THE REAL PICTURE — Executive Summary: 日本のスタートアップ、その成長資本から見えてきたこと

日本のスタートアップには、もっとリスクマネーが必要だ。

長い間、そう言われてきた。実際、日本でスタートアップに投資される金額は2022年の約1兆円をピークとして、2025年は7,613億円(Japan Startup Finance 2025)に対し、米国は2025年、約3,200億ドル(約51兆円)がスタートアップに投資されている。資金調達環境の整備は、今も重要な課題であることは事実である。

しかし、今回の二つの分析を通じて、新たな問いを持つようになった。

日本のスタートアップが直面している最大の問題は、本当に「資本不足」なのだろうか。

Vol.1.1では、2026年7月7日時点の時価総額上位50社について、IPO前の株主構成を一次情報(目論見書)から調査した。確認したかったのは、「誰の資本で大きくなったのか」である。

その結果、VCや事業会社、エンジェルなどの外部資本によって成長した企業が38社、全体の76%を占めた。創業者が支配権を保持したまま、外部リスクマネーを15%以下に抑えた「創業者主導」型は12社(24%)にとどまる。日本のスタートアップの多数派は、外部資本主導である。

なお、世代(設立年代)による外部資本比率の差も調べたが、明確な傾向は確認できなかった。当初は「新しい世代ほど外部資本主導が強まる」という仮説を持っていたが、創業者の資産管理会社や親族保有を正しく除いて再算定すると、世代間の差はほぼ消失した。日本のVCエコシステムの成熟度と資本構成の関係は、当初の想定よりも弱いというのが、現時点の見立てである。

但し、Pre-1995世代に関しては、スタートアップそのものの絶対数が少なく、本稿の対象としているのは「時価総額TOP50」に含まれる企業という条件が関係しているとも考えられる。

また、外部資本を多く入れた企業ほど、時価総額が高いわけではなかった。

創業者主導型と外部資本主導型を比べても、時価総額の中央値には殆ど差が見られない。最上位には、楽天やZOZOのように、外部資本への依存度が低い企業も存在する。

つまり、資本を入れたこと自体が、大きな企業価値を保証するわけではない。

そこでVol.2.1.1では、問いを変えた。

調達した資本は、いくらの価値になったのか」。

代表的な10社について、IPO前の累計調達額と、その後の時価総額を比較した。尚、ここでいう累計調達額には、創業者や関係者による資本は含まれない。純粋な外部の投資家から調達した資本のみを指す。指標は単純である。

資本効率 = 時価総額 ÷ IPO前の累計調達額

分析の結果、調達金額と資本効率の間には、強い逆相関が見られた。多く調達した企業ほど、投じられた資本に対して生み出した市場価値の倍率は低かった。

今回の分析は主にソフトウエア関連のスタートアップに関するものである。一方、DeepTechは根本的に異なる経済モデルに基づいている。製品化までの期間が長く、研究や実験、さらには専門的な施設への多額の投資が必要となるため、極めて巨額の資本を投じることが不可欠かつ合理的とされる。

しかし、ソフトウェア分野においては、そのパターンは驚くほど一貫していた。

もちろん、これは「資金調達をしない方がよい」という話ではない。

メルカリはIPO前に約165億円を調達し、2026年7月7日終値現在で約7,454億円の時価総額を形成した。日本を代表するスタートアップであることに疑いはない。

一方、ラクスは、VCから資金を調達することなく、創業者や関係者の資本と、事業が生み出したキャッシュフローを中心に成長し、約3,668億円(2026年7月7日終値現在)の時価総額に達した。

メルカリの方が企業価値は大きい。しかし、投じた資本あたりの価値創出では、ラクスが圧倒している。

資本を燃やして大きくなった企業と、資本をほとんど燃やさずに大きくなった企業がある。

どちらが正しいということではない。事業モデルも、市場環境も、成長戦略も異なる。 しかし、資本を多く調達した以上、その資本に見合うだけの価値を生み出すことが求められる。問題は、調達額が増えていることではなく、調達額ほどには企業価値が伸びていないことである。

Vol.1とVol.2を重ねると、日本のスタートアップを巡る議論が、次の段階に移りつつあるように思う。

これまでの中心的な問いは、

どうすれば、より多くの資本を供給(調達)できるか。

だった。

これから問われるのは、

その資本を使って、どれだけ大きな価値を生み出せるか。

である。

そして、この問いは、国内市場だけを見ていては答えにくい。

日本市場には、まだ多くの成長余地がある。スタートアップが参入できていない産業も、デジタル化が遅れている領域も少なくない。

それでも、資本市場が評価するのは、現在の国内シェアだけではない。その企業が将来どこまで成長できるのか。人口が減少する日本市場の先に、どのような成長ストーリーを描けるのか。海外市場に展開できるのか。あるいは、世界から資本、人材、顧客を引き寄せられるのか。

企業価値とは、現在の業績だけではなく、将来の成長可能性に対する市場の期待でもある。

そう考えると、日本のスタートアップの資本効率の低下は、単なる経営効率の問題とは言えないだろう。

この会社は、いずれ国内市場の天井にぶつかるのではないか。

そうした市場の見方が、株価に織り込まれている可能性がある。

これは、この二つの分析だけで証明できることではない。あくまで一つの仮説に過ぎない。
しかし、無視できない仮説である。

2026年のIVSで、Project Coalis久保田雅也氏は、「日本のスタートアップ」という発想そのものを捨てた方がよいと語った。シリコンバレーの企業は、自らを「米国市場のための米国スタートアップ」とは考えていない。人口が縮小していく日本において、最初から国内市場だけを前提にすることには限界がある、という指摘である。

久保田氏は、さらに厳しい現実を語っている。

かつては、シリコンバレーの背中がかすかに見えていた。今は、もう見えない。

2011年からシリコンバレーと日本を往復し、多国籍チームによるグローバルスタートアップの必要性を考え続けてきた。

Innovation Weekendというピッチイベントを立ち上げ、海外でも開催した。そこでInfarm (ユニコーンになるも倒産)AnyRoad(Andreessen HorowitzがシリーズAをリード)を発掘し、投資した。残念ながら上手く行かなかったが、日本人と外国人の共同創業者をつなぐプログラムも実施した。

しかし、その過程で一つだけ確信したことがある。

日本には、資本だけでは越えられない壁がある。

それは、言語だけの問題ではない。

国内市場だけで一定規模まで成長できてしまうこと。日本人同士だけでも仕事が成立すること(僕が嫌いなKYというのは、その典型だ)。慣れた制度、文化、商習慣の中にいる限り、世界で解くべき課題そのものが見えにくいこと。

日本は、居心地のよい市場である。

だからこそ、外に出る必然性が生まれにくい。

自分自身も、起業した当初、海外市場を考えたことはなかった。日本の中だけで事業をつくり、IPO(やM&A)を目指すことが、当時は合理的だった。

しかし、ルールは変わりつつある。

資本は以前よりも供給されるようになった。上場も、かつてより身近になった。その一方で、上場後も継続的に企業価値を高められる会社は限られている。

Vol.2.1で分析した10社は、すべて上場来高値を下回っている。上場は、もはや成功の証明ではない。資本市場から選ばれ続けるための、新たな出発点である。

このシリーズを通じて、考えが変わった。

日本のスタートアップに必要なのは、単に「もっと資本を」という議論ではない。

必要なのは、その資本を使って、世界でどれだけ大きな価値を生み出せるかという視点である。

国内市場で強い会社をつくることと、世界で成長できる会社をつくることは、同じではない。

日本から生まれた企業であっても、日本市場だけの企業である必要はない。

創業者も、経営チームも、社員も、投資家も、最初から世界と接続されている。資本、人材、顧客、知識が国境を越えて循環する。

そのような企業を、私たちは創れるだろうか。

Vol.1.1は、誰の資本で企業が育ったのかを明らかにした。
Vol.2.1は、その資本がどれだけの価値になったのかを確認した。

二つの分析を通じて見えてきたのは、資本の量の問題ではない。

問われているのは、資本の先に、どれだけ大きな未来を描けるかである。

資本市場は、すでにその問いを投げかけ始めているように思う。
我々は、その変化に、どう対応すれば良いか? その処方箋を描く必要がある。

出典: THE REAL PICTURE Vol.1.1・Vol.2.1。 スタートアップ投資額は Japan Startup Finance 2025。IVS2026に関する記述は筆者のブログおよびSubstack(2026年7月)に基づく。数値の詳細は筆者作成のスプレッドシート(v5.0)。

