THE REAL PICTURE Vol. 1.1: 日本のスタートアップ、その成長資本の実像。

THE REAL PICTURE Vol. 1.1: 日本のスタートアップ、その成長資本の実像。

2026年7月7日終値ベースの時価総額TOP50。そのIPO前の株主構成(目論見書の株主の状況等)から、日本のスタートアップの「投資家」を読み解く。

※本稿(Vol.1.1)では、調査が可能な範囲で創業者の資産管理会社や個人株主で創業者の身内と判断できる株主を特定し、「創業者主導」の企業を改めて定義し直した。その結果、投資家DNAに、Vol.1から多少の違いが発生している。

1. 問題意識

日本の時価総額上位スタートアップは、ベンチャーキャピタル(VC)の資金で大きくなったのか。創業者の自己資本か。事業会社の戦略出資か。

この問いに答えるため、1990年代後半以降に設立され、新興市場にIPOし、現在も上場している「スタートアップ」を時価総額で上位50社に絞り、そのIPO前の株主構成を分類した。分類軸は「投資家DNA」——その会社を主に誰の資本が支えたか、である。可能な限りIPO目論見書の「株主の状況」という一次情報で確認した。

なお、本レポートで分析しているのは、IPO前の株主構成における「株式保有比率」であり、各社が実際に外部から調達した「金額」ではない。どれだけの株式を外部投資家が保有していたかと、会社が成長過程でいくらの資金を調達したかは、別の指標である。調達金額を軸に分析すれば、また違った景色が見える可能性がある。

「株式保有比率」という観点に基づき、結論を先に述べる。上場企業を「スタートアップ(テクノロジーや新しいビジネスモデルに立脚した事業)」に絞り込み、外部資本を一次情報で測ると、上位はVC・外部資本主導が明確な多数派になる。そしてこの結論は、母集団の定義と、外部資本の測り方——この二つで大きく異なることが分かる。

2. 母集団の定義と除外基準

収録の外形基準は3つ。①現在も上場中、②新興市場IPO(初回上場市場で判定。ただしVCから調達したスタートアップが東証一部に直接上場した場合は例外収録)、③1990年代後半以降の設立を基本とする。

但し、外形基準だけでは不十分だった。新興市場にIPOした企業には、小売・外食・老舗製造・保守業など、事業の性質がスタートアップとは言い難いものが多数含まれる。そこで定性判断を加え、時価総額が高くても次のような企業は除外した。

除外にはいくつかの原則を適用した。事業会社の出資があっても、それが少数の戦略出資で創業者が主導していれば収録する(MonotaRO・マネックス・エムスリー)。尚、GMOペイメントゲートウェイも、村松竜氏が1999年に創業したペイメント・ワンが源流だが、2004年に株式交換でGMOと統合し、上場時は親会社GMOが57%を保有する支配株主であったため、投資家DNAはCorporate VCとした(外部の株式保有比率は約82%)。一方、GMOフィナンシャルHDはGMOの子会社として設立されたため母集団から除外している。PEが既存企業を買った受け皿は除外するが、GENDAのようにファンドとプロ経営者がゼロから新設した企業は収録する。M&A仲介でも、ストライクのようにS venture Lab(大企業×スタートアップのオープンイノベーションM&A)という別次元の事業を持つ場合は残した。

境界は連続的で、明快な線は引けない。それを踏まえて、除外した企業とその理由を明示することが不可欠だと考える。上位を塗り替える規模の企業(ニトリ1.4兆、ベイカレント1兆超)を外している以上、ここがこの分析の生命線である。

3. クロス分析

一次情報で創業者および関係者、外部投資家の株式保有比率をもとに分類すると、Mixed / VC・外部資本主導(※1)が38社(76%)、創業者主導が12社(24%)(内訳:創業者主導10社+楽天+Bootstrap 1社)(※2)となる。

