東証グロース市場トップ20:2025〜2026年を振り返る。

僕は、いわゆるビットバレーと言われた時代に起業した人間の一人だ。

旧東証マザーズ(現グロース市場)に上場していた時価総額上位のスタートアップには、サイバーエージェントDeNAmixiなど、僕と同じ時代に創業された会社が名を連ねていた。しかし、彼らはすでにプライム市場へと移籍している

東証がいわゆる「小粒上場」の弊害を是正すべく、上場維持基準をIPO後5年で「100億円以上」としたのは周知の事実である。では、今、グロース市場ではどんなスタートアップが存在感を放っているのか?

2026年3月31日時点の時価総額上位20社をピックアップし、時価総額と営業利益の増減を分析してみた。これが、なかなか興味深かった。僕たちの時代とは打って変わって、インターネット系企業やSaaS系企業の存在感が薄れている。

個別の企業の話に入る前に、まず彼らが置かれている市場の「不都合な真実」と向き合っておく必要がある。

※為替レートは三菱UFJ銀行TTMレートを使用。2025年3月31日時点:1USD=149.52円、2026年3月31日時点:1USD=159.88円。

大局観:グロース市場の不振

東証グロース市場は長らく、高成長スタートアップの主要な上場の場として位置づけられてきた。しかし、プライム市場・スタンダード市場と比較したとき、ご存じのとおり、この2年間で憂慮すべき乖離が生じている。

2024年1月を基準(=100)として、2026年3月31日までの時価総額累計変化を見ると、興味深い事実が浮かび上がる(出所:JPX時価総額推移データ)。

グロース市場の累計変化率+27.7%は、一見すると健闘しているように映る。しかし、その推移を追うと話は変わってくる。2024年初頭に伸長率でプライムを上回り、2025年半ばには約+38%に達するピークを迎えたものの、2025年後半から急反転した。一方のプライム市場は2025年半ば以降に加速し、2026年初頭にはグロースを逆転している。

絶対値で見れば、その差はさらに際立つ。

グロース市場の前年比成長率は13.7%。プライム市場の28.5%と大きく差が開いた。 上場603社を擁するグロース市場全体の時価総額は**8兆8,400億円(約553億USD)**に過ぎず、プライム市場のわずか約0.75%に相当する。 この構造的なアンバランスは、投資家心理の根本的な変化を映し出している——資金は「成長の物語」から、実証済みのスケーラブルな収益性を持つ企業へと移動しつつある。

グロース市場の上場1社あたり平均時価総額は、依然として小さい。

こうした市場全体の不振という逆風の中で、以下にプロファイルするトップ20社は、厳しいグロース株環境に打ち勝った、あるいは少なくとも踏みとどまった精鋭たちだ。

時価総額トップ20(2026年3月31日時点)

以下のテーブルは、2026年3月31日時点における東証グロース市場の時価総額上位20社を、1年前の評価額と比較してランキングしたものだ。

なお、PowerX・HUMAN MADE・Northsandの3社は2025年後半に上場したため、2025年3月時点では未上場だった。

評価額の主なポイント

不動の首位。TRIALホールディングス(141A) は首位の座を盤石にした。時価総額はほぼ倍増し5,154億円(約32.2億USD)超に達しており、小売テック事業における継続的な収益改善がその原動力だ。

新興勢力の爆発的成長。BuySell Technologies(+133.3%)Next Generation Technology Group(+162.2%)QPS Holdings(+273.8%) は驚異的な評価額成長を示した。それぞれ強い業績モメンタムと、リユース、AIインフラ、衛星技術をめぐる投資家の期待感の拡大が追い風となっている。

IPOの存在感。 2025年後半に上場したPowerX・HUMAN MADE・Northsandの3社は、デビューと同時にトップ20入りを果たした。グロース市場全体が選別的になっている中でも、説得力あるIPOストーリーには依然として市場が反応することを示している。

かつての覇者たちの大幅修正。freee(▲42.4%)GENDA(▲48.2%)COVER Corporation(▲44.2%) はいずれも大幅な時価総額の下落を経験した。投資家が「とにかく成長」という物語から離れつつある、より広い潮流の反映だ。GENDAの場合、営業利益のわずかな減少に加え、度重なる株式希薄化への懸念が重なり、時価総額の48%暴落という結果を招いた。

