それでも諦めない。道は2つある。

東証の100億円ルールは、日本のスタートアップ・エコシステムをどう変えるか?

Crunchbaseによると、米国でシードからシリーズAへの「卒業率」が崩落している。日本でも各ステージ間の間隔は伸びている。表面的には同じように見えても、その原因は、日米で大きく異なる。

2025年、東証はグロース市場の上場維持基準を「10年で40億円」から「5年で100億円」へ改めた。この一手が日本のスタートアップ・エコシステムをどう変えるかを、希望的観測を排して論じてみたい。結論を先に述べるなら、いわゆる「小粒上場」の弊害に対処するために「より過酷なファネル」だけを設置しても、「大きな勝者」という見返りは期待できない。少なくとも5年、いや10年は難しいだろう。

同じ症状、異なる原因。

出発点は、Crunchbaseが報じた米国の異変である。シード調達の中央値は約300万ドルと2018年の3倍に膨らむ一方、シードからシリーズAへ進める企業の割合は、2020年までの55%超から、2023年コホートで24%、2024年コホートで16%まで急落した。シリーズAへの到達も2年を超えた。大きく調達し、しかし先へ進めない——これが米国シードの現在地だ。

日本でも、各ステージ間の間隔は伸びている。Speeda「Japan Startup Finance 2025」によれば、設立からシードまでの中央値は12ヶ月(2021年)から21ヶ月(2025年)へ、シード〜シリーズAは13ヶ月から16ヶ月へ、シリーズA〜Bは15ヶ月から18ヶ月へ。設立からシリーズD以降への到達は87ヶ月(7年3か月)から109ヶ月(約9年)へと延びた。調達社数も、シードで1,245社から855社へと3割減った。

症状は似ているかもしれないが、米国と日本では、その背後にある構造が大きく異なる。まず、米国について説明したい。第一に、時間軸について。ここで効いている力は二つあり、作用する層が違う。金利は「資本の総量」を動かし、AIは「資本の配分先」を動かす。シリーズA通過率の崩落を最初に駆動したのは、AIではなく、2022年3月から始まったFRBの歴史的な利上げである(本パラグラフ末尾の注釈参照)。過剰流動性が逆流し、エコシステム全体の水位が下がった。通過率はコホートを跨いで測られるため、このショックは時差を伴い——通過率が24%、16%へと落ちた2023〜24年のコホートに——遅れて表面化し、コホート分析とも符合する。Infarmへの投資と日本法人の経営を通じて、これは実体験として理解できる。

もう一点、言及すべきことは、ChatGPTのリリース(2022年11月)だろう。まさに、この利上げの最中に起きたことだ。AIの種は逆風の中で撒かれ、2024年9月に利下げが始まり、資本の水位が再び上がった時、その水が、勃興するAIという地形に一気に流れ込んだ。つまり、2022〜23年は金利が主役(量の収縮)、2025〜26年はAIが主役(集中的な回復)——主役が交代したのであって、スタートアップへの投資崩落の原因は、AIだったわけではない。

第二に、集中について。その「潤沢さ」は、かつてないほど一部に偏っている。Crunchbaseによると、2026年第1四半期、世界のスタートアップ投資は約2,970億ドル(約47.5兆円。160円/ドル換算)と過去最高を記録し、その81%がAIに向かっている。OpenAI、Anthropic、xAI、Waymoのわずか4社が四半期の世界投資の64%を占め、米国一国で83%に達する。シードは金額こそ前年比30%増だが、件数は31%減——裾野が広がったのではなく、むしろ、選別され、大型化した。Keith Teare氏がThat Was The Weekで指摘するように、a16z、Sequoia、General Catalyst、Lightspeedといった著名VCがディールの多くを占め、彼らの投資を受けられない企業が、シード以降のラダーを上がるのは極めて難しい。

そして、この「金利=潮、AI=地形」という二つの変数が、日米の対比を鮮明にする。米国では、金利という潮がスタートアップやVCへ大きく影響する。従って、満ち潮が戻った時、米国にはAIという地形があり、資本を惹きつけ直し、頂点へ集中させた。事実、米国ではシードそのものが3倍に膨らんだ。一方、日本のシード中央値は5,000万円前後でほぼ動いていない。日本には、世界と伍して戦える人材もテクノロジーもある。だが、米国の英語圏や中国の十数億人のような巨大な単一市場を持たず、大企業の内部留保も個人金融資産も潤沢でありながら、少なくとも現時点では、そこに向かうリスクマネーは限られている。米国は底打ち・反転し、日本は構造的な収縮が続く。さて、日本はどうするべきか?

※このパラグラフは、Rebright Partnersの蛯原健氏のご指摘——米国のシリーズA通過率崩落の最大要因は2022年のインフレ・高金利によるダウンターンであり、ラウンドの時差で効く(コホート分析とも符合)。AIはむしろ2025年の底打ち要因——を受けて加筆・修正した。データ出所:Crunchbase News, “Q1 2026 Shatters Venture Funding Records…”(https://news.crunchbase.com/venture/record-breaking-funding-ai-global-q1-2026/

東証の100億円ルール:出口関数の書き換え。

2025年9月、東証はグロース市場の上場維持基準を正式に改定した。従来の「上場10年経過後に時価総額40億円以上」を、「上場5年経過後に時価総額100億円以上」へ引き上げる。2.5倍の規模を半分の期間で求める基準だ。適用は2030年3月1日以降、上場5年を経過した企業から。未達なら、上場廃止またはスタンダード市場への区分変更の対象となる。

数字には注意がいる。東証自身は、影響を受ける時価総額40〜100億円の企業を「全体の約3割(約200社)」としている。一方、上場5年後に時価総額100億円に届いていない企業は約7割にのぼる、との集計もある。前者は現存上場企業のうちの危険ゾーン、後者は上場後の到達率であり、測っているものが違う。論じる際は、数字の意味の違いを踏まえる必要がある。そして重要なのは、強制力の発動は2030年だが、市場の挙動はすでに変わっているという点である。新規上場の形式基準は据え置かれたが、審査では「将来100億円を超える成長性があるか」が問われるようになった。2025年上期のグロース市場へのIPOは前年同期比で約半減(34社→18社)。主幹事証券は時価総額の大きい案件を優先し、小型の準備企業は支援を得にくくなっている。政策の発動日ではなく、政策の「予期」が、すでにファネルを締めている。

