さようなら、綾小路さん。

初めて綾小路さんと会ったのは1991年、僕が28歳の時だった。ViViという女性誌の取材だったと思う。僕を含めて何人かの20代の男性がモデルとなり、綾小路さんに髪を切ってもらうという企画だった。

2022年11月14日。「お別れの会」で撮った写真。

それ以来、31年間、僕は綾小路さんに髪を切ってもらっていた。知り合った頃はオペラという名前だったが、数年後、ACQUAと名前を変えた。

一度、ゴルフをご一緒したこともある。身体が小さく細身で飛ばないが、小技が得意で、80台で回る腕だった。

僕と同じような年代の人は記憶にあると思うが、カリスマ美容師ブームというものがあり、キムタクが主演してドラマにもなった。その火付け役であり、キムタク演じる美容師のモデルは綾小路さんだった。

2022年11月14日。「お別れの会」で撮った写真。

その綾小路さんが、今年9月19日、60歳の若さで亡くなった。咽頭がんだった。

お嬢さんが制作されたビデオがある。それを紹介したい。

まだオペラという名前だった頃、綾小路さんのアシスタントをしていた「角薫さん」という人がいる。かれこれ10年になるだろうか、彼女はACQUAの同僚だった「ちはる」さんと一緒に独立し、原宿でRUALAという美容室を経営している。いまや人気のサロンだ。

綾小路さんは予約が取れる日が限られており、僕の予定と合わせるのが難しく、最近は角さんに切ってもらうことが多くなっていた。でも、やはり、一年に何回かは、綾小路さんに切って欲しいというか、会いたいと思わせる人だった。

綾小路さんからは、色々なことを教わった。美容師としてだけでなく、ビジネスマンとしても、とても優秀な人だった。どうやって、美容室という労働集約的なビジネスをスケールさせるのか? 美容室はエルメスのスカーフ等と競合しているとか、そこらのマーケターよりも遥かにビジネスの本質やマーケティングを理解されていた。

そんな綾小路さんに咽頭がんが見つかり、ステージ4だという話を角さんから聞いたのは、今年の春頃だっただろうか? 手術をし、美容師として復帰できるのではないか?と思われた時期もあったが、残念ながら、それは叶わなかった。もう少し、彼の人生に付き合いたかった。

9月14日に行われた「お別れ会」には、たくさんの人達が最後のお別れに訪れた。生前、武道館で行われたショーのビデオ等、在りし日の綾小路さんの映像が紹介されており、そこで発せられている言葉の数々から、改めて彼の偉大さが伝わってきた。

その場を立ち去るのが、とても残念で、後ろ髪を引かれる思いだった。

綾小路さんへの感謝を込めて、彼の言葉を紹介したい。

自分の「幅」が狭いと、客層も狭くなる。人生で経験してきたことは、タトゥーのように一生消えない。自分の生き方そのものが、お客さまへのデザインになるのだ。

たくさんのお客さまと接してきたことで、「自分にしかできないこと」が何であるか、気づくことができた。私は、お客さまに育ててもらったのである。

お客さまを理解する。お客さまにとっての日本一になる。世界一にもなれる。

お客さまが髪の毛を、2cm切る「意味」を理解しなさい。伸びた髪の毛を、ただ2cm切るだけでは美容師の価値はない。お客さまが髪の毛を切ることに対して、切る「意味」を考え、それに対する「提案」をすることで、値段が高くても必要な価値あるサロンとなる。

2022年11月14日。「お別れの会」で撮った写真。

「大変」とは「大きく変わる」チャンスである。大変なことをネガティブに捉えない。意識して前向きに変わって行くべき。

皆んなが考えることと違うことを考えた方が、力になる。お金になる。

100万円の札束と、はさみとコーム、どちらを選ぶ? 迷わず、はさみとコームを選びなさい。お金はいずれ無くなるが、はさみは研げば一生使える。美容師は努力をすれば、1か月で100万円稼ぐようになる。

必要な才能は続けること。

綾小路竹千代」にした理由。ワンチャンスを掴むために、自分を目立たせるように、まず名前をプロデュースした。名簿で一番目に出てくる、文字数が多いせいで、紙面に記載された時に目立つでしょ。

カウンセリングはすぐ隣ではなく、距離をおいて座る。施術をしている時は、必ず「鏡」を通して会話をする。客観的な視点で心地よい距離感を作って接することが大切。これが「技術」である。

練習したら必ず出来るようになる。壁を乗り越えられた時に「出来る」ことを学べる。出来ないままで終わるのであれば、999回やってもやらなくても同じことである。

2022年11月14日。「お別れの会」で撮った写真。

未だに信じられない。もう一度と言わず、ずっと、綾小路さんに髪の毛を切って欲しかった。

さようなら、そして、ありがとう、綾小路さん。

2022年12月31日(帰省先の温泉にて)