BRICs の今:ロシア視察レポート。

1週間の日程のロシア視察から昨日、無事に帰国。

冷戦時代の「ソビエト連邦」の残像が残るロシア訪問に際しては、言葉にできない緊張感を持っていたが、現地の友人とその関係者のお陰様で今の「ロシア」を理解することができ、とても有意義な1週間になった。

写真での現地レポートがサンクトペテルブルグの3日目で止ったままだが、その続きの前に、現地で面会した方々からの情報と僕自身がこの目で見たことを元に、ロシアの今について説明したい。

RE:ロシアの社会事情(概況)

1. 人口と街の雰囲気: 

・ロシアの人口は、約1億4,000万人。

・モスクワは、約1,200万人。東京と同じレベル。
・サンクトペテルブルグは、約450万人。横浜と同じぐらい。

・但し、街の雰囲気はまったく異なる。

・モスクワは、とにかく「権威的/威圧的」な雰囲気。サンクトペテルブルグ(欧州を彷彿とさせるキレイでオシャレな街)から移動すると、その違いがよく分かる。

・その象徴が「クレムリン」。赤レンガの巨大な建物と城壁は、まさに「要塞」。
・5/7(水)は「メドベージェフ氏の大統領就任式」だったため、一般人はクレムリンからシャットアウト。僕は、その前日に現地のガイドにアテンドしてもらい、クレムリンを見学。翌日の大統領就任式に備えて、ところどころにテレビカメラが設置されており、また、クレーンでの空撮の練習が行われていた。

・もうひとつ、権威的/威圧的なモスクワをよく表現しているのがクルマ。至る所で最新式の「メルセデスベンツSクラス(550)」を見かける。特に、政府関係のクルマはすべて「メルセデスベンツSクラス(550)」。日本だったら、税金の無駄遣いだと言って問題になるだろうが、ロシア国民は「強いロシア」の象徴として受け入れられているらしく、むしろ、歓迎さえされているらしい(クルマに関する詳細は後述)。プーチン支持の理由も同じ。

・また、モスクワは異常に物価が高く、1泊「10万円」のホテルは珍しくもなんともないらしい。僕が泊まったホテル(品川プリンスぐらいのレベル)でも、約5万円!!! 因みに、スターバックスのコーヒーは「約350円(75ルーブル/日本では280円だったと記憶している)」。それでも、現地の若者で混雑している。

・モスクワは今のこの瞬間、間違いなく、世界で最も物価が高い都市だろう。

2. 金融/投資環境(まだまだ未発達):

・1991年のソビエト崩壊後に市場経済に移行したロシアであるが、現地で紹介されたロシア人によると、1990年代のロシアは「Most Criminal Period(マフィアの最盛期で、犯罪や腐敗が横行)」だったらしく、社会が落ち着いてきたのは、2000年になってから。プーチンの功績が大きい。彼は、KGB(アメリカでいうCIA)という秘密警察の出身。

・そのようなこともあり、金融ビジネス(信用が基盤)は、まだ、あまり発達していない。
・「住宅ローン(という制度)」のスタートが2年前(2006年)というのが、ロシアの金融環境を物語っている。ロシアでは「焦げ付きリスク」が高く、いわゆる「トンズラ」も珍しいことではないらしい。

・2年前まで住宅ローンという制度が無かった背景には、共産主義時代(70年間)には、国家から国民に住宅が「配給」されていたという事情もあることはある。但し、既に、共産主義崩壊から17年目に入っており、それだけでは説明がつかないのも事実。

・また、近年の「資源バブル」により、不動産の価格は高騰。特に、モスクワで顕著。
・今回のロシア視察で面会した元ネットビジネスの起業家(現在は、不動産と海外投資を行っている)は、15MM米ドル(約1,500万円)を投じた不動産が、3年半で「6倍(90MM米ドル)」になったと言っていた。
・詳細は後述するが、ネットビジネスで商業的に成功している話しはあまり聞かないという。そんなこともあり、不動産投資&海外投資にビジネスを変えたのだろう。

・金融環境(金融リテラシーなり民度と言ってもよいと思う)が未発達のロシアでは、ベンチャーキャピタルという存在はないらしい。億単位の資金を投資するには、あまりにクレジットリスクが大きいようだ。いわゆるベンチャー投資は、個人(Privateと言っていた)が行っているらしい。

・因みに、1991年のソビエト連邦崩壊に伴う市場経済化の波に乗ったのは、その殆どが40才以下らしい。先述の元ネットビジネスの彼も、30代前半。彼のような新富裕層がごそごそいるという。

3. 自動車の販売台数(新車): 約250万台(年)