ここでの「創業者主導」の定義は次のとおり。①創業者・インサイダーが支配的持分を持ち、かつ②外部投資家の株式保有比率(VC+CVC+事業会社+エンジェル+金融投資家。役職員・従業員、および地銀・信金など関係金融機関の関係出資は除く)が15%以下(目安)である。論点は「外部からリスクマネーをどれだけ入れたか」であり、VCに限定しない。

創業者主導12社の内訳は、アズーム(4.9%)、チェンジHD(6.7%)、PKSHA Technology(8%)、ZOZO(9%)、弁護士ドットコム(9%)、コロプラ(10.1%)、ジンズHD(10.6%)、ラクス(11.4%)、MTG(11.4%)、GENDA(12%)、GMOインターネットグループ(12.5%、確度低)、楽天グループ(16.4%、例外的に創業者主導と定義)。

日本のトップスタートアップの多数派(76%)は、VC・外部資本主導である。これは驚くにはあたらない。むしろ強調したいのは、残り24%——創業者が支配権を手放さなかった12社——の顔ぶれである。ZOZOのように時価総額1兆円を超えながら創業者主導を貫いた例外が、確かに存在するということだ。

※1:本稿で「Mixed / VC・外部資本主導」とは、Mixed+独立系VC(Independent VC)+CVC(Corporate VC)+外資VC(Foreign VC)+事業会社+エンジェル+金融投資家の合計を指す。「Independent VC」は、金融・事業会社の子会社ではない独立系ファンドが主導する企業に限定した。

※2:「Bootstrap」は、VCからの資金調達がゼロで、創業者・内部関係者の資本と、事業が生み出した営業キャッシュ・フローによって成長した企業を指す。本稿の50社では、ラクス1社のみが該当する。同社のIPO時の外部株主は、ノジックス1.84%とセプテーニ2.21%の合計4.05%(いずれも事業会社)にとどまり、IPOに際する「親引け」後も、創業者を含む経営陣が77.21%を保有していた。なお「親引け」とは、IPOの公募・売出しに際して、発行会社が指定する第三者(取引先・事業提携先など)に、証券会社を通じて株式を優先的に配分することをいう。ラクスの詳細はVol.2で論じる。

ZOZO(スタートトゥデイ)は伊藤忠商事(1.07%)、住友商事(0.76%)、ジャフコ(0.72%)といった事業会社による戦略出資およびVC(ジャフコ)による出資があるが、外部資本比率「9%」のため、「創業者主導」と定義した。

創業者の持株比率の再算定後、外部資本比率の平均は、Pre-1995で49.1%(n=4)、第1世代で46.0%(n=22)、第2世代で41.1%(n=17)、第3世代で45.3%(n=7)となった。旧稿では「世代とともに外部資本が上昇する」という傾向を報告していたが、「身内」を正しく除いた結果、世代間の差はほぼ消失し、明確な上昇トレンドは確認できなくなった。日本のVCエコシステムの成熟度と資本構成の関係は、当初考えていたよりも弱いというのが、再調査後の見立てである。

但し、Pre-1995世代に関しては、スタートアップそのものの絶対数が少なく、本稿の対象としているのは「時価総額TOP50」に含まれる企業という条件が関係しているとも考えられる。

時価総額5,000億円以上の9社(楽天・エムスリー・ZOZO・MonotaRO・サイバーエージェント・GMOペイメントゲートウェイ・メルカリ・カカクコム・IIJ)を除き、1,000〜2,000億円帯のスタートアップの分布を見やすくした拡大版が以下である。創業者主導型(15%線の左)とMixed・独立系VC(中位)、外部45%超の高外部資本群(右)が読み取れる。

「外部資本を多く入れた企業ほど時価総額が高い」という単純な関係は、上位50社の中には見えない。時価総額の中央値は、創業者主導(12社)が約1,552億、Mixed(38社)が約1,423億とほぼ拮抗し、外部資本の多寡では説明できない。むしろ最上位の楽天・ZOZOは、いずれも外部15%以下の創業者主導型である(楽天は外部比率が16.4%と推定しているが、創業者関連の持株比率を正確に確認できなかったことと、三木谷氏主導であることが明確なため、創業者主導と定義している)。