冷静な予測——回復ではなく、バーベル化。

この変更は、単なる上場ルールではない。資本スタック全体が参照していた出口関数の書き換えである。これまでの日本モデルの本質は、小型IPOを「安く・早く・確実な」出口として使う、低分散・低天井の系だった。100億円ルールは、その「確実な床」を抜き、IPOを「5年で7割が脱落する(可能性がある)条件付きの関門」へと変えることになる。

再価格付けは後工程から前工程へ逆流する。第一に、IPOがデフォルトの出口でなくなり、M&A・MBO・セカンダリーが増え、VCはPE的に振る舞い始めるだろう。第二に、100億円を達成・維持できるまで上場を遅らせれば、設立〜IPOの期間は延び、ファンドの時間軸が壊れる。DPIが1倍に達するまでの年数は7年から10年へ延びた。10年満期のファンドは、14年かかる出口を待てない。第三に、ファネルの先端が細る。設立1年未満の調達社数の比率は、2015年の55.5%から2025年の15.9%まで崩落した。

帰結として、エコシステムは三層に分裂(バーベル化)すると予想する。縮小・高品質・高集中のベンチャー軌道、非VC・非IPOのSME軌道、そしてその間で拡大する「死の谷」。最大の構造リスクはLPのドゥームループだ。日本のLPは事業会社が中心で、その配分は順循環的——リターンが悪化すれば撤退する。VCのネット・マルチプルは2020年以降のヴィンテージで1.0倍を下回り、同時期にTOPIXへ投じていれば約30%だったところ、VCは約5%にとどまった。事業会社が手を引く合理的理由は、すべて揃っている。

つまり日本は、高分散モデルへの移行を強制されながら、それを支える燃料——非循環的なLP基盤と、グローバル規模の大型出口——をまだ持たない。旧モデルが解体される速度が、新モデルが組み上がる速度を上回る。当面は、数年単位の「エアポケット」を覚悟すべきだろう。

Gengoというスタートアップの創業者で、現在はShizen Capital というVCを経営する Matthew Romaine が「Who will own Japan’s future?」と題し、とても示唆に富んだコラムを書いている。詳細は彼のコラムを参照されたいが、「Before the celebratory sake flows too freely, it is worth asking a slightly impolite question: why are so many foreign investors suddenly so interested in Japan?」という問いを投げ掛けている。内容の一部を紹介する。「Andreessen Horowitzが唯一の海外オフィスを東京に開設すると発表したのは何故か?」「彼ら(外国人投資家)は、価値と価格、潜在力と実現可能性の間に不均衡を見出した時に投資する。これが最終的に日本にとって利益となるかどうかは複雑な問題だが、外国人投資家にとって利益となるかどうかははるかに単純だ」。是非、彼のコラムの原文を一読されることをお勧めする。

どこに機会があるか。

エアポケットは、逆張りで仕込む者にとっての機会でもある。2010年代、様々なプレイヤーがアクセラレーターやシード投資に参入したが、今後は、構造的な空白はむしろ出口側に開く。脱落予備軍とストール企業が滞留し、技術やIPは持つが国内出口を持たない企業群が、海外の戦略的・財務的買い手を必要とする。クロスボーダーM&Aやテイクプライベートの橋渡しは、反循環的で、混雑していない。実際、シンガポール証券取引所(SGX)への上場支援を掲げる事業者も現れ始めた。「海外出口」という抜け道は、すでに立ち上がりつつある。

もう一つの空白は、グローバルへの「縫い目」である。新しい集中的な資本を引けるのは、大型出口への道筋を持つ企業だけだ。多くの日本企業にとって、それは非国内売上を意味する。ただし、フルなシリコンバレー移転は低歩留まりの誤った賭けになりやすい。日本に構造優位がある領域——ディープテック、ロボティクス、素材、製造隣接SaaS、コンテンツ、高齢社会ヘルステック——を、橋渡し可能な大市場(インド、東南アジア、湾岸、欧州)に意図的に当てる精度が要る。 そして、突破口は「個人」ではなく「チーム」かもしれない。単一のプログラムが一人のグローバルな突破者を生む確率は、客観的に低い。だが、グローバルネイティブの共同創業者と、日本のディープテックや市場アクセスを組み合わせた多国籍チームなら、再現性のある仕組みにできるかもしれない。英雄を待つのではなく、勝てる構造を量産する——ここに、最も現実的な勝ち筋がある。

出口の設計:スタートアップの再設計と多国籍チーム。

日本が「大きな勝者」を創出できない理由は何だろう。同じビジネスモデルの2社があったとして、一社は日本市場のみ、もう一社は英語市場あるいは中国市場にも進出している——少なくとも、進出できる能力がある。投資家は間違いなく、後者を評価するだろう。

スタートアップへの投資額はこの10年で約5倍に膨らみ、起業環境も整った。いわば「スタートアップの製造コスト」が5倍に増えたわけだ。それにもかかわらず、日本のスタートアップの多くは国内市場に閉じている。調達額が増えてもIPO時価総額が伸びない——資本効率が7年で75%崩落した——大きな要因は、ここにあると考えている。

では、グローバルに展開できる会社へ再設計するには、何が要るのか。まず思い浮かぶのは「言語の壁」だろう。だが、言語は結果であって、原因ではない。楽天が社内公用語を英語にした時、日本に生まれ育った人材が二年で流暢に話すようになった、という。実例として、そのような知り合いもいる。必要に迫られれば、能力のある個人は言語を習得する。欧州でドイツ人とフランス人が英語でビジネスをするのも、地続きの単一市場で、対等であろうとすれば英語にならざるを得ないからだ。本当の壁は、言語ではなく「カルチャー」——働き方、意思決定、コミュニケーションの作法を、異なる文化へ適応させられるかどうかにある。

そして、この「異なるカルチャーへの適応」は、どの大型出口を選んでも避けて通れない。グローバルな機関投資家を惹きつける大型IPOを目指すにせよ、海外の買い手へのクロスボーダーM&Aで売るにせよ、求められるものは同じ——文化を越えて事業を動かす力だ。しかも、これは出口の段階で後付けできるものではない。国内で、単一のカルチャーのなかで育った会社が、売却や上場の直前に突然それを獲得することはできない。

