマーケットエコシステムに関するインサイトをお届けしていきます。お楽しみに

OpenAI のIPOは何を物語っているのか?

僕が物心ついた頃、テレビはちょうど「白黒」から「カラーテレビ」に移行する時期だった。僕が日頃から接している武蔵野大学アントレプレナー学部(通称:武蔵野EMC=Entrepreneurship Musashino Campus)の学生たちにこんな話をすると、「平石さん、いつの時代に生まれたんですか?」という質問が飛んで来そうだ。

昭和に生まれた僕にとって、祖父は「明治」生まれで、時代が2つ前だった。令和生まれではないにしても、現在、18-23歳ぐらいの若者にとって、「昭和」は古(いにしえ)の時代だろう。

ところで、人口減、人手不足に悩まされている日本では、「AI = 人間の仕事を奪う」という悲観的なナラティブよりも、「AI = 生産性の劇的な向上」というナラティブの方が声が大きいような気がする。少なくとも僕の周囲では、AI 脅威論を唱える人はあまり見かけない。

ところが意外にも「AI 先進国のアメリカ」では、「AI 脅威論」が幅を利かせているらしい。例えば、今年3月27日(何と、僕が人生で最初の会社を設立した日だ!)に「The AI Doc: Or How I Became an Apocaloptimist(AIドクター:あるいは私が終末論的楽観主義者になった経緯)」という映画が公開されている。

良いニュースはビジネスにならないが(視聴率を稼げない)、悲観的なニュースは「カネ」になるという。そういうことなのだろう。これが1つ目のナラティブだ。

Image: Sam Altman from YouTube

2つ目のナラティブの「主導者」は「企業」である。具体的には、OpenAIだ。

OpenAI は、今年中にもIPOをすると言われていることはご存じだろう。

ご存じの方も多いだろうが、OpenAI は今週、「1日7万人の視聴者」を持つテック番組「TBPN」を買収した。この番組は、OpenAIの「Chief Political Operative(政界工作の中心人物)」であり、仮想通貨スーパーPAC:アメリカの選挙に影響を与えるための資金プール(政治団体)「Fairshake」を創設した「Chris Lehane(クリス・レハネ氏)」の「戦略」部門の管轄下に置かれ、広報部門の管轄下にはない。

シリコンバレーのインターネット黎明期から現在までを見続けてきたテックジャーナリスト兼投資家の「Om Malik氏」は「You don’t put an editorially independent media property under your political operative.(編集上の独立性を持つメディアを、政治工作員の管轄下に置くべきではない。)」と批判している。

では、OpenAI は何故、この時期にTBPNを買収したのか? 

同社は今年3月31日、US$852B(Post-Money Valuation. 160円/ドル換算で約136兆円)の評価額で、US$122B(同約19.5兆円)を調達Amazonは、OpenAI に対して、最大$50B($15B + 条件付き$35B)を投資し、OpenAI からは、AWSとの巨大なクラウド契約(〜$100B)が発表されている。

更に興味深いのは、ARK Investment のETFに「OpenAI 株」が組み入れられ、個人投資家ETFを通じてOpenAI 株間接的に保有可能になったことだ。

金融業界の方やETFに投資している方々には説明は不要だろうが、ETFは通常、上場株のみに投資する。注目されるのは、ARK Investmentは、OpenAI という世界的に注目を集めている巨大未公開企業の株式をETFに組み入れたことだ

Image: prompted by myself, and created by Manus

OpenAI は未公開の企業であり、おカネがあれば誰でも投資できるわけではない。OpenAI は「OpenAI Foundation(非営利財団)」の傘下に「OpenAI Group PBC (Public Benefit Corporation)」があり、ChatGPT等の事業はOpenAI Group PBCが行っている。

OpenAI Group PBCの株式の売買には、取締役会の承認が必要である。また、OpenAI等の有望スタートアップに投資しているVCファンドへの投資は「Accredited Investor(適格投資家)」にしか許されておらず、一般的なRetail Investor(個人投資家)は、創業者と個人的な繋がりがあり、創業時に投資できるなどの極めて限定された例を除き、OpenAI, Anthropic, SpeceX等の超有望スタートアップに投資することは不可能に近い。

Image: Cathie Wood by Google

そのギャップを埋めているのが Cathie Wood 率いるARK Investment等であり、「個人投資家にOpenAI等、将来有望な未上場テックスタートアップのナラティブを届ける役割(個人投資家の需要創造)」を担っている