THE REAL PICTURE Vol. 2.2: 日本のスタートアップ、その資本効率の実像。

調達金額と時価総額から読み解く。2026年7月7日終値ベース。各社のIPO目論見書(資本金及び資本準備金の推移により計算した累計調達額)等と株価データを踏まえた分析(2026年7月30日投稿)。

※ 本稿はVol.2.1 (2026年7月23日) の訂正版である(GREEの株式分割の反映に関する訂正。詳細は末尾「改訂記録」を参照)。

1. 問題意識

正直に告白すると、この分析を始めたとき、私はバリュエーション(評価額)のことばかり考えていた。起業家として調達し、投資家として投資してきた身には、それが最も重要な変数だと染みついている。希薄化をどう抑えるか。何倍のリターンになるか。

だが、資本効率という指標は、そのすべてを素通りする。いくら調達して、それがいくらになったのか。小学生でも分かる割り算だ。バリュエーションは、この割り算の内側に吸収されて、見えなくなる。

人は誰でも、自分の立場のバイアスを持って数字を見る。それ故に、今回の調査は新たな気づきを与えてくれた。

Vol.1.1では、日本の時価総額上位スタートアップ50社について、IPO前の株主構成——つまり「誰の資本で大きくなったのか」を一次情報から分類した。結論は、VC・外部資本主導が明確な多数派(78%)だった。創業者主導(外部リスクマネー≤15%)は22%・11社。※1

しかし、そこには測れないものが残っていた。Vol.1.1で調査したのは「外部株主の保有比率」であって、「いくら調達したか(いくら投資したか)」ではない。同じ30%の持分でも、評価額10億円の持ち分30%と、100億円の30%では、意味がまったく違う。 そこでVol.2.1では、視点を変えた。

調達した資本は、いくらの価値になったのか。

指標は単純である。資本効率 = 時価総額 ÷ IPO前の累計調達額。クルマでいえば「燃費」である。同じ距離を走るのに、どれだけの燃料を使ったか。

対象は、代表的な10社。5組の「直接対決」として選んだ。マネーフォワード対フリー、DeNA対GREE、ANYCOLOR対カバー、SHIFT対ラクス、メルカリ対Sansan。いずれも同じ市場で戦った、あるいは戦っている企業同士である。あるいは調達資本での対比である。

そして測る時点は4つ。IPO(公募価格)、初値、上場来高値、現在(2026年7月7日終値)。上場は終点ではない。その後どうなったかまで追わなければ、資本効率の実像は見えない。

2. 定義と注記

資本効率 = 時価総額 ÷ IPO前の累計調達額

分母の「IPO前の累計調達額」は、各社のIPO目論見書に記載された「資本金及び資本準備金の推移」から算出した。IPO公募による調達は含まない(上場前までに投資家が入れた資本の生産性を測るため)。また、関係者への新株予約権付与の行使による調達は含まない。既存株主への割当増資は含む。

分子の時価総額は、公募価格・初値・上場来高値・2026年7月7日終値の各時点に、発行済株式数を乗じたもの(株式分割は調整済み)。

ラクスに関する重要な注記。 ラクスの分母(1億4,985万円、上場承認日現在の資本金)は、創業者らによる資本金+ノジックス(同社代表者はIPO直前までラクスの取締役)+セプテーニによる出資+営業利益からの増資(推測)の合計である。純粋な外部資本の額は未確認だが、他のスタートアップと比較して極めて少額なのは間違いなく、VCの資本は一切入っていない。この点は本稿の中核をなすため、後段で詳述する。

3. 三つの発見

3-1. 多く調達した企業ほど、資本効率は低い

最も明快な発見がこれである。調達金額と資本効率は、強い逆相関を示す(順位相関 ρ = −0.89)。上場来高値ベースで測っても、ほぼ同じ(ρ = −0.92)。

10社を調達額で並べると、下位(調達が薄い)ほど効率が高い。ラクス(1.5億円)、GREE(4.6億円)、カバー(7.9億円)、SHIFT(8.8億円)——これらが効率上位を占める。逆に、メルカリ(165.3億円)、フリー(160.3億円)、Sansan(114.0億円)——大型調達組は、効率の下位になる。

当たり前に見えるかもしれない。分母が小さければ倍率は大きくなる。だが、これは「小さい会社が有利」という話ではない。メルカリの時価総額は7,454億円、ラクスは3,668億円。時価総額ではメルカリが上回る。それでも効率ではラクスが圧倒する。資本を燃やして大きくなった企業と、資本を燃やさずに大きくなった企業がいる、ということだ。

Vol.1.1で見た「外部投資家の株式保有比率」と、2026年7月7日終値ベースの資本効率との相関は、実は弱い(ρ = −0.20)。保有比率よりも、調達金額の方が、効率をはるかに強く規定している。この二つは別の軸なのだ。

※ここで一点、補足しておきたい。調達金額は「バリュエーション × 放出比率」の積である。同じ30%を渡しても、評価額が高ければ調達金額は大きくなり、資本効率の分母は膨らむ。つまりバリュエーションは、資本効率という割り算の内側に吸収されている。ただし本稿では各社のバリュエーションを直接測っていないため、その寄与を特定することはできない。言えるのは、「何%を渡したか」ではなく「いくら受け取ったか」が効く、ということまでである。

3-2. IPO時の評価は、その後を予測しない。

4時点の推移を追うと、IPO時点の資本効率と、その後の伸びには、何の関係もないことがわかる。

象徴的なのがSHIFTである。IPO時の資本効率はわずか3.9倍——10社中最低だった。ところが上場来高値では735.2倍。IPO時点の187倍である。市場は上場時、この会社の成長性を予測できなかった。

対照的なのがGREEだ。IPO時点で158.5倍——当時としては驚異的な効率だった。上場来高値は約1,416倍。驚異的な数字である。IPO比は約8.9倍で、SHIFTほどの伸びはなかった。但し、絶対値としては並外れた資本効率と言える。

上場は終点ではない。通過点に過ぎない。

3-3. 10社すべてが、上場来高値を更新できていない。

10社すべてが、上場来高値から下落している。平均で−58.2%。1社として、現在が最高値の企業はない。

さらに、高値到達が2021年に集中している(10社中5社:マネーフォワード、フリー、ラクス、メルカリ、Sansan)。グロース株バブルの残像である。当時の市場が、これらの企業にどれほど過剰な期待を寄せていたかがわかる。

最も下落が激しいのはGREE(−89.0%)、次いでフリー(−78.9%)。フリーは2021年2月の高値(時価総額6,420億円)から、現在1,352億円。GREEに至っては、高値が2011年11月——15年前である。