だとすれば、解は創業の設計そのものにある。最初から多国籍チームでつくる——これは「入口」の問題、すなわち国内市場とカルチャーの制約を、創業時に解く。だが効用はそれだけではない。多国籍チームは、海外の事業会社やスタートアップにとって「買収しやすい会社」として生まれる。Paidyが良い例だろう。日本のクロスボーダーM&Aを阻んできた摩擦——言語、カルチャー、PMIの非対応——は、実は売り手側が抱えていた。多国籍チームは、その摩擦を源流で消す。つまり、入口の設計が、そのまま出口の解になる。出口を後から「用意する」のではなく、出口の開いた会社として生まれさせる。

ここまでは「海外へ出ていく」解を論じてきたが、もう一つ、まったく逆向きの——国内発の——答えもある。ant innovationsの水本尚宏氏が提起する「業界再編による資本効率の回復」だ。

前述のとおり、投資額はこの10年で約5倍に膨らんだのに対して、IPOの平均時価総額も社数も殆ど変わっていない——故に資本効率が崩落した。氏の処方箋は、小型IPOに代えて、本来上場していた優良スタートアップに対し、成長資金と、既存株主(VC)への流動性(EXIT)を、非公開のまま提供すること。そして、単体では規模の足りない企業を、カーブアウト・MBO・ロールアップによって束ね、100億円の壁を越える規模と、より高いマルチプルを持つ事業体へと再編する——氏の言う「マルチプルマジック」である。

ここに、同じ問題に対する二つの戦略的応答が並ぶ。ひとつは「国内で束ねて規模に達する再編の道(水本氏/AIN型)。もうひとつは、本稿が論じてきた「最初からグローバルに出る」多国籍チームの道だ。両者は対立しない。むしろ補完する。国内で再編して規模と資本効率を回復させた事業体は、次にグローバル市場へ出る足場になり得るし、グローバルに設計された多国籍チームは、海外の買い手にとってだけでなく、国内の再編プラットフォームにとっても、より価値の高い対象になる。重要なのは、どちらの道を選ぶにせよ、「小型IPOをゴールとする」旧モデルから降りる、という点で両者が一致していることだ。出口は、IPOの一本足から、再編と海外という二本の足へと組み替わる。

一点、創業初日に決めるべき設計がある。基本線の出口が海外M&Aなら、持株会社の所在地——日本のKKか、デラウェアやシンガポールか——を、想定する買い手に合わせて選んでおく必要がある。後からの変更が不可能ではないが、相当のコストとエネルギーを要し、開かれる出口の種類を左右する(具体的なストラクチャリングは法務・税務の専門家の確認を前提とする)。東証へのIPOは、能動的に追わなくてよいだろう。魅力的な会社になれば、東証や証券会社のほうから接触してくるはずだ。

データについての注記

本稿の数値の主な出所は次のとおり。設立から各シリーズへの到達月数および調達社数は、Speeda「Japan Startup Finance 2025」(2026年1月時点)。米国のシード調達額および卒業率はCrunchbase。VCパフォーマンスの指標はPreqinおよびJVCAの集計に基づく。資本効率の崩落および業界再編に関する論点は、ant innovations・水本尚宏氏の公表資料および発言に基づく。なお、過年度のレポートは集計主体がINITIALからSpeedaへ変わっており、レポート間での水準の厳密な比較は避け、本稿では集計主体が一貫する2021〜2025年の系列内トレンドを用いた。

祝ドリームビジョン20周年:若気の至り

今年3月、ドリームビジョンとして20周年を迎えた。

だからと言って、特に何かをしたわけではない。まだ、何も成し遂げられていないので。ある方から先日、facebookで「ドリームビジョン20周年おめでとうございます!」というコメントをいただくまで、忘れていた。

あれから20年。年齢と共に失ったものもあるが、それと引き換えに得たものもある。若い時はそんなことは考えもしなかったけど、来年はあの桜を見れるのかな?とか…。今年はスケジュールの都合で見ることができなかった、いつものジョギングコースの桜の木を見て、そんなことを考えた。

2024年3月、武蔵野EMCの学生5人を連れて、ボストン&NYCの研修ツアーに行った時だったと思う。NYCのホテルでYouTubeを見ていて、何故か、大橋純子の「たそがれマイ・ラブ」という曲が気になり、その曲の成り立ちをChatGPTに訊いてみた。その時の記憶が曖昧だったので、先日、Claudeに質問した。

彼女のヒット曲「たそがれマイ・ラブ」は、作詞:阿久悠、作曲:筒美京平という昭和の最強コンビによる楽曲。歌謡曲という域を超えて、芸術と言ってもいいと思う。

阿久悠という方の知識や物事を深く掘り下げる才能は驚異的だ。下記はClaudeとのやり取りの要約(一部分)。

「19世紀末のベルリン——明治の日本人エリート官僚と貧しいドイツ人踊り子の実話(森鴎外自身)の恋。それを鴎外が1890年に小説として昇華。さらに88年後の1978年、阿久悠と筒美京平が、それをエリス自身の「一人称の嘆き」として3分間のポップソングに凝縮し、大橋純子の声で日本中に届けた。

尚且つ、哀愁が伝わるように、声量のある大橋純子に「抑えて歌うように」と指導したそうだ。本人は納得が行かなかったそうである。物凄い演出というか考え抜かれた作品だということを理解した。

この曲は1978年8月に放送されたTBSの長編ドラマ「獅子のごとく」の主題歌として創られたそうなので、僕が15歳の頃だ。僕はこの曲を知ったのは、もう少し後だった気がするが、いずれにしても、10代後半や20代の頃は、この曲に限らず、その時代のヒット曲がどういう背景や意味を持って創られたものなのか?までは、興味を持つことはなかった。

ありきたりな言い方をすれば、嬉しいことも悲しいことも悔しいことも、自分なりの成功も挫折も経験して、世の中の無情や他人の痛みを分かるようになったということなのだろう。

