ユニコーンは絶滅するのか?

全世界に衝撃をもたらしたシリコンバレーバンク(SVB)の経営破綻から約1か月。米金融当局が、金融システム不安を未然に防ぐべく、預金の全額保護に動いたことで最悪の結果は免れたが、シリコンバレーやスタートアップの資金調達環境にどのような影響が出ているのか? そして、それは今後、スタートアップ・エコシステムにどのような影響を、どのぐらいの期間に渡って与えるのか?

現地時間で先週水曜日 (4/5)、crunchbase news に「Global VC funding falls dramatically across all stages in Rocky Q1, despite massive OpenAI and Stripe deals」という記事が掲載された。

実はこの記事の著者 Gene Teare とは直接の知り合いだ。知的でとても素敵な方である。サンブリッジ時代に知り合い、その後も親しくさせてもらっており、何社かCo-Investment もしている、TechCrunch 共同創業者 Keith Teare の奥さんだ。

本題とは少し離れるが、彼女が書いた記事を読みながら思ったことを紹介したい。

彼女は、南アフリカ出身で、Keith との結婚により、一緒にシリコンバレーに移住してきた。知り合ったのはロンドンだったと聞いている。Keithはイギリス人で、二人がシリコンバレーに移住して来てから20数年になる。

毎年、クリスマスシーズンには、家族全員で遠く離れた南アフリカに里帰りしているようだが、異国の地でもこうして仕事が出来ているのは、KeithもGeneも英語が母国語なのが大きいと思う。

もちろん、英語が母国語ではなくても、日本人の知り合いを含めて、異国の地で仕事をしている人はたくさんいるが、それでも、英語が母国語ということのアドバンテージは大きい。意思の疎通でハンディキャップが無いわけで、英語圏への移住であれば、我々日本人と比較して、ハードルは極めて低いだろう。

英語が母国語に生まれたか? あるいは、何らかの理由で、ネイティブと遜色の無いレベルの英語が話せるかどうかは、その人の人生を大きく左右する。

そういう僕自身、中学生の時から、いつかは海外に住んでみたいと思っていたにも関わらず、目先のことに囚われて、未だに日本を出たことがない。英語も自分が思い描いていたレベルには程遠い。

さて、ここからは本題。彼女が書いた記事の内容を紹介したい。

Global VC funding と言っているので、米国のみならず、crunchbaseが把握している限り、全世界でのVCによるスタートアップへの投資金額のことだと理解しているが、2023年Q1のスタートアップ投資は$76B (約10兆円:¥130/$で計算。以下同様)対前年比で「53%」の減少 (2022年Q1は「$162B (約21兆円)」) ということだ。

但し、そこには、OpenAI ($10B。大半がマイクロソフトによる投資)Stripe ($6.5B) への投資(計$16.5B)が含まれており、それを除くと約$50Bとなり、2022年Q1の半分以下になる。極めて大幅な落ち込みである。

また、Every funding stage last quarter was down 44%-54% year over year, a clear signal that the slowdown is not confined to late-stage funding. と説明されており、Late Stage だけでなく、シードステージを含む、すべてのステージで対前年比:44-54%ダウンということで、スタートアップ投資は半減した。

冒頭に触れたシリコンバレーバンクの経営破綻は、今後のスタートアップ投資に大きな影響を与えるだろう。SVBの顧客には、売上が$5M(約6.5億円)未満の20,000社を超えるスタートアップがいたらしく、彼らの預金(大半がVCから調達した資金)が保護されなかったとしたら、どうなっていたか? 仮に、1社平均100人の従業員がいたとしたら合計200万人、50人だったとしても100万人が犠牲になっていた。

尚且つ、彼女の記事によると、SVBの顧客は米国のスタートアップに限らず、米国のベンチャーキャピタル(VC)から資金調達をした国外のスタートアップも多く存在したという。

実は、SVB破綻(その時点では破綻懸念)のニュースを聞いたのは、武蔵野大学アントレプレナーシップ学部(通称:武蔵野EMC)の仕事で米国出張中、SXSWに参加するためのオースティン滞在中だった。

尚且つ、投資先のAnyRoad, CEO & Co-founder の Jonathan Yaffe が、SXSWにパネリストの一人として呼ばれており、現地で話を聞いた。

AnyRoad以外にも、シリコンバレーの投資先には、ModuleQ, Miles等があり、ここには詳細は書けないが、SVB経営破綻のニュースが出てからの72時間、創業者たちがどのような状況にあったかは言うまでもない。事なきを得て、僕もホットした。

ところで、2023年Q1の投資が大きく減少したものの、VCに投資資金が無かった訳ではない。むしろ、Venture Capital (VC) には、業界で言うところの「Dry Powder(投資資金)」は潤沢にあった。

James Ephrati, Lightspeed Venture Partners の試算によると、2022年12月末時点のVCの保有資金は「$580B(約75兆円!)」に上るという。その額は、2021年と同じ額らしいが、前のめりに投資をしていた2021年とは打って変わって、2022年は極めて慎重な投資姿勢に転じている。

cruncbase

詳細な説明は割愛するが、以下のとおり、各ステージ毎のグラフを載せておく。

crunchbase

In the first quarter of 2023, seed funding totaled $6.9 billion, down 44% year over year — a signal that even at the earliest funding stages, investors are pulling back.

2023年Q1の投資額は「$6.9B」で、前年同期比で44%ダウンということだが、2022年上半期は、他のステージが減速する中においても、前年同期比で投資金額は増加していたそうだ。2022年Q4になって初めて、前年同期比で25%の減少となった。

また、2008年のリーマンショック当時もVCによるスタートアップへの投資、特にLate-stageは冷え込んだが、Seed&Early-stage への投資は大きな減少を見せず、Square, Airbnb, WhatsApp, Slack 等は、その頃に創業している。

今回は、全ステージにおいてスタートアップ投資に急ブレーキが掛かっているが、OpenAI(ChatGPT)に代表される Large Language Model のAI スタートアップには、引き続き、投資が行われている。

Early-stage funding totaled $25.6 billion in Q1, down 54% year over year.  投資額$25.6B (約3.3兆円)。対前年比で、54%のダウン!

Late-stage funding totaled $43 billion, a dramatic fall from $93 billion in Q1 2022, but up from $34 billion in Q4.

2022年Q1の$93B (約12兆円) から、2023年Q1は「$43B (約5.6兆円)」と半減以下にダウン!

The billions of dollars raised by OpenAI and Stripe made up 22% of all venture capital raised this past quarter, and 38% of late-stage financings.

さらに言うと、2023年Q1のVC投資額の22%、Late-stage 投資額の38%が、Open AIStripe の2社に投資されている。両社への投資額 $16.5B (約2.1兆円)を除くと、2023年Q1のLate-stageへの投資額は「$26.5B (約3.4兆円)」で、2022年Q4を下回る。

では、このVCによるスタートアップ投資冬の時代は、いつまで続くのだろうか?

次回は僕なりの考察を書いてみたい。