4.資本効率ランキング

2026年7月7日の終値ベースの資本効率は、以下のとおり。

5. 五つの対決

5-1. マネーフォワード vs フリー: 燃費の差は、時間とともに開く

クラウド会計の直接競合。両社とも2012年設立で、ビジネスモデルも近い。だが資本の使い方が対照的だった。

フリーマネーフォワードの3.9倍を調達した(160.3億円 vs 41.0億円)。にもかかわらず、IPO時点の資本効率はマネーフォワード6.9倍、フリー5.8倍と、既にマネーフォワードが上回っていた。 そして時間が経つほど、差は開いた。

現在、マネーフォワードの資本効率はフリーの7.8倍。時価総額でも2,706億円対1,352億円と、2倍の開きがある。 フリーの高値(2021年2月)からの下落率は−78.9%で、GREEに次いで大きい。市場の期待と現実のギャップが特に大きかった企業と言える。

5-2. DeNA vs GREE ― 15年前の高値という現実

ソーシャルゲーム時代の覇権を争い、訴訟にまで発展した両雄。ここには、資本効率の物語として最も示唆的な数字が眠っている。

GREEは、わずか4.6億円の調達でIPOを迎えた。 IPO時点の資本効率158.5倍は、10社中断トツである。田中良和氏の創業者支配(62.40%)のもと、グロービス、そしてKDDIが出資した——当時のスタートアップ界隈で大きな話題となった資本構成だ。

一方、DeNAは22.8億円を調達。ソニーコミュニケーションネットワーク、住友商事などの事業会社の資本が厚く、IPO時の効率は14.3倍と控えめだった。

そして、両社の上場来高値は、いずれも2011年。ソーシャルゲーム全盛期である。あれから15年、両社ともその水準に戻れていない。

そして下落幅に差が出た。GREEは高値から−89.0%、DeNAは−50.2%。IPO時点では10倍以上の効率差があった両社が、現在は155.3倍対142.3倍とほぼ拮抗している。DeNAが価値を保ち、GREEが失った15年、と読むこともできる。

南場智子氏の社長復帰、プロ野球球団経営、そしてDelight Venturesを通じた日本人起業家のシリコンバレー挑戦支援——DeNAが打ってきた手が、この数字の差の背景にあると言えるだろう。

5-3. ANYCOLOR vs カバー ― 同業・同世代、薄い調達の勝負

VTuber事業の直接競合。にじさんじ(ANYCOLOR)とホロライブ(カバー)。上場も2022年・2023年とほぼ同時期である。

カバーが全時点でANYCOLORを上回る。理由は明快で、調達額の差だ。カバー7.9億円に対し、ANYCOLORは25.8億円——3.3倍を調達している。

時価総額はANYCOLOR 1,509億円、カバー1,067億円でANYCOLORが上回るが、投じた資本あたりの価値創出では、カバーが2.3倍効率的である。

5-4. SHIFT vs ラクス ― 資本効率の極北

この2社は、日本のスタートアップにおける「資本を燃やさない成長」の極致である。

SHIFTは8.8億円の調達で上場。IPO時の資本効率は3.9倍と、10社中最低だった。ところが上場来高値では735.2倍——IPO時点の187.6倍まで駆け上がった。ソフトウェアテストという地味な領域だが、彼らの推進したM&A(買収)戦略が単なる規模拡大にとどまらず、「買収した企業の利益率と成長率を引き上げる」という形で、実際に連結利益の成長に大きく貢献していたことが株式市場から高く評価されるに至った。

そしてラクス。ここは、本稿で最も紙幅を割くべき企業である。

5-5. メルカリ vs Sansan ― 大型調達型の限界

最後に、大型調達組の対決を見ておこう。

メルカリ165.3億円、Sansan 114.0億円——両社とも大型調達である。効率ではメルカリが2.4倍優位だが、両社とも上位陣(100倍超)には遠く及ばない。

ただし、メルカリの高値からの下落率は−36.1%で、10社中最小。大型調達組は効率こそ低いが、価値の変動が小さいという側面も見える。厚い資本は、効率を犠牲にする代わりに、下支えにもなるのかもしれない。

6. ラクスという極北 ― VCから1円も調達しなかった会社

6-1. 何が起きていたのか

ラクスの資本効率は、現在2,448倍、上場来高値時には5,646倍に達した。10社中ダントツである。2位のSHIFT(216倍)の11倍、最下位のフリー(8倍)の290倍。

だが、この数字は「効率が良い」という次元の話ではない。そもそも、分母がほとんど存在しないのだ。

ラクスのIPO前の資本金は、1億4,985万円(2015年11月4日・上場承認日現在)。これは、創業者らによる資本金と、事業が生み出した営業利益からの増資を中心に積み上がったものと思われる(増資に関しては推測)。

そして、VCからの資金調達は一切ない。

6-2. 株主構成が語ること

IPO時の株主構成を見よう。

外部株主は、ノジックス1.84%とセプテーニ2.21%の、合計4.05%のみ(いずれも事業会社)。ノジックスの代表者は、IPO直前までラクスの取締役を兼務していた(IPOに際して退任)。セプテーニの保有理由は取引関係か個人的関係か定かでないが、いずれにせよVCではない。

そして、IPOに際する「親引け」後の株主構成では、創業者を含む経営陣の保有比率が77.21%(セプテーニを含めると79.34%)に達していた。

※親引けとは。 IPOの公募・売出しに際して、発行会社が指定する第三者(取引先、事業提携先など)に、証券会社を通じて株式を優先的に配分すること。通常の抽選・裁量配分とは別枠で、上場後の安定株主形成などを目的に行われる。

外部資本4.05%。VC資本ゼロ。上場時点でも経営陣が77%超を保有。 これが、時価総額3,668億円(上場来高値では8,461億円)の企業の、出発点の姿である。

6-3. 「創業者主導」ではなく、「Bootstrap」

Vol.1では「Bootstrap」という呼称を「創業者主導(Founder-led)」に改めた。理由は、Bootstrapが「外部資本ゼロ」という意味であり、外部資本15%以下を許容する定義には不適切だったからだ。

その判断は正しかった。だが今、その「誤解されやすい原義」に、文字通り合致する企業が現れた。

ラクスは、創業者および関係者の資本と、事業が生んだキャッシュフローだけで成長した。VCから1円も調達せず、上場し、TVCMを打ち、時価総額3,668億円の企業になった。これは「創業者主導」ではない。正真正銘の「Bootstrap」である。

日本のスタートアップ史において、これは極めて稀有な達成だ。だからこそ、Bootstrapというカテゴリを、ラクスのために復活させたい(n=1)。

「資本効率」を測ろうとして、測れない企業が存在していた。それが、この分析で最も価値のある発見だったかもしれない。

7. 含意

三つの含意を述べる。

第一に、「いくら調達したか」と「いくらの価値になったか」は、別の問題である。

メルカリは165億円を調達して7,454億円になった。ラクスは1.5億円で3,668億円になった。どちらが「成功」か——それは問いの立て方による。だが、資本の生産性という一点においては、答えは明白だ。

第二に、上場時の評価は、その後を何も保証しない。

IPO時に最低の効率だったSHIFTが、後に735倍まで駆け上がった。IPO時に断トツだったGREEは、15年前の高値を超えられない。市場は、上場の瞬間には、その企業の将来性までは予測できない。

第三に、外部資本は「必要条件」ではない。

Vol.1-1で見た通り、日本のトップスタートアップの78%はVC・外部資本主導である。もちろん、時代背景、事業内容、ビジネスモデルによって先行投資の必要性は大きく異なる。

しかし、ラクスは、ほぼ外部資本なしに、TVCMを打つ有名企業になった。外部資本は成長を加速する手段であって、成長の前提ではない——ラクスは、その生きた証明である。