20代の頃のようなエネルギーや野性味は無くなったかもしれないが、それと引き換えに得たものもあるだろう。

2006年3月。僕はドリームビジョンという会社を設立した。

中学生の頃から日本の教育制度の在り方に問題意識を持っていた僕は、EduTechスタートアップを立ち上げるつもりだったが、自分なりにFeasibility Studyをした結果、自分如きの能力では何もできないと判断し、その構想は断念した。

但し、既に会社を立ち上げて、何人かに声を掛けてしまっていたこともあり、、あまり先行投資が求められず、比較的早く売上を立てられる事業を行うことにした。

また、ライブドアショックで堀江さんが逮捕されたこともあり、スタートアップ冬の時代が来るだろうと思ったことも、その理由でもある。

今にして思うと、そもそも他の事業を行わず、その時点で会社を閉じた方が良かったかもしれない。ここでは詳細は省くが、2025年1月にシンガポールで設立したGoGlobal Catalyst という会社は、同年6月に解散した。何事も撤退は早いほうがいい。傷が浅いうちに。躊躇は禁物だ。

僕がドリームビジョンを立ち上げた背景には、教育に対する問題意識以外に、個人的な理由がある。それは、42歳にして生まれた長男のことだ。

このブログを読んでくれている方の中にはご存じの方もいらっしゃるかもしれないが、当時の僕はインタースコープという、ネットリサーチ業界の中では御三家の一角に数えられていたスタートアップというスタートアップを経営していた。また、同業のインフォプラント創業者の大谷さんと一緒に「インターネットリサーチ研究会」なる団体を立ち上げ、会長にも就任していた。

自分で言うのも何だが、スタートアップ界隈では、それなりに知られた存在だった。

でも、既に黎明期を過ぎ、マーケティング・リサーチの手法として、インターネットリサーチが社会に浸透し、会社としても起動に乗ってきたタイミングで、黎明期に無我夢中で物事を立ち上げることに強いモチベーションを感じる僕は、少しずつ、インタースコープの経営に対する情熱を失いつつあった。

一方、予てからの問題意識である「日本の教育を変える」という大きな問題に取り組むことへの躊躇もあり、その一歩を踏み出せずにいた。

そんな時に生まれたのが、今年、大学3年生になった長男だった。

彼が物心つき、父親の仕事に興味を持つようになった時、狭い世界とはいえ、それなりに実績も社会的立場も収入もあるインタースコープの創業経営者に留まっている自分と、仮に失敗したとしても、リスクを取って長年の問題意識に取り組んだ自分と、どちらの方が胸を張って彼に説明できるか? と考えた。

大概の物事は3年もあれば白黒つく。42歳で始めて、45歳で失敗したとしても、そこからやり直すことはできるだろう。でも、45歳で始めて、48歳で失敗したとしたら、そこから挽回するのは、精神的にかなり厳しいだろうと思った。

それでドリームビジョンを始めたわけだが、案の定、45歳の時に、事業を閉めることになる。以前にも何度か書いたことがあるが、それからの1年間は、晴耕雨読ならぬ「晴『読』雨読」生活をしていた。

あれから17年になるが、あの1年間は、僕の人生にとって間違いなく、inflection point(屈曲点)になった。

ところで先日、偶然、NVIDIA創業者のJensen Huang のインタビュー動画を見た。彼のような方の話を引用するのは甚だ恐縮だが、彼が言っていたことには、100%同感である。僕だけでなく、起業したことがある方であれば、誰しもそうだと思う。

彼はこう言っていた。

“If someone asked me to go back and start the company again, I’d be too scared.”(もし、もう一度、あの頃に戻って起業するか? と問われたら、僕は怖くてできないだろう。)

そして、Jensenは、こう続けた。

“It’s okay. You’ll learn what you need to know as you go along. Don’t underestimate the power of ignorance.”

心配しなくていい。Jensenでさえだ。必要なことは、起業した後でやりながら覚えられるから。むしろ、『無知の力』を信じた方がいい。

失って始めて知ることもあるし、知らないからこそ、挑戦できることもある。それが若さの特権であり、アドバンテージだろう。

でも、もうひと勝負、したいと思っている。とてつもなく大きいやつをねw。

母国を捨てた起業家たち。

昨年の秋からこの春にかけて、3社のスタートアップにエンジェル投資をした。

一見すると、3社に共通点は見当たらない。業種も、ステージも、地理的条件も異なる。

でも、一歩引いて3社を俯瞰してみると、自分でも計画していなかったパターンが浮かび上がった。そしてそれは、起業家および投資家としての僕の信念を、最も明確に言語化したものだった。

3社とも「AI」を使っている。3社とも、創業者が母国を離れて異国で起業している。そして、3社とも、日本と深い接点を持っている。

Dwilar:「移民」が創業者になるとき

Dwilar創業者の中村さんと出会ったのは、2024年のIVS京都。共通の知り合いを通じて紹介された。僕の記憶が正しければ、当時の彼はまだUC Bekeley MBAに在学中で、不動産 x 金融のスタートアップを立ち上げようとしていた気がする。おもしろそうだな・・・と思ったが、彼のモデルでは、僕の財布の大きさでは無理な話で、先には進まなかった。次にお会いしたのは、いつだったかは憶えていない。彼がPivotしたのか? 僕の理解が違っていたのかは分からないが、「これはオモシロイ!」と思った。

彼は大学時代、神戸で「移民の子供たち」に勉強を教える塾のような事業を10数カ所運営していた。優秀な子供たちばかりだ。でも、日本語のレベルが追いつかず、公立の小学校の授業についていけない。神戸市もそういう子供たちを支援すべく、助成金を出していた。上手くいっていた。ところが、市長が変わり、政策が変わり、助成金が打ち切られた。

彼は大学卒業後、トヨタ自動車やP&Gといった大企業を経験した後、UC Berkeleyで、自費でMBAを取得した。相当な覚悟だったと思う。その時、今度は自分自身が「移民」になった。 与信がない。実績がない。アパートを借りるのも、クレジットカードを作るのも、とてつもなく大変だということに気づいた。

その実体験がスタートアップになった。Dwilarは、移民が母国で積み上げてきた経済的履歴をAIで分析し、米国のアパートのオーナーや不動産会社、金融機関に提供するというビジネスだ。太平洋の両側で感じた「痛み」から生まれた事業。僕は応援したいと思った。

Retreat Technologies:オペレーション・エクセレンスという静かな強さ

Retreat 共同創業者の一人、山田さんとは、同じくベイエリアで起業している共通の知り合いを通じて知り合った。彼らのビジネスは旅行関連だ。

旅行業界は成熟したビジネスだし、ExpediaやBooking.com等、マーケットを占有しているプレイヤーが既にいる。そこにどんなオポチュニティがあるのか? と思うかもしれない。でも、彼らが目をつけたのは、それらの巨人たちがすべてB2Cプレイヤーであるという事実だ。B2Bには、ポッカリと穴が空いている。 法人向けの出張手配、グループ・リトリート、チームのオフサイト。派手なコンシューマー向けブランディングよりも、オペレーション・エクセレンスがモノを言う世界。そこにこそ、日本人の創業者の強みが生きるのではないか?