外部資本率15%以下の企業を見ると、共通しているのは、2000年以前(ラクスは2015年上場だが2000年設立)と、社歴が長く、日本におけるスタートアップエコシステムが育まれる前に創業しているケースが約半数となっている。今と比べて外部資本の調達が簡単ではなかったことも影響していると思われ、自ら生み出した営業キャッシュ・フローで成長してきたとも読める。なお、散布図には、TOB・MBOで非公開化したウェルスナビ・ラクスル(後述・一次情報・赤×印)を参考併記した。

3-4. 参考:非公開化した2社 —— ウェルスナビとラクスル

本稿のTOP50は「現在も上場中」の企業に限っている。だが、日本のスタートアップシーンを語るうえで外せない2社が、直近でTOB・MBOにより非公開化した。ウェルスナビ(2025年、三菱UFJ銀行によるTOB)とラクスル(2026年、ゴールドマン・サックス系MBO)である。

両社はいずれも、独立系VCを中心に外部資本を厚く入れて成長した、日本を代表するVC-backedスタートアップである。非公開化時の価値はウェルスナビ約1,161億、ラクスル約1,300億。外部投資家の株式保有比率も一次情報(IPO目論見書の大株主表)で確認でき、いずれも約60%超と高水準である。ウェルスナビは柴山和久氏24.84%に対しSBI・DBJキャピタル・グローバルブレイン等のVC・金融が、ラクスルは松本恭攝氏21.55%に対しWiL・グローバルブレイン・YJ・日本政策投資銀行等のVC・金融が外部の中心を成す。両社とも散布図の右側(外部資本が厚い領域)に位置する。上場維持だけが「成功」ではなく、次の成長に向けて非公開化という出口を選んだ大型スタートアップもまた、外部資本を梃子に成長した——この2社はその代表例である。

4. 主要な発見(仮説レベル)

仮説1:スタートアップに絞り、外部資本を一次情報で測ると、Mixed / VC・外部資本主導(76%)が多数派になる。

仮説2:「創業者主導」の中にも、一定割合の外部資本を受入れているケースが見られる。とりわけB2B・ヘルスケアは事業会社の戦略資本が見られる。

仮説3:世代による外部資本依存の差は、再算定後はほとんど確認できない。但し、今回の対象企業の属性による影響が考えられる。

仮説4:外部資本の比率と時価総額に、単純な正の相関はない。創業時期、事業内容、ビジネスモデルにより、外部資本比率と時価総額の関係が異なる。

5. 含意

最大の含意は二つ。第一に、母集団の定義しだいで結論が反転すること。外形基準だけで機械的に上位を取ると小売・外食・事業会社系が厚みを増し、「VC等の外部資本に頼っていない」像が現れる。定性的に絞り込むと像は反転する。

第二に、「創業者主導(自己資本型)」も、一定割合の外部資本を導入している。

当然のことながら、母集団の属性が結果を大きく左右する。

6. 限界と今後

本稿の分類は仮説レベルである。限界を正直に記す。

・外部投資家の株式保有比率を一次情報(IPO目論見書の株主の状況)で確定できたのが大半だが、IIJ・GMOインターネットの2社は一次情報が取れず、定性判断で分類した。楽天は「クリムゾン系ファンドを創業者の器と判断」しており、外部LPの可能性は残る。

・数値VC%(外部%)は上位帯で欠測が残り、時価総額との定量的相関は限定的である。

・時価総額は数億〜数百億の帯で僅差の入れ替わりが起きる。50位近傍の順位は確定的でない。

データ:各社のIPO目論見書(株主の状況)、2026年7月7日の終値。分類・作図は筆者。株主構成の表記中の人名は敬称を省略した。数値の詳細は筆者作成のスプレッドシート(v5.0)。