8. 限界

本稿の限界を正直に記す。

※1 調査が可能な範囲で、創業者の資産管理会社や個人株主のうち、創業者の身内と判断できる株主を特定し、「創業者主導」の企業を改めて定義し直した。その結果、投資家DNAに多少の違いが発生している。

・サンプルは10社のみ。Vol.1.1の50社分析とは粒度が異なる。ここでの発見は仮説であり、統計的に確立された法則ではない。

・分母(IPO前調達額)の定義には幅がある。関係者への新株予約権行使による調達は除外し、既存株主への割当増資は含めた。会社によって資本政策の記載粒度が異なるため、完全な比較可能性は担保されていない。

・ラクスの分母は、前述の通りVC資本を含まないが、事業会社からの少額出資(4.05%)と営業利益からの増資(推測)が混在している。純粋な「外部資本ゼロ」ではない点は、正確に理解されたい。

・時価総額は市場環境に強く依存する。2021年のグロース株バブル、その後の調整——本稿の数字は、2026年7月7日という一時点の断面にすぎない。

※ 改訂記録(Vol.2.1 → Vol.2.2) 本稿は、2026年7月23日に公開したVol.2.1を訂正・更新したものである。主たる訂正点は、GREEの「上場来高値ベースの時価総額」の算定である。GREEは上場から高値到達までの間に複数回の株式分割(2010年10月の1株→5株など)を実施しているが、当初の算定はこれを十分に反映できておらず、発行済株式数を過小に用いていた。この結果、当初約3,450億円としていた同社の高値ベース時価総額を、一次資料(EDINET四半期報告書、2011年9月末時点の発行済株式数231,540,000株)に基づき約6,576億円に訂正した。あわせて他の9社についても一次資料で再検証し、いずれも軽微な修正にとどまることを確認した。なお、本訂正は「現在ベースの資本効率」に関する本稿の主要な結論には影響しない。

データ:各社IPO目論見書(資本金及び資本準備金の推移)、みんなの株式、Yahoo!ファイナンス。2026年7月7日終値ベース。分析・作図は筆者。IPO前株主構成の数値は付属スプレッドシート(v4.0)を参照。

THE REAL PICTURE Vol. 1.1: 日本のスタートアップ、その成長資本の実像。

2026年7月7日終値ベースの時価総額TOP50。そのIPO前の株主構成(目論見書の株主の状況等)から、日本のスタートアップの「投資家」を読み解く。

※本稿(Vol.1.1)では、調査が可能な範囲で創業者の資産管理会社や個人株主で創業者の身内と判断できる株主を特定し、「創業者主導」の企業を改めて定義し直した。その結果、投資家DNAに、Vol.1から多少の違いが発生している。

1. 問題意識

日本の時価総額上位スタートアップは、ベンチャーキャピタル(VC)の資金で大きくなったのか。創業者の自己資本か。事業会社の戦略出資か。

この問いに答えるため、1990年代後半以降に設立され、新興市場にIPOし、現在も上場している「スタートアップ」を時価総額で上位50社に絞り、そのIPO前の株主構成を分類した。分類軸は「投資家DNA」——その会社を主に誰の資本が支えたか、である。可能な限りIPO目論見書の「株主の状況」という一次情報で確認した。

なお、本レポートで分析しているのは、IPO前の株主構成における「株式保有比率」であり、各社が実際に外部から調達した「金額」ではない。どれだけの株式を外部投資家が保有していたかと、会社が成長過程でいくらの資金を調達したかは、別の指標である。調達金額を軸に分析すれば、また違った景色が見える可能性がある。

「株式保有比率」という観点に基づき、結論を先に述べる。上場企業を「スタートアップ(テクノロジーや新しいビジネスモデルに立脚した事業)」に絞り込み、外部資本を一次情報で測ると、上位はVC・外部資本主導が明確な多数派になる。そしてこの結論は、母集団の定義と、外部資本の測り方——この二つで大きく異なることが分かる。

2. 母集団の定義と除外基準

収録の外形基準は3つ。①現在も上場中、②新興市場IPO(初回上場市場で判定。ただしVCから調達したスタートアップが東証一部に直接上場した場合は例外収録)、③1990年代後半以降の設立を基本とする。

但し、外形基準だけでは不十分だった。新興市場にIPOした企業には、小売・外食・老舗製造・保守業など、事業の性質がスタートアップとは言い難いものが多数含まれる。そこで定性判断を加え、時価総額が高くても次のような企業は除外した。

除外にはいくつかの原則を適用した。事業会社の出資があっても、それが少数の戦略出資で創業者が主導していれば収録する(MonotaRO・マネックス・エムスリー)。尚、GMOペイメントゲートウェイも、村松竜氏が1999年に創業したペイメント・ワンが源流だが、2004年に株式交換でGMOと統合し、上場時は親会社GMOが57%を保有する支配株主であったため、投資家DNAはCorporate VCとした(外部の株式保有比率は約82%)。一方、GMOフィナンシャルHDはGMOの子会社として設立されたため母集団から除外している。PEが既存企業を買った受け皿は除外するが、GENDAのようにファンドとプロ経営者がゼロから新設した企業は収録する。M&A仲介でも、ストライクのようにS venture Lab(大企業×スタートアップのオープンイノベーションM&A)という別次元の事業を持つ場合は残した。

境界は連続的で、明快な線は引けない。それを踏まえて、除外した企業とその理由を明示することが不可欠だと考える。上位を塗り替える規模の企業(ニトリ1.4兆、ベイカレント1兆超)を外している以上、ここがこの分析の生命線である。

3. クロス分析

一次情報で創業者および関係者、外部投資家の株式保有比率をもとに分類すると、Mixed / VC・外部資本主導(※1)が38社(76%)、創業者主導が12社(24%)(内訳:創業者主導10社+楽天+Bootstrap 1社)(※2)となる。

ここでの「創業者主導」の定義は次のとおり。①創業者・インサイダーが支配的持分を持ち、かつ②外部投資家の株式保有比率(VC+CVC+事業会社+エンジェル+金融投資家。役職員・従業員、および地銀・信金など関係金融機関の関係出資は除く)が15%以下(目安)である。論点は「外部からリスクマネーをどれだけ入れたか」であり、VCに限定しない。

創業者主導12社の内訳は、アズーム(4.9%)、チェンジHD(6.7%)、PKSHA Technology(8%)、ZOZO(9%)、弁護士ドットコム(9%)、コロプラ(10.1%)、ジンズHD(10.6%)、ラクス(11.4%)、MTG(11.4%)、GENDA(12%)、GMOインターネットグループ(12.5%、確度低)、楽天グループ(16.4%、例外的に創業者主導と定義)。

日本のトップスタートアップの多数派(76%)は、VC・外部資本主導である。これは驚くにはあたらない。むしろ強調したいのは、残り24%——創業者が支配権を手放さなかった12社——の顔ぶれである。ZOZOのように時価総額1兆円を超えながら創業者主導を貫いた例外が、確かに存在するということだ。

※1:本稿で「Mixed / VC・外部資本主導」とは、Mixed+独立系VC(Independent VC)+CVC(Corporate VC)+外資VC(Foreign VC)+事業会社+エンジェル+金融投資家の合計を指す。「Independent VC」は、金融・事業会社の子会社ではない独立系ファンドが主導する企業に限定した。

