「ゼロ」金利解除

「ゼロ金利解除」という新聞の見出しを見て、僕は「ついに来たか!?」と思った。同時に、あるふたつの出来事を思い出した。

ひとつは、昨年、今住んでいるマンションを購入する際に「住宅ローン」を組んだ時のことだ。

「住宅ローン」を組むというのは僕にとって初めてのことだったので、某都銀の担当者(50才を過ぎたぐらいだろうか)に根掘り葉掘り、色々なことを質問した。

その時、その担当者は、「当面、ゼロ金利は続くと思いますので、変動金利(2年契約)にしておいて、2年後に、また、変動金利に契約をし直すのがいいと思いますよ」と言っていた。

しかし、僕には、どうしてもそうは思えなかった。素人発想ではあるが、これだけの「財政赤字」を解消するには、どう考えても「インフレ」に誘導するしかなく、このままゼロ金利が「2年間」も続くとは考えられなかったのだ。

結果として僕は、担当者が薦める2年契約の変動金利よりも金利の高い、3年契約の「固定金利」のローンを組んだ。

それから1年4ヶ月が経った今日、僕の考えは「現実」になった。

もうひとつ、思い出したことがある。こちらの方がより強く印象に残っている。それは、もう20年近く前のことだ。1987年の秋だった。

当時は、バブル経済のピークに向かっている最中で、不動産が軒並み高騰していた。

その頃の僕は、まだ20代前半で安月給で働いており、貯金もまったくない状態だった。そのせいもあってか、そのまま東京で働いていても「住む家」すら買えないだろうと思った僕は、実家の福島県郡山市に帰って、新しい人生をスタートさせようかと真剣に考えていた。自分に対する「自信」がなく、家を買えるようなお金を稼げるイメージがまったくもって描けなかった。

その時、そんな僕に、とても新鮮なアドバイスをくれた人がいた。王子紙工という印刷会社を経営していた種村さんという人だった。

「こんなバブル経済が来ると誰が予想したと思う? ということは、その逆に、今は高騰している不動産が急落することだって考えられるということだ。どうやって(東京で)生き残るかを考えなくちゃ」。彼は僕にそう言った。

僕は、その言葉をそのまま受け止められるだけの精神的強さはなかったが、なるほどそうか?と思った。そして、その数年後、実際にそうなった。失われた10年が訪れたのだ。

バブル経済が弾けた時、僕は心の中で「やった!!!」と思った。僕にも「家」が買えるかもしれない。そう思った。

今にして思うと、とても庶民的且つ切実な想いで生きていた。そして、今はとても幸せだと思う。

人間は、今、起こっていることがそのまま将来も続くと思ってしまう傾向があるが、明日、何が起こるかは分からないということだ。

その一方、異常なものは正常に戻るとも考えられるわけで、表面的な見方ではなく、その出来事の「本質」に目を向けることができれば、ある程度、将来を予想できるということになる。

「先見性」や「洞察力」というのは、物事の「本質」を見抜く能力とも言えるように思う。