営業利益・利益率の分析

評価額はストーリーの半分に過ぎない。以下のテーブルは、各社の直近完結事業年度と前年度の営業利益・営業利益率を比較したものだ。

※各社の決算期はまちまちであり、「最新FY」とは掲載時点で最も直近の完結事業年度を指す。

収益性の主なポイント

収益性への転換点。freee(4478) は歴史的な節目を迎えた——83.9億円(約5,600万USD)の営業損失から、6.1億円(約400万USD)の黒字転換を果たした。にもかかわらず、市場の反応は急激な売り込みだった。黒字化の規模がアナリスト予想を大きく下回り、今後のガイダンスも緩やかな利益率改善にとどまることが嫌気されたのだ。このエピソードは、グロース市場が現在直面している本質的な課題を象徴している。黒字化するだけでは、もはや十分ではない。その速度と規模も、高まる期待に応えなければならない。

利益率トップクラス。HUMAN MADE(456A) は営業利益率31.7%という突出した数字を叩き出しており、圧倒的なブランド力と価格設定力を示している。Northsand(446A)LAホールディングス(2986) も20%超の高い利益率を維持しており、リスクオフ環境でも高収益ビジネスモデルが機能することを証明している。

ディープテックはキャッシュを燃やし続ける。 宇宙・衛星系のAstroscale(186A)・Synspective(290A)、そしてバイオテクのSanBio(4592)は、いずれも大幅な営業損失を計上し続けている。グロース市場の二極化がより鮮明になっていることを示すデータだ——一方では高収益のコンシューマー/ソフトウェアビジネス、他方では資本集約型のフロンティア・テックベンチャー。

利益と評価額の相関が強まる。MTGの225.4%という営業利益急増 は、時価総額118.1%増と直結している。一方、GENDAの小幅な営業利益減 は、株式希薄化への懸念と相まって、時価総額48.2%の崩落を招いた。売上成長を最終利益に転換できない企業に対して、市場の目はますます厳しくなっている。

まとめ:岐路に立つグロース市場

2026年のグロース市場は、「重大な転換点」を迎えている。 市場全体のデータが示すとおり、前年比の成長率はプライム市場の28.5%に対し、わずか13.7%にとどまる。この相対的な不振は、投資家心理の構造的な変化を反映している——資金は、実証済みのスケーラブルな収益性を持つ企業へと流れている。そしてグロース市場は、その定義を踏まえると、まだそのラインを超えていない企業が多く残っている。

そうした厳しい環境の中で、今回プロファイルしたトップ20社は多様なスペクトルを形成している。一方の極には、TRIALホールディングス、MTG、BuySell Technologiesのような企業がいる——規律ある実行力と力強い利益成長が、リスク回避の市場においても卓越したリターンをもたらすことを証明した。もう一方の極には、freee・GENDA・COVER Corporationのようなかつての市場の寵児がいる——投資家が収益化タイムラインについて期待値を修正した結果、評価が急激に見直された。

今年のデータが伝える核心的なメッセージは明確だ。今の市場では、「成長しているだけ」はもはや投資テーゼとして成立しない。 日本のスタートアップエコシステムの次の章を定義するのは、トップラインの成長と意味のある利益率改善を両立させ、そのトラジェクトリーを市場に明確に伝えられる企業だ。

では、それを実現するためには、何が必要か? 国内市場における伸び代を徹底的に追求することは、そのひとつだろう。但し、米中の熾烈な「AI 覇権争い」、縮みゆく日本の人口、そして昨今の地政学的リスクを考えると、日本市場に安住していては、中長期的な成長は覚束ないだろう。


次回予告:「大いなる乖離——なぜグロース市場は頭打ちになり、プライムは急伸したのか」

2025年前半、日本の東証グロース市場は楽観ムードに包まれていた。しかし後半、足元は静かに崩れ始めていた。一方のプライム市場は、「高市政権」が掲げる積極財政という追い風を得て、着実に史上最高値へと上昇していった。この鮮烈な乖離を生んだのは何か? 次号では、2025年の日本株市場の地形を塗り替えた「3つのショックと1つのユーフォリア」を解剖する——トランプ関税ショック、日銀の歴史的な金利正常化、AIインフラブームの第2波、そして「高市トレード」。マクロの力学が、企業ファンダメンタルズではなく、日本株投資のルールを書き換えたナラティブである。


お読みいただきありがとうございます。今後も日本のスタートアップおよびパブリックマーケットエコシステムに関するインサイトをお届けしていきます。お楽しみに

OpenAI のIPOは何を物語っているのか?