※2:「Bootstrap」は、VCからの資金調達がゼロで、創業者・内部関係者の資本と、事業が生み出した営業キャッシュ・フローによって成長した企業を指す。本稿の50社では、ラクス1社のみが該当する。同社のIPO時の外部株主は、ノジックス1.84%とセプテーニ2.21%の合計4.05%(いずれも事業会社)にとどまり、IPOに際する「親引け」後も、創業者を含む経営陣が77.21%を保有していた。なお「親引け」とは、IPOの公募・売出しに際して、発行会社が指定する第三者(取引先・事業提携先など)に、証券会社を通じて株式を優先的に配分することをいう。ラクスの詳細はVol.2で論じる。

ZOZO(スタートトゥデイ)は伊藤忠商事(1.07%)、住友商事(0.76%)、ジャフコ(0.72%)といった事業会社による戦略出資およびVC(ジャフコ)による出資があるが、外部資本比率「9%」のため、「創業者主導」と定義した。

創業者の持株比率の再算定後、外部資本比率の平均は、Pre-1995で49.1%(n=4)、第1世代で46.0%(n=22)、第2世代で41.1%(n=17)、第3世代で45.3%(n=7)となった。旧稿では「世代とともに外部資本が上昇する」という傾向を報告していたが、「身内」を正しく除いた結果、世代間の差はほぼ消失し、明確な上昇トレンドは確認できなくなった。日本のVCエコシステムの成熟度と資本構成の関係は、当初考えていたよりも弱いというのが、再調査後の見立てである。

但し、Pre-1995世代に関しては、スタートアップそのものの絶対数が少なく、本稿の対象としているのは「時価総額TOP50」に含まれる企業という条件が関係しているとも考えられる。

時価総額5,000億円以上の9社(楽天・エムスリー・ZOZO・MonotaRO・サイバーエージェント・GMOペイメントゲートウェイ・メルカリ・カカクコム・IIJ)を除き、1,000〜2,000億円帯のスタートアップの分布を見やすくした拡大版が以下である。創業者主導型(15%線の左)とMixed・独立系VC(中位)、外部45%超の高外部資本群(右)が読み取れる。

「外部資本を多く入れた企業ほど時価総額が高い」という単純な関係は、上位50社の中には見えない。時価総額の中央値は、創業者主導(12社)が約1,552億、Mixed(38社)が約1,423億とほぼ拮抗し、外部資本の多寡では説明できない。むしろ最上位の楽天・ZOZOは、いずれも外部15%以下の創業者主導型である(楽天は外部比率が16.4%と推定しているが、創業者関連の持株比率を正確に確認できなかったことと、三木谷氏主導であることが明確なため、創業者主導と定義している)。

外部資本率15%以下の企業を見ると、共通しているのは、2000年以前(ラクスは2015年上場だが2000年設立)と、社歴が長く、日本におけるスタートアップエコシステムが育まれる前に創業しているケースが約半数となっている。今と比べて外部資本の調達が簡単ではなかったことも影響していると思われ、自ら生み出した営業キャッシュ・フローで成長してきたとも読める。なお、散布図には、TOB・MBOで非公開化したウェルスナビ・ラクスル(後述・一次情報・赤×印)を参考併記した。

3-4. 参考:非公開化した2社 —— ウェルスナビとラクスル

本稿のTOP50は「現在も上場中」の企業に限っている。だが、日本のスタートアップシーンを語るうえで外せない2社が、直近でTOB・MBOにより非公開化した。ウェルスナビ(2025年、三菱UFJ銀行によるTOB)とラクスル(2026年、ゴールドマン・サックス系MBO)である。

両社はいずれも、独立系VCを中心に外部資本を厚く入れて成長した、日本を代表するVC-backedスタートアップである。非公開化時の価値はウェルスナビ約1,161億、ラクスル約1,300億。外部投資家の株式保有比率も一次情報(IPO目論見書の大株主表)で確認でき、いずれも約60%超と高水準である。ウェルスナビは柴山和久氏24.84%に対しSBI・DBJキャピタル・グローバルブレイン等のVC・金融が、ラクスルは松本恭攝氏21.55%に対しWiL・グローバルブレイン・YJ・日本政策投資銀行等のVC・金融が外部の中心を成す。両社とも散布図の右側(外部資本が厚い領域)に位置する。上場維持だけが「成功」ではなく、次の成長に向けて非公開化という出口を選んだ大型スタートアップもまた、外部資本を梃子に成長した——この2社はその代表例である。

4. 主要な発見(仮説レベル)

仮説1:スタートアップに絞り、外部資本を一次情報で測ると、Mixed / VC・外部資本主導(76%)が多数派になる。

仮説2:「創業者主導」の中にも、一定割合の外部資本を受入れているケースが見られる。とりわけB2B・ヘルスケアは事業会社の戦略資本が見られる。

仮説3:世代による外部資本依存の差は、再算定後はほとんど確認できない。但し、今回の対象企業の属性による影響が考えられる。

仮説4:外部資本の比率と時価総額に、単純な正の相関はない。創業時期、事業内容、ビジネスモデルにより、外部資本比率と時価総額の関係が異なる。

5. 含意

最大の含意は二つ。第一に、母集団の定義しだいで結論が反転すること。外形基準だけで機械的に上位を取ると小売・外食・事業会社系が厚みを増し、「VC等の外部資本に頼っていない」像が現れる。定性的に絞り込むと像は反転する。

第二に、「創業者主導(自己資本型)」も、一定割合の外部資本を導入している。

当然のことながら、母集団の属性が結果を大きく左右する。

6. 限界と今後

本稿の分類は仮説レベルである。限界を正直に記す。

・外部投資家の株式保有比率を一次情報(IPO目論見書の株主の状況)で確定できたのが大半だが、IIJ・GMOインターネットの2社は一次情報が取れず、定性判断で分類した。楽天は「クリムゾン系ファンドを創業者の器と判断」しており、外部LPの可能性は残る。

・数値VC%(外部%)は上位帯で欠測が残り、時価総額との定量的相関は限定的である。

・時価総額は数億〜数百億の帯で僅差の入れ替わりが起きる。50位近傍の順位は確定的でない。

データ:各社のIPO目論見書(株主の状況)、2026年7月7日の終値。分類・作図は筆者。株主構成の表記中の人名は敬称を省略した。数値の詳細は筆者作成のスプレッドシート(v5.0)。

「日本のベンチャーキャピタル」と「スタートアップIPO」。

日本のスタートアップエコシステムが、ひとつの転換点を迎えようとしている。東京証券取引所がグロース市場の上場維持基準を時価総額100億円に引き上げる方針を打ち出したことで、IPOの「出口」としての意味合いは大きく変わる。ベンチャーキャピタル(VC)のポートフォリオ戦略も、スタートアップの資金調達の設計も、これまでの前提を見直す必要が出てくるのは必至だろう。

そうした文脈のなかで、ネットバブル以降の四半世紀を振り返ってみたい。

スタートアップへの資金提供と育成に関するVCとしての成果は、IPOに限らず、M&AでのEXIT等も含めて語る必要がある。しかし、データ取得の容易性、冒頭で述べた東証の上場維持基準の引き上げによるIPOの意味合いの変化を踏まえ、本レポートでは、日本のVC各社が生み出してきたIPOに限定して調査した。また、金融系・独立系・事業会社系といった母体の違いによって違いはあるのか。個々のVCが自社の実績をウェブサイトに掲載していても、横断的に比較できる形で整理されたものは少ない。

本レポートは、JVCA(日本ベンチャーキャピタル協会)会員以外を含めて、主要なVCを対象に、各社の公式サイト、JPX(日本取引所グループ)の新規上場データ、INITIAL、STARTUP DBといった業界標準のデータソースをもとに、IPO実績を3つのレイヤーで分析したものだ。累計IPO数2000年以降のIPO数、そしてスタートアップIPO数(定義はレポート本文中で説明)に絞り込んだ数字を、できる限り横並びで比較できるよう整理した。

