ハイテク・スタートアップの成功要因

一昨年の下半期、法政のもうひとつのビジネススクールでご一緒させていただいた田路教授からご著書「ハイテク・スタートアップの経営戦略」をご献本をいただいたのは、もう4ヶ月ぐらい前になるだろうか?

献本をいただいた場合は、そのお礼に「書評」を書くのが礼儀であると知ったこともあり、書こう書こうと思いつつ、今日まで時間を要してしまった。

ウェブサイトに反映されるまでには数日ほど要するらしいが、先程、アマゾンにレビューを書いた。

その内容を、僕のブログで先行リリース?しておこう。

多少なりとも参考になれば幸いである。

★ハイテク・スタートアップの成功要因:

私自身が複数のベンチャー企業の創業に参画した経験(ウェブクルー:東証マザーズ上場、インタースコープ:Yahoo! JAPANに売却後、同業のマクロミルと経営統合、等)も含めて、本書から学んだことを整理したい。

※注釈:日本で言うベンチャー企業は和製英語で、本来はスタートアップと言う。

米国シリコンバレー、英国ケンブリッジ、半導体関連の集積がある台湾、そして、日本を含めた4地域におけるハイテク・スタートアップの事例研究をもとに、スタートアップの成功要因をまとめたものが本書である。

本書は、大学関係者(教授および准教授)の手によるものだが、その全員が「産業界」出身であり、また、フィールドワーク(インタビュー)を中心に執筆されており、臨場感溢れる内容となっている。

私が本書から学んだことは、以下のとおり。

・「研究開発」の領域には「規模の経済が働かず」、研究開発の成果はあらゆる規模の企業に分散している。にも関わらず、日本の大企業は中央研究所を本社組織に持っている構造に、日本におけるベンチャー受難の現実を垣間みることができる。

・起業は1人で行うものではなく、複数で行って「経営チーム」を形成する方が「成長性が高く、売上も大きくなる」。これは私の拙い経験でも同じである。

・また、経営チームの「協業経験(同じ職場で働いた経験)」の有無も、成長と関係があることが実証されている。日本の事例としては、リクルート出身の経営チームに成功事例が多いのは、その証左と言える。

・同様に、カルチャーを共有でき、また、その人物の人となりを理解できるという意味において、「同じ大学の出身者」で起業するのは理に適っている。シリコンバレー、ケンブリッジ、台湾の3地域は、いずれも、その地域の大学出身者のネットワークが起業に深く関わっている。日本では、ようやく、慶応SFC(湘南藤沢キャンパス)に、そのような傾向が見られるようになったと言えるだろう。

・スタートアップ時は「技術的イノベーション」の革新性の程度が、そして、成長期には「顧客交渉力」が成長を左右する。つまり、成長プロセスにより、ビジネスの「付加価値の構造が変化する」。ひとりの人間が、複数の分野に通じていることは極めて稀であり、そのことからも「経営チーム」における「役割分担」の重要性が理解できる。

・それは同時に、スタートアップを成功に導くには、適切なタイミングで、適切な人材をリクルートできることが必要不可欠であり、「人材の流動性」が担保されていることが極めて重要な意味を持つ。日本の場合、優秀な人材の殆どは「大企業」に存在し、まだまだ「終身雇用と年功序列賃金制度」を持つ日本の大企業の雇用構造は、オープン・イノベーション(起業促進)の「阻害要因」のひとつだろう。

・阻害要因という意味では、日本では「解雇規制(整理解雇の4要件等)」が厳しく、また、「企業内年金制度(転職先に移行できない)」の存在も、人材の流動性を阻害していると言える。

・また、シリコンバレーやケンブリッジでは、EXIT(エグジット:投資資金の回収方法)の選択肢としてIPO以外にM&A(バイアウト)が存在し、数的には圧倒的に後者が多いのに対して、日本では、文化的背景、VCの投資額(&シェア)が少なく発言力が弱い等の理由により後者のマーケットが小さいことも、起業促進の足枷になっていると言える。
→但し、直近の事例として、Zynga(ソーシャルゲームの巨人)による「ウノウ」の買収や、Grouponの「クーポッド買収」等、新たなEXITの事例が出現していることは、注目に値する。

以上が、私が本書から学んだことであるが、ハイテク・スタートアップに限らず、起業が促進され、経済的な成功を収めるには何が必要不可欠な要素であるかを「体系的」に解説してくれている。

事例には、バイオテクノロジー等、極一部の人を除いて接点のないものも含まれており、読み進めるには根気が必要なパートもあるが、これから起業を考えている人や投資サイドでの仕事を望んでいる人には、一読をお勧めしたい本である。