Keep Paddling.(漕ぎ続けよ)

僕が尊敬する田坂広志さんから、「漕ぎ続ける日々」と題するメルマガが届いた。

田坂さんは若い頃、山登りをしていたらしいが、入道雲を背に聳え立つ遠い頂上に向かって、ただひたすら、一歩一歩、前に進んでいた時の心境を綴っていた。

 暑い夏の日、登山道の入り口から見上げると、
 入道雲を背に、山の頂が遠く輝き、聳え立っている。
 何日か後には、その頂に立っている自分の姿を思い、
 その目標に向かって、一歩を踏み出す。

 しかし、まもなく、道の周りは森に囲まれ、
 その頂は視界から消えてしまう。

 気がつけば、狭い山道を、重い荷物を背負い、
 汗にまみれ、ひたすらに登り続けていく。
 ときに、道の険しさと荷物の重さに、足が止まり、
 暑さと渇きに、涼しい街の店を、恋しく思い出す。

しかし、頂上を極めるには、それでも、ただひたすら、次の一歩を踏み出し続けるしかない。

田坂さんのメルマガを読んで、僕が創業に参加したウェブクルー創業者の渡辺さんとの会話を思い出した。

2004年9月に念願の東証マザーズ上場を果たし、その暫く後に会った時、渡辺さんは、こう言っていた。

「濃い霧の中をただひたすら足元を見つめて前に進んで来たんだけど、目的地に着き、霧が晴れたら、なんと断崖絶壁のような峯を歩いてきたことに気づいたような気持ちです。濃い霧がなく、最初から目的地が見えていたら、怖くて怖くて、とても、ここまで来れなかったと思います」。

同じ創業者として、彼の気持ちが痛いほどよく分かった。

ところで僕は、インタースコープ創業者として、インターネットリサーチという市場を創ることにコミットし、インタースコープも業界を代表する企業にまで成長した。

ある意味、僕にとっての「最初」の「目的地(頂上)」に辿り着いた。

でも、僕は、自らの意思で、その頂上から下山し、また、山の麓に戻った。

その時は、「一度、登った山なら、必ず、また登れる」と思っていたが、いざ、山の麓に戻ってみると、僕がいた場所は、霧がかかって霞むほど、遠く高いところにあった。

「もう一度、あの頂を目指すのか?」と思った時、そこに到達するまでに越えなければいけない多くの苦労が目の前に浮かび、とんでもない重たい気持ちになったことを憶えている。

でも、もう一度、そこに行くには、一歩一歩、前に進むしかない。

ヘリコプターで一足飛びには行けないのである。

さて、もう一度、田坂さんのメルマガに話を戻すと、波乗りの世界の伝説的サーファー、「ジェリー・ロペス」の言葉を引用し、こう結んでいた。

  Keep Paddling.(漕ぎ続けよ)

一日、海にいて、波に乗っている時間は、数十分。

彼らもまた、漕ぎ続け、素晴らしい波がやってくる一瞬を待っている。

僕も「漕ぎ続ける」。