また、日本のスタートアップに関する英語の情報発信は、未だに限られている。海外の投資家やスタートアップ関係者が日本のエコシステムを正確に理解しようとしても、参照できる一次情報が少ない。このレポートが、国内外の業界関係者にとって、多少なりとも参考になれば幸いである。

※本レポートの英語版:https://ikuohiraishi.substack.com/p/mapping-japans-vc-landscape

1. 調査概要と「スタートアップIPO」の定義

日本のVC業界には長い歴史がある 。特に、銀行系VCや老舗VCの「累計IPO数」には、1990年代以前の古い案件や、スタートアップとはみなされない中小企業(SME)へのファイナンス型投資が多数含まれている。そのため、スタートアップ投資の純粋な成果を測定するために、各VCの実績を以下の3つのレイヤーに構造化した:

レイヤー1 累計IPO数(全期間/設立来):各VCが公式に発表している全期間の総IPO数。公式発表がない場合は、外部データベースからの推定値を記載している。

レイヤー2 2000年以降のIPO推定数:ITバブル期以降の現代のベンチャー投資の成果を測定するための指標。ジャフコ グループについては、公開されているPDFリストから実績値をカウントし、他のVCについては、公開情報に基づく推定値を使用している。

レイヤー3 スタートアップIPO推定数(2000年以降):レイヤー2の中から、以下の条件を満たす案件を「スタートアップIPO」として抽出・推定した数値。

条件1:1998年以降に設立された企業(ネットバブル以前の歴史の古い中小企業案件を除外)

条件2:VC投資を受けている時点でスタートアップの蓋然性が高い企業と判断(投資ステージは問わない。シード〜レイターすべてを含む)

※理想的には複数VCによるシンジケート投資が望ましいが、単独投資であっても上記条件を満たす場合はスタートアップIPOに含める。

本調査は、全体像を把握するための「推定値」を含んでおり、JPX(日本取引所グループ)の新規上場データ、INITIAL (Speeda)STARTUP DB等のスタートアップデータベース、および各VCの公開ポートフォリオ情報をもとに網羅的に分析している。 [1] [2]。

2. 主要VCのIPO実績(3グループに分類)

本レポートの調査対象とした主要VCを、「銀行系・老舗VC」、「独立系スタートアップ特化VC」、「CVC・事業会社系VC」の3つのグループに分類した。

【銀行系・老舗VC】 歴史的に、これらのVCには中小企業へのファイナンス型投資が含まれているため、レイヤー3はレイヤー1および2から絞り込まれている。ただし、投資ステージ(シードからレイター)に関係なく、「1998年以降に設立されたスタートアップ」であればレイヤー3に含まれる。

注:三井住友海上キャピタルは1990年設立の老舗VCだが、会社全体の公式な累計IPO数が見当たらず(2001年以降の52社のみ抜粋掲載)、表からは除外している 17

【独立系スタートアップ特化VC】設立以来、これらのVCは主にシードおよびアーリーステージのスタートアップに投資しており、協調投資が標準となっている。レイヤー3 ≒ レイヤー1および2となる。

注:B Dash Venturesは公式noteで『累計100社以上に投資し、多くのIPO・M&Aの実績』と述べている(2024年10月)。一方、STARTUP DBでは投資先77社、EXIT 22社と記録されている。公式のIPO数は非公開のため、表からは除外した。[1] [28]

【CVC・事業会社系VC】親会社との事業シナジーを目指す一方で、スタートアップへの純投資も行っている。比較的最近設立されたため、多くの場合、レイヤー3 ≒ レイヤー1および2となる。

注記:

•*1:ジャフコ グループのレイヤー2「382社」は、公式の公開PDF「上場ポートフォリオ企業一覧」(2026年4月22日現在、国内833社)からテキストを抽出し分析して直接集計した実績値。ただし、PDFのレイアウト上、テキスト抽出の誤認識がある可能性があり、約±5社の誤差を許容している。

•*2:三菱UFJキャピタルおよびみずほキャピタルのレイヤー2の数値は、公式実績ページに掲載されている年次データおよび企業リストに基づく推定値。

•*3:ニッセイ・キャピタルのレイヤー1「278社」は、公式サイトに記載されている数値。レイヤー2は、同リストから2000年以前の案件をカウントして除外した数値。

•*4:SBIインベストメントの「169社」は、公式IPO実績ページ(アーカイブ01-05、2001-2026年を対象)からの集計値。公式サイトの別の場所に記載されている「総投資先1,314社」は総投資件数であり、IPO数ではない。IPO数は、海外IPO(NASDAQ、NYSE、KOSPIなど)を含む。

3. 日本の年別スタートアップIPO件数推移(2000年〜2025年)

以下の表は、市場全体の総IPO数に対して「スタートアップIPO」(レイヤー3)が占める割合の推移を示している。総IPO数はJPX(日本取引所グループ)の新規上場情報に基づいている [38]。INITIALなどのデータベースに基づく推定値を含む 。[1] [37]

注:このデータにはTOKYO PRO Marketは含まれていない。

4. 考察

今回の調査を通じて、日本のスタートアップIPO市場を支えるプレイヤー(VC)の多様性と構造的な違いが理解できる。

3層構造が示す「銀行系・老舗VC」と「独立系VC」の本質的な違い

銀行系・老舗VC(ジャフコ三菱UFJキャピタルみずほキャピタル等)は、レイヤー1(累計IPO数)では1,000社前後の圧倒的な実績を誇る。しかし、レイヤー2(2000年以降)に絞ると約250〜400社となり、さらにレイヤー3(スタートアップIPO)に絞ると100〜180社規模まで縮小する。この「逓減構造」は、彼らの歴史的実績の中に、中堅・中小企業への融資的な上場支援案件が多数含まれていたことを示している。それでもなお、レイヤー3において、独立系VCを上回る100社超のスタートアップIPOを創出しており、彼らが伝統的な中小企業投資と並行して現代のスタートアップ投資に適応し、日本のエコシステムにおける資金供給のバックボーンであり続けていることを証明している。

一方、グロービス・キャピタル・パートナーズ(GCP)グローバル・ブレインインキュベイトファンドUTECなどの独立系VCは、レイヤー1からレイヤー3までほぼ同じ数値を示している。これは、彼らが設立以来、主にシードおよびアーリーステージのスタートアップへの投資に注力し、他のVCとの協調投資を行うという現代のスタートアップ投資の王道を歩んできたことの直接的な証拠である。「ほぼ100%のスタートアップIPO純度」という数字は、彼らのファンドの性質そのものを体現している。

CVCの台頭と実績

Z Venture Capital伊藤忠テクノロジーベンチャーズスパークス・アセット・マネジメントなど、2000年代以降に設立されたCVCや事業会社系VCは、20から40社規模のスタートアップIPOを着実に生み出している。この数字は、彼らが親会社との事業シナジーだけでなく、純粋なキャピタルゲインとスタートアップの成長支援の両方を達成し、市場における重要なプレイヤーとしての地位を確立していることを示している。

スタートアップIPO市場の成熟と直近の「選別」

2000年代初頭、全IPOに占めるスタートアップIPO(レイヤー3)の割合は約20%に過ぎなかったが、2015年以降は一貫して50-60%を占めており、日本のIPO市場においてスタートアップが主役の座に就いたことを明確に示している。

しかし、2025年には総IPO数が66社に急減し、スタートアップIPOも40社台に落ち込んだ。INITIALのレポートでも指摘されているように、東証グロース市場の上場維持基準の厳格化(上場後10年で時価総額40億円以上から、上場後5年で時価総額100億円以上へ)を背景に、投資家は「小規模IPO」を敬遠する傾向を強めており、勝てる道筋が明確な企業に資金が集中する「選別」が強まっている。AIがあらゆる産業の境界線を書き換えている世界において、スタートアップは、どの市場でどのような事業を行うのかを再考する必要がある。日本のスタートアップエコシステムが、大きな転換期を迎えていることは間違いない。

参考文献

[1] INITIAL. 『選別と延長戦が進む ── 2025年スタートアップ資金調達動向』.