決め手は創業者二人の人柄だった。とても誠実な二人で、厳しい局面でも踏ん張ってやっていけるだろうと思った。スタートアップには、必ず厳しい局面が来る。実際、山田さんはベイエリアで成功しかけた最初のスタートアップでの思いもよらぬ挫折を経験している。諦めない強さがある。

彼はソフトバンクでエンジニアをしていたらしく、旅行業界に知見があったわけではない。そのピースを埋めているのが、もうひとりの創業者、Jack Tadami 。純粋な日本人だが、何故、そういう名前を名乗っているのかは知らない。彼はLos Angeles で旅行関連の米国法人を経営していたらしく、業界の人脈とオペレーションのKnow-Howを持っている。

投資するにあたって明確な戦略があったわけではない。僕の「直観」として、何かに繋がるのではないか?と思った。そして実際、予想もしなかった形で、いくつかのピースが繋がり始めている。

Entention Social:97%の中にもダイヤモンドはいる。

3社目は、最も長いストーリーがある。

創業者のPhilipは、ベトナム系アメリカ人。京都大学で原子力工学の博士号を取得しており、超優秀だ。京都に惚れ込み、そのまま住み着いた。僕が彼と知り合ったのは、サンブリッジ時代に阪急電鉄にご出資いただき設立したファンドを運営していた時のことだ。彼は原子力の仕事には就かず、「Gochiso(ご馳走)」というスタートアップを立ち上げようとしていた。加盟店になってくれたレストランで食事をすると、その食事代の一定割合が指定するNPOへの寄付になるというモデルだった。社会的インパクトへの情熱に根ざした美しいアイデアだったが、爆発的な広がりにはならず、休眠させた。

Philipは諦めなかった。次に彼が始めたのは、サステナビリティ領域で、中小企業向けに自社のCO2削減への取り組みを可視化し、ウェブサイトに表示できるプロダクトだった。エストニアのアクセラレーターに採択され、前に進み始めていた。ところが、Trump 2.0で潮の流れが変わった。というか、止まったと言った方が適切だろう。米国では、再生可能エネルギー系のスタートアップが、充てにしていた政府の助成金がカットされ、窮地に陥っているらしい。Philipも、またPivotせざるを得なくなった。

彼が辿り着いたアイデアは、僕が最も可能性を感じるものだ。彼の洞察はシンプルだが、パワフルだ。シード・アーリーステージの創業者は、やることなすことすべてが初めてで、相談する相手もなく、孤独である。 アクセラレーター、YC、Techstars等――に採択されるのは、スタートアップのわずか3%に過ぎない。では、残りの97%はどうすればいいのか? その中にだって、ダイヤモンドの原石はいるはずだ。

Entention Socialは、アクセラレーターに採択されなくても、同じステージの創業者同士がざっくばらんに相談し合える――精神的にも実務的にも支え合える――ピアコミュニティを創ろうとしている。

これは、僕にとって、とても個人的に響いた。2006年、ドリームビジョンを創業したとき、僕は本当はEduTechスタートアップを立ち上げたかった。実務家同士が学び合うプラットフォームだ。でも、自分なりにフィージビリティ・スタディをした結果、当時の日本の社会環境では、アントレプレナーシップを大学のカリキュラムに導入するなどということは、到底受け入れられないと判断し、断念した。また、僕の実力的にも到底無理な話だった。

それから15年後の2021年、伊藤羊一さんから武蔵野大学アントレプレナーシップ学部の創設に声を掛けられた時、僕はこれは神様の啓示だと思い、二つ返事で引き受けた。自分が断念したアイデアが、思いもしなかった形で戻ってきた。

Philipが Entention Social で創ろうとしているものを見た時、僕は同じ共鳴を感じた。僕がドリームビジョンで実現できなかった「実務家同士が学び合うプラットフォーム」を、彼と一緒に創れるかもしれない。そう思った。

3社をつなぐもの

僕は「投資テーゼ」を先に立てて、それに合うスタートアップを探したわけではない。この3社は、25年間、起業家であり投資家として築いてきた人間関係のネットワークの中から、僕のところにやってきた。あるいは、僕が見つけたものだ。

でも、3社を並べてみると、テーゼは明確だ。

僕が今、最も惹かれる起業家は、ひとつの市場の中で最適化しようとしている人たちではない。母国を離れ――自らの意志で、あるいは環境に押されて――文化や言語やシステムの交差点で創っている人たちだ。 自らのルーツに根ざした規律や誠実さを持ちながら、地理に縛られることを拒否している。

以前も書いたが、単一民族国家である日本は、グローバル化する世界において構造的なハンディキャップを抱えている。でも、この3人の起業家たち――そして彼らのような人たち――は、そのハンディキャップは宿命ではないことの「生きた証拠」だ。日本の起業家精神の未来は、東京から生まれるとは限らない。京都から、バークレーから、タリンから――日本との接点を持つ創業者たちが創ることを選んだ場所から、生まれるかもしれない。

「故郷」は関係ない。「創る」ことが、すべてだ。

諦めない創業者。形を変え続けるアイデア。そしてその根底にある、僕も共有する信念――Where diamonds shape themselves.

