「VCエクスプレス」は途中下車できるのか?

INITIALのスタートアップファイナンスはいつも拝読している。シリコンバレーを中心とするグローバルなスタートアップファイナンス市場とデカップリングされている日本において、2023年にどのぐらいの金額が日本のスタートアップに投資されたのか? 2023年のフルレポートが待ち遠しい。

シリコンバレーでは今、ベンチャーキャピタルから資金調達をしたものの、できることなら、そのレールから降りたいと考えているスタートアップの創業者が多いらしい。

英語になるが、興味のある方は、Precursor Ventures というシード・アーリーステージにフォーカスしたVC創業者 Charles Hudson のニューズレターを読んでみて欲しい。非常にシャープな視点の持ち主で、多くの読者が付いている。

シリコンバレーでは、シード資金を調達したファウンダーで、シリーズAに辿り着けるのは、極一握りの人たちだ。

crunchbaseによると、米国のシリーズAに投資された資金は、2021年Q4「US$14.38B (約2兆円)」から、2023年Q1「US$4.45B (約6,300億円)」と、1/3 以下に急降下していおり、その後はフラットな状態が続いている。そのような状況を踏まえて、これ以上、VCからの資金調達を必要とするビジネスをすることに不安を感じても不思議ではない。

僕は2000年に、インタースコープというインターネットリサーチ(以下、ネットリサーチ)のスタートアップを共同創業し、ベンチャーキャピタルから資金調達をした。当時はビットバレーなるムーブメントの真っ只中で、ネットリサーチ市場に参入している会社は、優に100社を超えていた。

その中で、後に当時の東証マザーズに上場し、その翌年に東証一部に移籍上場したマクロミル、2005年にYahoo! JAPANにM&Aでエグジットしたインフォプラント、そして、僕たちのインタースコープ(2007年2月にYahoo! JAPANにエグジットし、インフォプラントと経営統合)が頭角を現し、業界の御三家と言われるようになった。

その中で最もVC投資(VCから資金調達をし、事業を急成長させる)に向いていたのはマクロミルだった。

マクロミルはリクルート出身のメンバーが立ち上げたスタートアップで、対売上高営業利益率が30%という、超高収益なビジネスモデルだった。

インフォプラントは、テレビ番組の制作プロダクションを経営していた大谷さんという方が立ち上げたスタートアップで、収益性は高いとは言えないが、御三家の中で、一番最初にスケールした。典型的な「破壊的イノベーション」の事例だった。

インタースコープはというと、御三家の中で最もCutting Edge(イノベーティブ)なビジネスをしていたが、あまりに多くのことをやり過ぎていて、スケールさせるには、フォーカスが必要だった。

マクロミルの財務データを見てみたところ、2022年度の売上498億円、EBIDA86億円。ネットリサーチという市場自体が成熟しており、新しいビジネスを創造する必要があり、株価的には苦戦しているが、売上&利益の絶対額としては素晴らしいと言える。

ところで、何事にも向き不向きがある。

僕がサンブリッジ グローバルベンチャーズというアクセラレーターを経営していた時、まさしく、今回のポストで書いているようなことがあった。

ある投資先で、創業者全員がエンジニアで、非常にイノベーティブなプロダクトを開発している会社があった。元々は「受託」事業をしていたが、スケールさせる事業を作りたいと思っていたようだった。

僕らが投資する際に、創業者たちに訊いたことがある。リスクマネーを受け入れるということは、スケールさせることが「至上命題」になる。そのゲームに挑む覚悟があるのか?と。

答えは「YES」。僕たちは投資を実行した。

しかし、人間はそう簡単に変われないのと同じように、会社もそう簡単には変われない。会社を経営するのは人間なので。

彼らは極めて技術力が高く、素晴らしいプロダクトを開発していたが、細部に対する拘りが強く、Duffusionというと語弊があるかもしれないが、スケールさせるために「機能と価格」を押さえた廉価普及版を開発し、量を狙っていくことは、ネイチャー(性質)やDNAとして、抵抗感があったのだろう。