[2] STARTUP DB. 『【2025年通期】国内スタートアップ投資動向レポート』.

[3] ジャフコ グループ株式会社. 『ポートフォリオ(上場ポートフォリオ企業一覧PDF )』.

[4] 三菱UFJキャピタル株式会社. 『IPO実績』.

[5] みずほキャピタル株式会社. 『上場実績』.

[6] 大和企業投資. 『実績』.

[7] りそなキャピタル. 『IPO実績』.

[8] 日本アジア投資. 『IPO実績』.

[9] ニッセイ・キャピタル株式会社. 『投資実績』.

[10] オリックス・キャピタル. 『私たちについて』.

[11] 日本ベンチャーキャピタル. 『IPO実績』.

[12] SMBCベンチャーキャピタル株式会社. 『投資実績』.

[13] STARTUP DB. 『DBJキャピタル株式会社』.

[14] モバイル・インターネットキャピタル. 『MICについて』.

[15] KSP. 『投資ファンド』.

[16] SBIインベストメント株式会社. 『IPO企業一覧』.

[17] 三井住友海上キャピタル. 『IPO実績』.

[18] グローバル・ブレイン株式会社. 『ポートフォリオ』.

[19] グロービス・キャピタル・パートナーズ株式会社. 『沿革』.

[20] サイバーエージェント・キャピタル. 『ポリシー』.

[21] インキュベイトファンド. 『SUMMARY OF 2025』.

[22] 東京大学エッジキャピタルパートナーズ. 『UTEC』.

[23] STARTUP DB. 『WiL, LLC』.

[24] XTech Ventures. 『ポートフォリオ』.

[25] Tracxn. 『ANRI』.

[26] ユナイテッド. 『投資先一覧』.

[27] STARTUP DB. 『Coral Capital』.

[28] B Dash Ventures. 『B Dash Ventures 公式note』.

[29] Z Venture Capital. 『パフォーマンス』.

[30] 伊藤忠テクノロジーベンチャーズ. 『ニュース』.

[31] スパークス・アセット・マネジメント. 『未来創生ファンド』.

[32] NTTドコモ・ベンチャーズ. 『ポートフォリオ』.

[33] GMO VenturePartners. 『ポートフォリオ』.

[34] 電通イノベーションパートナーズ. 『会社概要』.

[35] 日本郵政キャピタル. 『ポートフォリオ』.

[36] 博報堂DYベンチャーズ. 『ニュース』.

[37] INITIAL. 『スタートアップIPOの動向』.

[38] ジェネシアベンチャーズ. 『ポートフォリオ』.

[39] サムライインキュベート. 『ポートフォリオ』.

[40] dnx Ventures. 『JPファンド ポートフォリオ』.

[41] アーキタイプベンチャーズ. 『ポートフォリオ』.

[42] East Ventures. 『ポートフォリオ』.

[43] Scrum Ventures. 『投資先一覧』.

[44] DIMENSION株式会社. 『公式サイト』.

[45] Beyond Next Ventures. 『会社概要』.

[46] スカイランドベンチャーズ. 『公式サイト』.

[47] : https://www.jpx.co.jp/listing/stocks/new/index.html “JPX(日本取引所グループ ). 『新規上場情報』.” 参照: https://www.jpx.co.jp/equities/listing-on-tse/new/basic/04.html

シリコンバレーへの執着は捨てるべき。

前回に引き続き、このエントリーは、Substackに投稿したニュースレター(英語版)の日本語訳(要約)である。詳細は英語版を参照されたし。

今回の衆議院選挙ではいわゆる「高市旋風」が吹き、自由民主党が歴史的な勝利を収め、圧倒的な存在感を獲得した。一方、既存の野党は、その「賞味期限」に達したのか? 壊滅的な敗北に終わった。

そのような中、政界における「スタートアップ」とも言える、選挙前は「議席ゼロ」だった「チームみらい」が「11議席」を獲得。大躍進した。ディスクローズしておくと、僕は選挙期間中に「チームみらい」の党員になった。

ところで、スタートアップの世界では、「シリコンバレー」は圧倒的な存在感を放っている。その結果、日本でも「シリコンバレーを目指す」「シリコンバレー型エコシステムを作る」という言説が、半ば呪文のように繰り返されてきたが、この「シリコンバレーへの過度な執着」には、距離を置くべきだろう。

その歴史的背景や国家としての成り立ち等が異なるわけで、その価値観やカルチャー、エコシステムを「コピー」することは意味がないし、不可能である。

主要指標サマリー(2024年)

このレポートは「Manus (AI)」を使って作成し、日本人の起業家およびエンジェル投資家の一人として分析を加えたものだ。アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、日本という主要5か国を比較し、投資金額、ディール数、投資家の構成など、複数の観点から各国のエコシステムの特徴を整理している。データは、2024年のものを使用した。

周知の事実として、アメリカの突出ぶりは際立っている。アメリカのスタートアップ投資総額は 2,154億ドル。これは、他の4か国を合計した約 333億ドル の、実に6倍以上になる。

これは単に「アメリカは市場が大きい」という話ではない。

スタートアップ・エコシステムの成熟度、リスクマネーの供給量、そして「最初からグローバル市場を前提」にした起業文化——これらすべてが、日本とは根本的に異なっている。いや、日本だけでなく、世界中のどのエリアとも異なっており、模倣できるものではない。

ディール数を見ても、アメリカは14,000件超と圧倒的だ。

日本では2,869社(資金調達額が判明している件数)が資金調達を行っており、これはイギリス(約2,800件)と同数で、フランスやドイツを大きく上回っている。

但し、1件あたりの投資規模が、イギリス、フランス、ドイツとの比較においても極端に小さい平均投資額で見ると日本約230万ドル(3.45億円)中央値では35万ドル程度(5,250万円)と、欧米主要国の「10分の1」水準に留まっている

では、この差はどこから来るのだろうか?

その最大の理由は、多くの日本のスタートアップが、依然として国内市場を主戦場にしていることにあると思う。国内市場だけを前提にすると、TAM(総アドレス可能市場)はどうしても小さくなり、大型の成長資本を呼び込むことが難しくなる。

さらに、日本では投資家の構成にも大きな特徴がある。

アメリカや欧州では「独立系VC」が中心だが、日本では「大企業や金融機関」がスタートアップ投資の大きな割合を占めている。これはオープンイノベーションという観点では意味があるかもしれないが、必ずしも「世界で勝つスタートアップ」を生みやすい構造とは言えないだろう。

また、「LP(Limited Partner)」と呼ばれるVCファンドへの出資者の顔ぶれも国によって大きく異なる。

このような構造的な違いを踏まえると、シリコンバレーをそのまま真似ることは、あまり意味がないし、日本のスタートアップの成功には繋がらないだろう。むしろ、その発想自体が思考停止と言っても過言ではない。

日本も欧州も、それぞれ独自の歴史的背景や社会の構造、価値観、カルチャーがある。スタートアップの育成もそれに立脚する必要があるのは、わざわざ僕がこうして言うまでもない。

とは言え、シリコンバレーから学ぶべきことは多々あるのも事実。そして、人口減により、ほぼ確実に縮小する国内市場だけでプレーしても明るい未来は描けないだろう。

どうすれば、日本から「世界で勝てるスタートアップ」を輩出できるのか?