僕が物心ついた頃、テレビはちょうど「白黒」から「カラーテレビ」に移行する時期だった。僕が日頃から接している武蔵野大学アントレプレナー学部(通称:武蔵野EMC=Entrepreneurship Musashino Campus)の学生たちにこんな話をすると、「平石さん、いつの時代に生まれたんですか?」という質問が飛んで来そうだ。

昭和に生まれた僕にとって、祖父は「明治」生まれで、時代が2つ前だった。令和生まれではないにしても、現在、18-23歳ぐらいの若者にとって、「昭和」は古(いにしえ)の時代だろう。

ところで、人口減、人手不足に悩まされている日本では、「AI = 人間の仕事を奪う」という悲観的なナラティブよりも、「AI = 生産性の劇的な向上」というナラティブの方が声が大きいような気がする。少なくとも僕の周囲では、AI 脅威論を唱える人はあまり見かけない。

ところが意外にも「AI 先進国のアメリカ」では、「AI 脅威論」が幅を利かせているらしい。例えば、今年3月27日(何と、僕が人生で最初の会社を設立した日だ!)に「The AI Doc: Or How I Became an Apocaloptimist(AIドクター:あるいは私が終末論的楽観主義者になった経緯)」という映画が公開されている。

良いニュースはビジネスにならないが(視聴率を稼げない)、悲観的なニュースは「カネ」になるという。そういうことなのだろう。これが1つ目のナラティブだ。

Image: Sam Altman from YouTube

2つ目のナラティブの「主導者」は「企業」である。具体的には、OpenAIだ。

OpenAI は、今年中にもIPOをすると言われていることはご存じだろう。

ご存じの方も多いだろうが、OpenAI は今週、「1日7万人の視聴者」を持つテック番組「TBPN」を買収した。この番組は、OpenAIの「Chief Political Operative(政界工作の中心人物)」であり、仮想通貨スーパーPAC:アメリカの選挙に影響を与えるための資金プール(政治団体)「Fairshake」を創設した「Chris Lehane(クリス・レハネ氏)」の「戦略」部門の管轄下に置かれ、広報部門の管轄下にはない。

シリコンバレーのインターネット黎明期から現在までを見続けてきたテックジャーナリスト兼投資家の「Om Malik氏」は「You don’t put an editorially independent media property under your political operative.(編集上の独立性を持つメディアを、政治工作員の管轄下に置くべきではない。)」と批判している。

では、OpenAI は何故、この時期にTBPNを買収したのか? 

同社は今年3月31日、US$852B(Post-Money Valuation. 160円/ドル換算で約136兆円)の評価額で、US$122B(同約19.5兆円)を調達Amazonは、OpenAI に対して、最大$50B($15B + 条件付き$35B)を投資し、OpenAI からは、AWSとの巨大なクラウド契約(〜$100B)が発表されている。

更に興味深いのは、ARK Investment のETFに「OpenAI 株」が組み入れられ、個人投資家ETFを通じてOpenAI 株間接的に保有可能になったことだ。

金融業界の方やETFに投資している方々には説明は不要だろうが、ETFは通常、上場株のみに投資する。注目されるのは、ARK Investmentは、OpenAI という世界的に注目を集めている巨大未公開企業の株式をETFに組み入れたことだ

Image: prompted by myself, and created by Manus

OpenAI は未公開の企業であり、おカネがあれば誰でも投資できるわけではない。OpenAI は「OpenAI Foundation(非営利財団)」の傘下に「OpenAI Group PBC (Public Benefit Corporation)」があり、ChatGPT等の事業はOpenAI Group PBCが行っている。

OpenAI Group PBCの株式の売買には、取締役会の承認が必要である。また、OpenAI等の有望スタートアップに投資しているVCファンドへの投資は「Accredited Investor(適格投資家)」にしか許されておらず、一般的なRetail Investor(個人投資家)は、創業者と個人的な繋がりがあり、創業時に投資できるなどの極めて限定された例を除き、OpenAI, Anthropic, SpeceX等の超有望スタートアップに投資することは不可能に近い。

Image: Cathie Wood by Google

そのギャップを埋めているのが Cathie Wood 率いるARK Investment等であり、「個人投資家にOpenAI等、将来有望な未上場テックスタートアップのナラティブを届ける役割(個人投資家の需要創造)」を担っている