頭では理解していても、心が付いてこないというか、経営者として事業をスケールさせる(ビジネスを成功させる)ことには、モチベーションを持てなかったように思う。

結局、お互いによく話し合った結果、僕らは投資した時の半分のバリューで、彼らの株を彼らの関係者に譲渡した。考えられる選択肢の中では、ベストな結果だったと思う。久しぶりに彼らのウェブサイトを見たが、活況が見て取れた。元気に楽しくやっているようだ。

ところで、日本では「小粒上場」に関する問題提起がされて久しいが、それがネットバブル以降、日本のスタートアップエコシステムを成長させることに寄与してきたことは否めない。

各国やエリア毎にカルチャーやエコシステムが異なるわけで、シリコンバレーを真似しても上手くいくことはない。ネットバブルから四半世紀が経ち、2022年には「1兆円」近い資金が日本のスタートアップに投資されるまでになった。

今後の日本のスタートアップエコシステムの成長に必要不可欠なのは、いかにして「Globalized & Diversified(グローバル化と多様性)」を実現していくかである。

自分なりに出来ることをして行きたい。

謹賀新年!Happy New Year 2024!

明けましておめでとうございます。今年も宜しくお願い申し上げます。

ここ10年は毎年元旦は実家に帰省し、裏磐梯のグランデコスノーリゾートでスキーをするのが恒例になっていたが、今年は子どもたちの「ダブル受験」があり、東京の自宅で過ごしている。

Facebookへの初投稿もゲレンデの写真を載せることができず、ChatGPT4 (DALLE-E) にpromptを出し、イラストを描いてもらった。英語でprompt を書いたせいか? 僕だけ西洋人っぽい顔になっているw。

他のイラストでもそうなのだが、どうもChatGPTは「算数」が苦手らしい。僕は「二人の子供たち」とスキーに行った絵とリクエストしたのだが、僕以外に「3人」の子供たちが描かれている。実は、最初に頼んだイラストは、リクエスト通り、僕と2人の子供たちが描かれていたのだが、2024 という数字を入れることを伝えるのを忘れており、もう一度、イラストを描いてもらったところ、子供が3人になっていた・・・。

でも、彼らの従兄弟(大学2年生)も一緒に行ったと思えば、悪くない。イラスト自体は、3人バージョンの方がイイ感じなので。

ところで、今年の抱負を書く前に、2023年を振り返っておくことにする。

With the three founders. Guy at left, Erez at my right side, Osnat at right at the old office in 2017.

僕にとって2023年は、兎にも角にも「The year of Infarm」だった。

2023年1月12日 (木)、日本時間18:00、Infarm 創業者の一人、CEOのErez との臨時のMTGがあった。

その翌週の火曜日に、彼との月イチの定例MTGが予定されていたにも関わらず、彼の秘書からメールがあり、1/12 (木) にMTGがセットされた。あと数日待てば話ができるにも関わらず、急遽、MTGがセットされたということは、つまり、悪いニュースだろうことは容易に想像がついた。

Zoom 越しに彼の顔が映し出され、新年の挨拶をした後、僕は「It must be bad news, right?(きっと悪い知らせなんだよね?)」と訊いたところ、「Yes. Unfortunately, the board decided to shutdown the Japan operation.(そうだ。取締役会が日本市場からの撤退を意思決定した。)」という返事だった。

When should we close our business?(いつまでに閉めればいい?)」と訊くと、「Yesterday.(昨日までに)」という単語が返って来た・・・。

その後のことはブログにも書いたので、ここで改めて書くことはしないが、Infarmに投資し、日本法人を設立、そして、約3年に渡って経営してきたことは、僕にとっては得難い経験になった。

野菜を生産しているとはいえ、収益構造的には「完全な製造業」であり、多額の「設備投資」が求められる事業で、累計「US$604.5 million(USD/¥142で計算すると約860億円!)」を資金調達をするような事業は初めてだった。もちろん、すべての資金調達は本国側で行っており、日本法人としてファイナンスしたわけではないが、そのダイナミズムは株主としても、日本法人の経営者としてもヒシヒシと感じていた。