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。国境を越えて、日本と接点を持ちながら起業している創業者をご存知でしたら、是非、教えて下さい。

2025年米国市場のIPOを総括する。

過剰流動性により「ユニコーンを量産」し、我が世の春を謳歌してた米国市場が、ロシアのウクライナ侵攻や連邦準備制度理事会 (FRB) による金利引き上げにより逆回転を始めてから数年が経つ。その間、IPO市場は冷え込み、M&Aも低調になり、LP(VCへの投資家)には分配が滞り、新規のファンド設立は低調、スタートアップの資金調達は極めて厳しくなった

そんな中、2022年11月30日(米国現地時間)、OpenAIが「ChatGPT-3.5」をリリース。公開からわずか5日で100万ユーザーを突破し、2ヶ月で1億ユーザーに達するという、当時史上最速の成長を記録。

競合のAnthropoc は、Claudeの初代バージョン(Claude 1) を2023年3月にリリース。Google DeepMind を加えた「3強」に、イーロン・マスクの「xAI」、Meta AI を含めた「AI 5強 (Big 5)」が膨大な資金を市場から吸収。

1年前になるが、OpenAI2025年第一四半期US$300B(現在の為替レートで約45兆円)の評価額で「US$40B(同6兆円)」を調達。2025年第一四半期の米国ベンチャーキャピタル投資の半分以上世界の投資総額の3分の1を占め、第一四半期の世界のスタートアップ投資額を1,130億ドル(同約17兆円)に押し上げた(Crunchbase)。

一方、一般的なスタートアップの資金調達環境は極めて厳しい状況が続いている。

では、IPO市場は現在、どのような様相を呈しているのだろうか?

Image from Jason Lemkin Blog Post

Jason Lemikn のBlog Post によると、2025年上半期にIPOした企業(スタートアップ以外も含む)は「174社」で2021年以降で最大、資金調達額はUS$31B(同約4.65兆円)」になる。

Everyone said 2025 was the year the IPO window reopened. And technically, it did. 174 companies raised over $31 billion in the first half alone — the highest since 2021.

2025年に上場したB2Bおよびテクノロジー関連企業のIPO銘柄の殆どは現在、IPO価格を下回って取引されている。それでも、2025年は「IPOウィンドウ」が再開した年と言えるのだろうか?

下記は同記事中で紹介されているB2Bおよびテクノロジースタートアップの2026年2月23日時点の時価総額をもとにした表である。

この現実は何を物語っているのだろうか? Metaが買収した「Manus AI」を使って、詳細を調べてみた。以下はManus Ai による約300字の要約である。

2025年は「IPO復活の年」と喧伝されたが、実態はほぼ惨敗だった。上場した「主要B2B13社」のうち、公募価格を上回っているのはわずか3社(CoreWeave・Hinge Health・Circle)のみ。残りの大多数は大幅に下落しており、Klarnaに至っては公募価格比▲69%に沈んでいる。市場が評価するのはAIインフラそのものだけであり、「AI活用企業」や「AI企業」を標榜するだけでは投資家に響かない。また、上場初日の急騰はほぼ例外なく剥落しており、機関投資家の素早い売り抜けが常態化している。堅調な売上成長だけでは高バリュエーションを正当化できない時代となり、GAAP黒字化またはAIへの本質的な関与が不可欠な条件となっている。

IPO時の時価総額を上回っている3社は、どんな企業なのか? それぞれ要約してみた。

ところで、このブログをご覧になられた皆さんは、2025年上半期の「IPO 174社」という数字を信じられるだろうか? 僕はどうにも信じられず、Manus にもう少し詳しく調査して欲しいと依頼した。その結果は以下のとおり。

SaaStr記事の「174社・$31B」という数字は、SPAC・マイクロキャップ・外国企業の米国上場(ADR )なども含む広義のIPOをカウントしたもののようである。

上記表のとおり、2025年通期のIPO: 347社の内訳を見ると、従来型IPO約6割SPAC約4割となっている。下記の表はその詳細である。

Ritter教授の90件が最も厳格な「純粋な事業会社のIPO」の定義であり、学術的に最も引用される数字である。

SPACは上場後に合併先企業を2年以内に探す仕組みであり、上場時点では空箱だ。2021年のSPACブームでは最終的に50%が清算(投資家に資金返還)されており、2025年ヴィンテージも同様のリスクを抱えている。

今だから言えるが、僕が投資し、日本法人を設立して経営していた「Infarm(本体)」も2021年、実は「SPAC」でNASDAQ上場が決まっていた。

しかし、同業他社のAppHarvestが2021年2月にSPAC (Novus Capital) との合併を完了し、実際に上場して株価が$37.64まで急騰したものの、その後急落し、2021年10月時点では$6以下に低迷したことや(2023年に経営破綻)、AeroFarmsがSPACでの上場を試みるも、合併相手のSPAC「Spring Valley」が合併に必要な最低現金$225Mが集まらず、2021年10月、上場前に破談になったことを踏まえ、SPACでのIPOを取りやめたという経緯がある。その後、シリーズDで「US$200M(同約300億円)」を調達したが、2023年9月に経営破綻した。

2025年のIPO347件という総数の41%(141件)はSPACであり、合併先が決まっていない「空箱」だ。 残りの従来型IPO206件の中でも、小型案件($50M未満)は年末時点でほぼ全滅に近い状況である。大型・高品質な案件に限れば+21%のリターン」という事実が、いかに選別が重要かを示している。SaaStr記事が「13社中3社しか公募価格を上回っていない」と指摘した対象は、この中でも特に注目度の高い大型テック・B2B SaaS案件に絞ったものであり、市場全体の厳しさをより鮮明に映し出している。

日本では東証がグロース市場改革として、上場維持基準をIPO後5年以内に「100億円」とするとして、スタートアップを取り巻く市場環境が大きく変わろうとしているが、米国の株式市場やスタートアップを取り巻く環境は、日本の比ではなく、優勝劣敗がかなり厳しいことが分かる。

日本のスタートアップ(エコシステム)が更に発展していくためには、グローバル資金を呼び込むことが必要だろう。そのためには、1億2,000万人しかいない日本市場だけでなく、17億人の英語市場、あるいは、14億人の中国語市場を相手にしていく必要だ。

ドル円相場は「160円/ドル」となり、更なる円安になるだろう。つまり、ドル(外貨)を稼ぐビジネスモデルが必要不可欠だ。日本という母国市場に固執していても明るい未来は来ない。