もうひとつ付け加えるなら、OpenAI は、巨大銀行シンジケートから「約US$4.7B(同7,520億円)」の融資枠(現時点では未使用)を取り付けていることを挙げることができる。「ChatGPT」によると、そのシンジケートには、JPMorgan Chase, Goldman Sachs, Citigroup, Morgan Stanley等の米投資銀行に加えて、SMBC(三井住友銀行)もシンジケートに加わっているらしい。SMBCもそうなのかは知らないが、上記の投資銀行は、OpenAI のIPO主幹事候補だろう。IPO時の幹事団に入るためのエントリーチケットだ。

これらの動きはそれぞれ独立したものではなく、Om Malik氏が「The New Announcement Economy」というブログで言及しているとおり、「distributing the story」ということになる。

Sam Altman による、IPOに向けての用意周到な需要創出戦略」ということだ。

最後、3つ目のナラティブは2つ目の後半で言及したとおり、「金融機関」が「個人投資家」に売り込んでいる「プライベート市場(未公開市場)」への「アクセス権」だ。

Fundrise(ファンドライズ)という、2012年にワシントンD.C.で設立されたフィンテック企業がある。同社は、「機関投資家だけが参加できてきたプライベートアセット(未公開資産)への投資を、一般個人にも開放する」 ことをミッションとしている。

ビジネスモデルの核心は「プライベート市場の民主化」と「テクノロジー」の組み合わせである。

上述のとおり、VCファンドへの投資は「適格投資家」に限定されているが、Fundrise はこれをアプリとウェブプラットフォームで $10(約1,500円)から投資できる形に変え、年間管理手数料(1.85%)を主な収益源とするモデルを構築している。キャリードインタレスト(成功報酬)を取らない点も特徴だ。

Image: Dario Amodei from YouTube

Fundrise は2022年7月、「Innovation Fund」を設立し、2026年3月19日、 NYSE に上場させた。OpenAI、Anthropic、SpaceX、Databricks といった、機関投資家やVCしかアクセスできない未上場のトップテック企業の株式を、NYSE 上場の閉鎖型ファンド(Closed-End Fund)という形で、一般個人が売買できるようにしたものである。

ティッカーシンボルは「VCX」。コンセプトは「The public ticker for private tech」。

VCXは上場後3日間で、時価総額が約30倍に急騰した。上場直後から個人投資家の熱狂的な買いが入り、わずか7営業日でティッカー価格は $575 に達した(上場時比 +1,840%)。しかし、ファンドの純資産価値(NAV)は $18.26/株 に過ぎず、株価はNAVの約31倍 というあり得ない乖離が生じた。

その後、ショートセラーの Citron Research が「93%の下落リスクがある」とするレポートを公表し、株価は1日で45%急落($262)。現在は $113〜130 前後で推移しており、それでも NAV の約6〜7倍という高いプレミアムがついたままだ。

その理由はテクニカルには、色々と説明できる。例えば、VCX は閉鎖型ファンド(Closed-End Fund)」という構造を持っており、通常のETFと異なり、ファンドの口数(シェア数)が固定されているため、需要が増えても新株を発行して価格を NAV に戻す裁定機能が働かないとか、上場時の投資家には6か月のロックアップが設定されている等あるが、本質的な理由は「(プライベート市場への)アクセス権というナラティブに熱狂するリテール投資家の行動」だ。

日本では、東証がグロース市場の上場維持基準をIPO後5年以内に「100億円」に設定したことで、スタートアップのエコシステムが大きく変わろうとしている。時価総額30-50億円でのIPOが可能だった時代のPlaybook は、既に過去のものになった。それを受けてか、2025年に設立されたVCファンド数は微増したものの、ファンドとしての調達金額は2023年比で「50%未満」と大きく減少している。

世界の投資対象がほぼ「AI」一色に染まった今、その中心は米国と中国であり、LLM等のインフラでは日本は勝負にならない。日本の勝ち筋を真剣に考える必要がある。

注釈:このエントリーは、僕が敬愛するKeith Teare が発行するThatWasTheWeekというニュースレターで解説されていた記事をもとに、僕の興味に基づき、Manus AI (from Meta)、ChatGPT、Claudeを駆使して調査分析し、執筆した。毎回長編なので読むのは大変だが、興味がある方は是非、Keith のニュースレターへの登録をお勧めする。