もうひとつ付け加えるなら、OpenAI は、巨大銀行シンジケートから「約US$4.7B(同7,520億円)」の融資枠(現時点では未使用)を取り付けていることを挙げることができる。「ChatGPT」によると、そのシンジケートには、JPMorgan Chase, Goldman Sachs, Citigroup, Morgan Stanley等の米投資銀行に加えて、SMBC(三井住友銀行)もシンジケートに加わっているらしい。SMBCもそうなのかは知らないが、上記の投資銀行は、OpenAI のIPO主幹事候補だろう。IPO時の幹事団に入るためのエントリーチケットだ。

これらの動きはそれぞれ独立したものではなく、Om Malik氏が「The New Announcement Economy」というブログで言及しているとおり、「distributing the story」ということになる。

Sam Altman による、IPOに向けての用意周到な需要創出戦略」ということだ。

最後、3つ目のナラティブは2つ目の後半で言及したとおり、「金融機関」が「個人投資家」に売り込んでいる「プライベート市場(未公開市場)」への「アクセス権」だ。

Fundrise(ファンドライズ)という、2012年にワシントンD.C.で設立されたフィンテック企業がある。同社は、「機関投資家だけが参加できてきたプライベートアセット(未公開資産)への投資を、一般個人にも開放する」 ことをミッションとしている。

ビジネスモデルの核心は「プライベート市場の民主化」と「テクノロジー」の組み合わせである。

上述のとおり、VCファンドへの投資は「適格投資家」に限定されているが、Fundrise はこれをアプリとウェブプラットフォームで $10(約1,500円)から投資できる形に変え、年間管理手数料(1.85%)を主な収益源とするモデルを構築している。キャリードインタレスト(成功報酬)を取らない点も特徴だ。

Image: Dario Amodei from YouTube

Fundrise は2022年7月、「Innovation Fund」を設立し、2026年3月19日、 NYSE に上場させた。OpenAI、Anthropic、SpaceX、Databricks といった、機関投資家やVCしかアクセスできない未上場のトップテック企業の株式を、NYSE 上場の閉鎖型ファンド(Closed-End Fund)という形で、一般個人が売買できるようにしたものである。

ティッカーシンボルは「VCX」。コンセプトは「The public ticker for private tech」。

VCXは上場後3日間で、時価総額が約30倍に急騰した。上場直後から個人投資家の熱狂的な買いが入り、わずか7営業日でティッカー価格は $575 に達した(上場時比 +1,840%)。しかし、ファンドの純資産価値(NAV)は $18.26/株 に過ぎず、株価はNAVの約31倍 というあり得ない乖離が生じた。

その後、ショートセラーの Citron Research が「93%の下落リスクがある」とするレポートを公表し、株価は1日で45%急落($262)。現在は $113〜130 前後で推移しており、それでも NAV の約6〜7倍という高いプレミアムがついたままだ。

その理由はテクニカルには、色々と説明できる。例えば、VCX は閉鎖型ファンド(Closed-End Fund)」という構造を持っており、通常のETFと異なり、ファンドの口数(シェア数)が固定されているため、需要が増えても新株を発行して価格を NAV に戻す裁定機能が働かないとか、上場時の投資家には6か月のロックアップが設定されている等あるが、本質的な理由は「(プライベート市場への)アクセス権というナラティブに熱狂するリテール投資家の行動」だ。

日本では、東証がグロース市場の上場維持基準をIPO後5年以内に「100億円」に設定したことで、スタートアップのエコシステムが大きく変わろうとしている。時価総額30-50億円でのIPOが可能だった時代のPlaybook は、既に過去のものになった。それを受けてか、2025年に設立されたVCファンド数は微増したものの、ファンドとしての調達金額は2023年比で「50%未満」と大きく減少している。

世界の投資対象がほぼ「AI」一色に染まった今、その中心は米国と中国であり、LLM等のインフラでは日本は勝負にならない。日本の勝ち筋を真剣に考える必要がある。

注釈:このエントリーは、僕が敬愛するKeith Teare が発行するThatWasTheWeekというニュースレターで解説されていた記事をもとに、僕の興味に基づき、Manus AI (from Meta)、ChatGPT、Claudeを駆使して調査分析し、執筆した。毎回長編なので読むのは大変だが、興味がある方は是非、Keith のニュースレターへの登録をお勧めする。