日本に生まれ育った起業家兼投資家の一人として、その重たい命題に向き合って行こうと思う。

シリコンバレーへの執着は捨てるべき。

前回に引き続き、このエントリーは、Substackに投稿したニュースレター(英語版)の日本語訳(要約)である。詳細は英語版を参照されたし。

今回の衆議院選挙ではいわゆる「高市旋風」が吹き、自由民主党が歴史的な勝利を収め、圧倒的な存在感を獲得した。一方、既存の野党は、その「賞味期限」に達したのか? 壊滅的な敗北に終わった。

そのような中、政界における「スタートアップ」とも言える、選挙前は「議席ゼロ」だった「チームみらい」が「11議席」を獲得。大躍進した。ディスクローズしておくと、僕は選挙期間中に「チームみらい」の党員になった。

ところで、スタートアップの世界では、「シリコンバレー」は圧倒的な存在感を放っている。その結果、日本でも「シリコンバレーを目指す」「シリコンバレー型エコシステムを作る」という言説が、半ば呪文のように繰り返されてきたが、この「シリコンバレーへの過度な執着」には、距離を置くべきだろう。

その歴史的背景や国家としての成り立ち等が異なるわけで、その価値観やカルチャー、エコシステムを「コピー」することは意味がないし、不可能である。

主要指標サマリー(2024年)

このレポートは「Manus (AI)」を使って作成し、日本人の起業家およびエンジェル投資家の一人として分析を加えたものだ。アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、日本という主要5か国を比較し、投資金額、ディール数、投資家の構成など、複数の観点から各国のエコシステムの特徴を整理している。データは、2024年のものを使用した。

周知の事実として、アメリカの突出ぶりは際立っている。アメリカのスタートアップ投資総額は 2,154億ドル。これは、他の4か国を合計した約 333億ドル の、実に6倍以上になる。

これは単に「アメリカは市場が大きい」という話ではない。

スタートアップ・エコシステムの成熟度、リスクマネーの供給量、そして「最初からグローバル市場を前提」にした起業文化——これらすべてが、日本とは根本的に異なっている。いや、日本だけでなく、世界中のどのエリアとも異なっており、模倣できるものではない。

ディール数を見ても、アメリカは14,000件超と圧倒的だ。

日本では2,869社(資金調達額が判明している件数)が資金調達を行っており、これはイギリス(約2,800件)と同数で、フランスやドイツを大きく上回っている。

但し、1件あたりの投資規模が、イギリス、フランス、ドイツとの比較においても極端に小さい平均投資額で見ると日本約230万ドル(3.45億円)中央値では35万ドル程度(5,250万円)と、欧米主要国の「10分の1」水準に留まっている

では、この差はどこから来るのだろうか?

その最大の理由は、多くの日本のスタートアップが、依然として国内市場を主戦場にしていることにあると思う。国内市場だけを前提にすると、TAM(総アドレス可能市場)はどうしても小さくなり、大型の成長資本を呼び込むことが難しくなる。

さらに、日本では投資家の構成にも大きな特徴がある。

アメリカや欧州では「独立系VC」が中心だが、日本では「大企業や金融機関」がスタートアップ投資の大きな割合を占めている。これはオープンイノベーションという観点では意味があるかもしれないが、必ずしも「世界で勝つスタートアップ」を生みやすい構造とは言えないだろう。

また、「LP(Limited Partner)」と呼ばれるVCファンドへの出資者の顔ぶれも国によって大きく異なる。

このような構造的な違いを踏まえると、シリコンバレーをそのまま真似ることは、あまり意味がないし、日本のスタートアップの成功には繋がらないだろう。むしろ、その発想自体が思考停止と言っても過言ではない。

日本も欧州も、それぞれ独自の歴史的背景や社会の構造、価値観、カルチャーがある。スタートアップの育成もそれに立脚する必要があるのは、わざわざ僕がこうして言うまでもない。

とは言え、シリコンバレーから学ぶべきことは多々あるのも事実。そして、人口減により、ほぼ確実に縮小する国内市場だけでプレーしても明るい未来は描けないだろう。

どうすれば、日本から「世界で勝てるスタートアップ」を輩出できるのか?

僕は「日本人と外国人による多国籍チームを組成する」ことがキーだと考えている。

終わっていない宿題である。

追伸:500 GlobalJETROにより、Building Cross-Border Understanding, Trust and Opportunity in Venture Capital. What is the US <> Japan VC playbook? というレポートが発行されている。日米の違いがよく説明されており、とても示唆に富んでいる。英語版だが、一読をお勧めする。AIを使って要約しても良い。

さようならGGC。やっぱりDreamVision!(前編) 〜 10年の思索と1週間の決断 〜

振り返れば、このアイデアは10年前から考えていた。具体的には、Entreprenerur First の二人との出会いがきっかけになっている。では、なぜ10年間も、温めたままにしておいたのか?

それは「日本では機能しないだろう」と思っていたからだ。実際に実施してみると、やはり機能しなかった。

それでも、やってみたこと自体には意味があった。ある意味、自らの仮説が証明されたので(苦笑)。むしろ、今は気持ちが晴れやかである。

僕のブログを読んでくれている人は覚えているかもしれないが、僕が10年間にも渡り、温めてきた構想を具現化させた「触媒(Catalyst)」は、Dan Brassington だった。彼との出会いが無かったら、僕は10年間抱え続けてきたアイデアに着手しないままだったかもしれない。

2024年7月12日(金)、代官山でいつものように彼と会った。その場は「10年間温め続けたアイデアを実行に移す」という決意を告げるためのMTGだった。

ここからGoGlobal Catalyst(GGC)の「実験」が始まった。
2025年7月、GGCとして初めての「Co-founder Matching Program」を実施し、7月22日にはDemoDayを開催した。

実績ゼロの挑戦であったにもかかわらず、30名の応募があり、11名の起業家に参加していただいた。

しかし、僕が懸念していたとおり、日本人の応募者はわずか「3名」。僕が採択し、実際に参加してくれたのは「1名」に過ぎなかった。その1名も僕の10年来の知り合いである。