・ロシアの自動車販売台数(新車)は、ここ2~3年で「300万台」を突破するらしく、日本の自動車市場(約300万台)を「抜く」ことになる。ゴールドマンサックスが、BRICsに注目した理由がわかる。

・このような市場環境を踏まえ、トヨタは昨年12月からサンクトペテルブルグで工場を稼働(反対側にはGMの工場がある)。視察に行った際は、ちょうど、シフト(2 or 3 交代)の変更時だったらしく、大勢の人たちが工場から吐き出されて来ていた。
・昨年にはスズキが工場建設を発表。2009年末の稼働を目指しているという。日産はロシアに工場はないらしいが、街中でかなりの台数を見かける。
・尚、ロシアの道路は舗装の状態が悪く、SUVが人気。

・人口のところでも触れたが、モスクワでもサンクトペテルブルグでも、高級ドイツ車を頻繁に見かける。特に、モスクワでは、ベンツSクラス、BMW 7シリーズ、AUDI A8 はもちろん、Range Rover(英国)、BMW X5、Posche カイエン等の高級車を至る所で見かける。東京のそれの比ではない。マセラッティも見かけた。LEXUS も多い。友人に言わせると、モスクワの人たちは「成金趣味」らしい。

4. インターネット関連:

・ネット人口は、約3,000万人(全人口の約20%)。ネット利用率は、決して高くない。但し、大卒以上になると、約80~90%が利用。いわゆる、世代間の「デジタルデバイド」が激しい。50才以上の年齢層では、PCを使う人が僅からしい(日本と同じような事情のようだ)。
・ロシアのネット利用率の低さの原因のひとつと思われるのは、PCの価格。日本と較べると、1.5倍から2倍ぐらいするようだ。回線スピードも、日本ほどは速くない。

・ロシアで最もよく使われているサイトは、「yandex.yu」。Google はつい最近、ロシアに進出したらしいが、まだ、あまり使われてないという。Yahoo! は聞かないとのこと(前述の元ネット起業家)。

・SNSはロシアにもある。最もメジャーなサイト(URLは未確認)は「コンタクト(1,200万人が登録)。あるMTGに参加していた女性3人は全員が登録しているという。

・ロシアのネットビジネスの「収益源」は、ほぼすべてが「広告」。「インターネット=無料」という概念が浸透しており、ネットでお金を払うという習慣はないらしい(ECの普及を確認し忘れた)。但し、トラフィックはかなり集まるらしい。今後の発展の余地は充分にあるのではないか?

5. 人材関連ビジネス:

・ロシアでの「人材関連ビジネス」は、日本で言う「人材紹介(サーチファーム型を含むと思われる)」が先で、求人広告はその後らしい。

・求人広告媒体は、ネットの普及率を反映してか、まだまだ「紙(新聞&雑誌)」がベース。それ以外では、いわゆる「ジョブフェア(企業説明会)」が主流とのこと。

・en ジャパンでいう「転職コンサルタント(自分のレジュメを登録しておくと、スカウトメールが来る)」等もあることにはある。名称は、そのものズバリ、Headhunter。但し、利用者は、若者に偏っているらしい。

・また、経済成長著しい(近年のGDP成長率は「7%」)ロシアにおいては、売り手市場の側面もあり、企業において人材の「採用」は、大きな課題となっているようである。

6. 社会問題: 少子高齢化が進むロシア。

・1990年代の混乱を経て、ようやく経済的発展の恩恵を被り始めた「子育て世代」にとっては、子供を育てることよりも「消費を楽しむ」ことに関心が移行しているのか、ロシアでも「少子高齢化」が社会問題になっているという。
・それを物語るように、クレムリンのすぐ横に、3世代の家族の写真を掲載した「子育てキャンペーン」的な屋外広告(かなり大きい広告)がたくさん掲出されていた。こういうところに、共産主義時代の名残を感じた。
・「高齢化」という面では、年金の支給額が経済成長に追いつかず、高齢者の生活を圧迫しており、大きな社会問題になっているらしい。因みに、月額の年金支給額は「約100ドル(1万円)」。子供からの援助がなければ、とても生活していける金額ではない。

・このように、経済発展著しいロシアであるが、言ってみれば、先進諸国が「20年間」をかけて達成してきた経済発展を、たったの「5年」で行おうとしているわけであり~それも「資源特需」で~、社会に様々な歪みが起きるのは当然の帰結でもある。

・上記のリンク先では、ルーブルの下落が説明されているが、ここ最近(2007年後半以降)は強くなっているようだ。その理由は、エネルギー資源の高騰で得た膨大な外貨を「ルーブル」に戻す(ルーブル買い)需要があるからのようである。

ということで、ロシアの「今」を理解することに、少しでもお役にたてれば幸いである。

尚、写真での現地レポートは、近々にアップロードします。