僕は「日本人と外国人による多国籍チームを組成する」ことがキーだと考えている。

終わっていない宿題である。

追伸:500 GlobalJETROにより、Building Cross-Border Understanding, Trust and Opportunity in Venture Capital. What is the US <> Japan VC playbook? というレポートが発行されている。日米の違いがよく説明されており、とても示唆に富んでいる。英語版だが、一読をお勧めする。AIを使って要約しても良い。

さようならGGC。やっぱりDreamVision!(後編) 〜Connecting the dots. 終わっていない宿題。〜

シリコンバレーでの一週間は、改めて自分自身に向き合う時間になった。特にKeith Teareとの対話は、何が自分を衝き動かしているのか? 僕にそのことを考えさせた。

ひとつは、職業的問題意識に根ざすもの。もう一つは個人的情熱というか憧れのようなものだった。
ただ、その両者が、自分のアイデンティティの源泉であり――自分が何者なのか?――をより深く理解することになった。

中学2年生の時だったと思う。

どこだったかは忘れたが、担任の先生が、アメリカのある州との交換留学制度を紹介した。僕は迷わず手を挙げた

だが先生は「中学生には危険だ。高校や大学に行ってからにした方がいい」と言った。
だったら、なぜ紹介したのか? 矛盾も甚だしい。

そのとき以来、僕は「(将来は)海外に住んでみたい」と思い続けてきた。そして「コスモポリタンな人間」になりたいと・・・。

職業的問題意識は、「なぜ、日本から次のソニーやホンダが生まれないのか?」ということだ。

Keithは僕に言った。
日本は大きな潜在力を持っているにも関わらず、それが発揮されていない。だからIkuoは『Next Sony, Next Hondaが生まれて然るべきだ(生み出せないはずはない)』と思っているんだよ」。

確かにその通りである。GoGlobal Catalystとして実施した「日本人と外国人の共同創業者マッチング」は目的ではなく、手段である。高度にグローバル化した世界では、「単一民族国家」という構造は大きなハンディキャップだと思うからだ。

シリコンバレーには、大胆に挑戦を続ける若い日本人起業家たちがいる。
僕は時々、彼らからエンジェル投資をして欲しいと相談されることがある。でも、今の僕は十分な資金がない。

僕は長年、起業家であり、エンジェル投資家としても活動してきた。シリコンバレーのスタートアップに投資し、小さなファンドも運営してきた。そして、周囲には大きな資産を作った起業家仲間がいる。

自分では投資ができないので、そういう彼らを紹介している。

でも、それではおもしろくない。人生は短い。もうひと勝負するなら、今しかない。
「自らが次のソニーやホンダを創ることに挑戦するのか? それとも、誰かを支援することで実現するのか?」。

インタースコープをM&AでYahoo! Japanに売却、WebCrewのIPO、DreamVisionでの挫折、SunBridge Global Venturesでのアクセラレーターの運営。Infarmへの投資し、Infarm Japanの設立。本体はユニコーンになるも破綻。成功も失敗も、すべてが僕のアイデンティティの源になっている。

Connecting the dots.

そろそろ、終わっていない宿題に取り組むとするか!

乞うご期待!

さようならGGC。やっぱりDreamVision!(前編) 〜 10年の思索と1週間の決断 〜

振り返れば、このアイデアは10年前から考えていた。具体的には、Entreprenerur First の二人との出会いがきっかけになっている。では、なぜ10年間も、温めたままにしておいたのか?

それは「日本では機能しないだろう」と思っていたからだ。実際に実施してみると、やはり機能しなかった。

それでも、やってみたこと自体には意味があった。ある意味、自らの仮説が証明されたので(苦笑)。むしろ、今は気持ちが晴れやかである。

僕のブログを読んでくれている人は覚えているかもしれないが、僕が10年間にも渡り、温めてきた構想を具現化させた「触媒(Catalyst)」は、Dan Brassington だった。彼との出会いが無かったら、僕は10年間抱え続けてきたアイデアに着手しないままだったかもしれない。

2024年7月12日(金)、代官山でいつものように彼と会った。その場は「10年間温め続けたアイデアを実行に移す」という決意を告げるためのMTGだった。

ここからGoGlobal Catalyst(GGC)の「実験」が始まった。
2025年7月、GGCとして初めての「Co-founder Matching Program」を実施し、7月22日にはDemoDayを開催した。

実績ゼロの挑戦であったにもかかわらず、30名の応募があり、11名の起業家に参加していただいた。

しかし、僕が懸念していたとおり、日本人の応募者はわずか「3名」。僕が採択し、実際に参加してくれたのは「1名」に過ぎなかった。その1名も僕の10年来の知り合いである。

すなわち「日本人と外国人をつなぐ共同創業者マッチング」という構想は、その名のとおりには機能しなかった。

日本には優れた起業家が数多く存在する。だが、英語でビジネスができるという条件が加わった途端、母集団は極端に小さくなる。

それは、僕が「Co-founder Matching」を考えた理由でもあり、10年もの間、このアイデアを先延ばしにしてきた理由でもある。
その惰性を断ち切ったのが、Danだった。彼の後押しがなければ、僕は一歩を踏み出せなかっただろう。

プログラム終了後、僕たちは都内のカフェで再び顔を合わせた。

Danはシンガポール、バンコク、シドニー、ロンドン、東京に拠点を持つ、「AI」に特化したコンサルティング会社「INCITE Advisory Group」経営している。「AI」という時流に乗り、彼の事業は飛躍的に成長し、彼自身は益々多忙を極めるようになっていた。

そのような事情もあり、彼は「取締役を辞し、持株をGGCに貢献できる他の者に譲りたい」と言って来た。また、彼は多忙さに加えて、日本語が話せず、GGCを支える余力がないと・・・。

僕は彼の申し出を受け入れた。

その一週間後、僕はシリコンバレーに行った。武蔵野大学アントレプレナーシップ学部(EMC = Entrepreneurship Musashino Campus)の学生を対象としたプログラムを実施するためである。

「シリコンバレーでの一週間、GGCをどの方向へ持って行くか?考えなよ」。Danはそう言った。

EMCプログラムでは毎年、僕の起業家仲間や投資先の創業者たちに、学生たちに向けて、起業家としての生き方やシリコンバレーという地域の「磁力や魅力」、そこで生きていくための条件等、メディアの記事では読むことができない、リアルな話をしてもらっている。その一つひとつが示唆に富み、学生だけでなく、僕自身にとっても深い示唆を与えてくれる。

最終日、学生たちはPlug and Playで英語によるプレゼンを行う。帰国子女等、英語が堪能な学生は殆どおらず、皆んな緊張マックスでプレゼンをする。最後は、僕から彼らにメッセージを送るのが恒例である。

僕は毎年、日本の財政状況が如何にクリティカルな状況にあるかや、周回遅れになっている現実を語り、危機感を植え付けてきた。

でも今年は、僕がシリコンバレー滞在中に下した決断――すなわち、GGCを解散するという意思決定とその理由について話をした。

実は、僕の話の前、投資先の一社、ModuleQというスタートアップの創業者、David Brunner が、その週の月曜日、大変遺憾ながら会社を畳むことになったという話を全社員向けに話をした、という話をしてくれた。

学生たちは「2連発」で、とてもシリアスな話を聞くことになった。そんなことで、学生たちは全員、とても神妙な表情で、僕の話を聴いていた。

続きは「後編」にて。