すなわち「日本人と外国人をつなぐ共同創業者マッチング」という構想は、その名のとおりには機能しなかった。

日本には優れた起業家が数多く存在する。だが、英語でビジネスができるという条件が加わった途端、母集団は極端に小さくなる。

それは、僕が「Co-founder Matching」を考えた理由でもあり、10年もの間、このアイデアを先延ばしにしてきた理由でもある。
その惰性を断ち切ったのが、Danだった。彼の後押しがなければ、僕は一歩を踏み出せなかっただろう。

プログラム終了後、僕たちは都内のカフェで再び顔を合わせた。

Danはシンガポール、バンコク、シドニー、ロンドン、東京に拠点を持つ、「AI」に特化したコンサルティング会社「INCITE Advisory Group」経営している。「AI」という時流に乗り、彼の事業は飛躍的に成長し、彼自身は益々多忙を極めるようになっていた。

そのような事情もあり、彼は「取締役を辞し、持株をGGCに貢献できる他の者に譲りたい」と言って来た。また、彼は多忙さに加えて、日本語が話せず、GGCを支える余力がないと・・・。

僕は彼の申し出を受け入れた。

その一週間後、僕はシリコンバレーに行った。武蔵野大学アントレプレナーシップ学部(EMC = Entrepreneurship Musashino Campus)の学生を対象としたプログラムを実施するためである。

「シリコンバレーでの一週間、GGCをどの方向へ持って行くか?考えなよ」。Danはそう言った。

EMCプログラムでは毎年、僕の起業家仲間や投資先の創業者たちに、学生たちに向けて、起業家としての生き方やシリコンバレーという地域の「磁力や魅力」、そこで生きていくための条件等、メディアの記事では読むことができない、リアルな話をしてもらっている。その一つひとつが示唆に富み、学生だけでなく、僕自身にとっても深い示唆を与えてくれる。

最終日、学生たちはPlug and Playで英語によるプレゼンを行う。帰国子女等、英語が堪能な学生は殆どおらず、皆んな緊張マックスでプレゼンをする。最後は、僕から彼らにメッセージを送るのが恒例である。

僕は毎年、日本の財政状況が如何にクリティカルな状況にあるかや、周回遅れになっている現実を語り、危機感を植え付けてきた。

でも今年は、僕がシリコンバレー滞在中に下した決断――すなわち、GGCを解散するという意思決定とその理由について話をした。

実は、僕の話の前、投資先の一社、ModuleQというスタートアップの創業者、David Brunner が、その週の月曜日、大変遺憾ながら会社を畳むことになったという話を全社員向けに話をした、という話をしてくれた。

学生たちは「2連発」で、とてもシリアスな話を聞くことになった。そんなことで、学生たちは全員、とても神妙な表情で、僕の話を聴いていた。

続きは「後編」にて。

僕が「日本人と外国人」の「共同創業者マッチングプログラム」を始める理由(その2)。

ロンドンとニューヨークにオフィスを構える Defiance Capital という個性的なVC (Venture Capital)がある。

久しぶりに彼らのウェブサイトを訪ねてみると、どうやら「Pivot」したようで、Home Page だけになっており、Early stage investor in AI-driven enterprise innovation. というコピーと、More Coming Soon というクリックボタンがあるだけだった。

NO of Unicorns by year

彼らが2024年4月、「The Unicorn Founder DNA Report」というレポートを発行した。

2013年から2023年にかけて「Unicorn(ユニコーン)」になった全スタートアップ創業者の「バックグラウンド」を調査したものだ。とても興味深い内容である。

そのレポートによると、その10年間に「972社のユニコーン」が誕生し、その創業に参画した創業者は「2,467人」いるという。

&2%_Immigrant Founder

興味深いのは、創業者たちのバックグラウンドだ。

例えば、その間に「米国」で生まれたユニコーンの「62%」が少なくてもひとり以上、「移民および移民二世」の創業者がいる。また、半数のユニコーンには、米国TOP10の大学出身者、シリアルアントレプレナー、STEM系学位保持者がいる。

ひと言で言えば、米国以外の出身者、高学歴の理数系創業者、シリアルアントレプレナーが欠かせないということだ。

Ethnicity

さらに詳しく見ていくと、米国生まれのユニコーンの「34%」は、最低1人以上「アジア系の創業者」がいる。また、「白人以外の創業者」がいるユニコーンが「38%」。創業者全員が白人以外というユニコーンが「17%」。

ヨーロッパ生まれのユニコーンは、米国生まれのユニコーンと比較して、「移民」「アジア系」「白人以外」「創業者全員が白人以外」のスコアがすべて低い結果になっている。

地理的な要因もあるだろうが、ここから何が言えるだろうか?

明確に「因果関係」とまでは言い切れないかもしれないが、「多様性」は「イノベーション」を起こすための「キー(重要な要素)」だということだ。

そして、「単一民族国家の日本からユニコーンが生まれにくいことの合点がいく。

そういうと、スモールキャップ(小さい時価総額)で上場できる株式市場があるせいだという指摘があるかもしれないが、1,400-1,500億円以上の時価総額(日本円の感覚では、1,000億円以上でもいいだろう)を有する上場スタートアップを入れても、人口やGDP比で見ると、アメリカとの比較は論外としても、イギリス、ドイツ、フランス、カナダ、韓国等と比較しても、日本生まれのユニコーンは少ない事実は否定できない(下図参照)。

Overview of the World startup Landscape
ChatGPT Deep Research 等をもとに筆者作成。

インドや中国のように膨大な国内市場があるなら、いいかもしれない。

でも、2024年の出生数が「70万人」を下回ったわけで、このまま「人口が減っていく国」に閉じていていいわけがない。

必ずしも「Made in Japan」である必要はないが、どうすれば「日本人の才能」を解き放つことができるのか? そのことを真剣に考える必要がある。

僕の知り合いの外国人(主にアメリカ人やヨーロッパ人)は皆、口を揃えて、日本人は「Engineering, Machine Learning, Conputer Vision」等において優れた能力を持っている(人が多い)にも関わらず、どうして、グローバルに成功するスタートアップを生み出せないのか? という。

これだけグローバル化し、多様性が求められる世界になった今、日本人の強みを活かし、弱みを保管するためにも、多国籍チームを創るこことは理に適っている。

僕が「日本人と外国人」の「共同創業者マッチングプラットフォーム」を立ち上げる理由である。

皆さんはどう思うだろうか?