Infarm はベルリン発祥で、日本を含めて「11ヵ国」で事業をしており、一時期、1,200人ほどの従業員がいた。ドイツ企業にも関わらず、ドイツ人比率は、おそらく2割程度しかいなかっただろうし、英語がネイティブなスタッフも同じく2割程度だったと思う。そして、国籍はなんと「50ヵ国」以上あった。当然、社内公用語は「英語」だった。

また、日本法人の経営者だった僕は、約20人ぐらいが参加する、四半期に1度の幹部会議に呼ばれていたが、彼らの国籍も10ヵ国ぐらいで構成されていた。

そのような「多様性と国際性」に富むスタートアップの経営陣の一角としての経験を踏まえると、日本のスタートアップは「モノクローム」に見える。創業者は全員、日本人、従業員もほぼ全員、日本人。株主も日本のVCや日本企業、顧客も日本企業 and/or 日本人という構造では、グローバルな事業を創るのは極めて困難だろう。

今のところ、世界第3位のGDP(市場)があるが故に、ガラパゴス化して成長していけるが、出生率や移民政策が大きく変わらない限り、わざわざブログに書くまでもなく、確実に市場は縮小していく。

ところで、昨年12月21日(木)、僕が株主の一人でもある「Musashino Valley」というStartup Studio 兼 Co-working spaceで、サンブリッジ時代から行ってきた「シリコンバレーツアー」の「拡大同窓会」なるイベントを行った。

新卒でアップルジャパンに就職し、10数年を経て「チカク」というスタートアップ(アップルでの経験を活かし、IoT端末を開発!)の創業者のカジケン(梶原健司さん)と、FinT というスタートアップの創業者で、ツアー参加当時は大学1年生だった大槻祐依さん、そして、Musashino Valley の運営企業の創業者で武蔵野大学アントレプレナーシップ学部の学部長の伊藤羊一さんを交えて、我々日本人にとってのシリコンバレーという存在の意味や影響力、そして、事業を立ち上げて成功させるために必要なことに関して、ざっくばらんにパネルトークを行った。

僕が最も印象に残っているのは、カジケンが説明してくれたアップルの「TOP100」と呼ばれていた(そう言っていたと思う)経営幹部を対象とした会議のことだ。

その会議に招集される経営幹部は、Steve Jobs がファーストネームを憶えている「100人」で、パソコンもiPhoneも取り上げられて、3日間、缶詰になり、会社(事業)の将来を議論していたという。

そこで、その100人は、Steve Jobs から、自分にとって「重要な10個のテーマ」を書き出すように言われ、それを発表した後、その内の「7個」は「捨てろ!」と指示されたという。

「選択と集中」。言うのは簡単だが、人間は「可能性があるものを捨てる」ことに躊躇するし、それには「勇気」が必要だ。ドラッカーのいう「劣後順位」というやつだ。

昨年、特に後半3ヶ月の僕は「欲張りすぎていた」と思う。次のビジネスやステージに進まなければいけないのは重々理解していながら、Infam日本法人の清算業務が終わっていなかったり、自分の年齢(昨年3月で還暦になった!)のことが気になったり、ある意味、ありがたい話だが、欧州のFoodTech系スタートアップから日本市場参入に関する相談があったり、投資先の資金調達を手伝ったりと、何だかんだと慌しくしており、焦っていたのだろう。

そんな時、カジケンの話は「胸に突き刺さった」。あのパネルトークはマジで勉強になった。

それからもうひとつ。昨日の紅白で久しぶりに「ルビーの指環 (音が出ます!)」を熱唱した「寺尾聰」は、なんと76歳!という事実を知り(今朝、とある知り合いのFB投稿で知った)、勇気をもらった。僕もあんな76歳になりたい!と思った。

そして、60代は、まだまだフルスロットルで行ける気がして来た!!

「獺祭(だっさい)」で知られる旭酒造(山口県岩国市)の桜井博志会長は、70代で米国に拠点を移し、さらなる挑戦をされるそうだし!

2024年は、予てから温めていた日本のスタートアップエコシステムに「多様性と国際性」をもたらすことを目的とした、あることを立ち上げようと思っている。

近いうちに、このブログで詳細を説明したい!