「パラダイス鎖国」。

パラダイス鎖国」という言葉を知ったのは、昨年の今頃だった気がするが、その「書籍」の存在を強く認識したのは、昨年8月、シリコンバレーで、吉川さんと久しぶりに会った時だった。

既に読まれた方も多いと思うが、「パラダイス鎖国」という本は、シリコンバレー在住の日本人、海部美知さんという通信・I.T.専門のコンサルティングファームを経営されている方が書かれたものである。

この���ニークな名称の本は、日本が「あまりに居心地の良い国」になってしまったが故、若者が海外に出ようと思わなくなったり、そもそも海外のことに関心がなくなり、自国にこもってしまっている現象を憂い、彼女なりの「解決策」を提示したものだ。

僕も記憶にあるが、日本が高度経済成長期からバブル経済に至る中で、自動車や家電が「アメリカ市場」を席巻したが故に貿易摩擦を巻き起こし、「輸出自粛」論さえ登場してしまった頃と較べると、現在のアメリカでの「日本のプレゼンス(存在感)」は極めて低くなってしまっているらしい。

高度経済成長期の頃の「Made in Japan」は、安いが粗悪品というイメージがあったらしいが、その後の「カイゼン」と一途な「生産性向上努力」により、「Made in Japan」は「プレミアム感」を手にするに至った。

その「プレミアム感」のお陰で、同じアジアの製品にも関わらず、「Made in Japan」に、中国製、韓国製等の製品よりも「高いおカネ」を払ってくれていたアメリカ人が、このままでは、中国製や韓国製と「同等のおカネ」しか払ってくれなくなってしまうのでは?と、著者は心配している。

アメリカにおける日本のプレゼンスが低下している原因は、日本企業による「輸出自粛(現地生産に切り替えたということもある)」のみならず、中国の台頭により、どうせ叩くなら、日本よりも「中国を叩いた方が読者が増える(視聴率なり部数が伸びる)」というマスコミの力学や、その方が「票が増える」という理由で、政治家も日本よりも中国を叩く傾向にあることなどがあるらしい。

ところで、ここ最近、ロシアに行くようになって感じたことだが、「Made in Japan」はロシアでも、とても評価が高い。

ロシアでは、ロシア製、韓国製、日本製という順番に、評価が高い。

因みに、トヨタのカムリは、2年ほど前から現地生産(サンクトペテルブルグ工場)に切り替わっているが、ロシア人は、ロシアで生産されたものよりも、日本から「輸入」されたカムリの方が良い(価値がある)という価値観を持っていた。

それほど、日本製品に対する評価が高いのである。

それは、自動車に限らず、家電でも同じで、「SONY」「Panasonic」の人気はとても高い。

その傾向は、中国やインドでも同じだと聞く。

僕は今まで、製造業の世界で働いたことがないので、その実感をビジネスで感じてきたわけではないが、ロシアに行くようになって、先人の築いた「Made in Japan」というブランドの価値(ありがたみ)を、肌で判じている。

それがあるから、日本社会は、これだけ豊かでいられると言っても過言ではないだろう。

そのプレミアム感を、何とか「僕らの子供の世代」に繋いでいきたいと思う。

ところで、著者の海部美知さんは、この点以外にも示唆に富んだ指摘をたくさんしているが、日本社会は「人材の流動性」が低く、そのことにより、新しい産業が興っても、そこに「優秀な人材」が流れて行かないことの「弊害」を危惧している。

「年功序列&終身雇用」という日本式経営モデルが崩れているとは言うものの、まだまだ、彼女が指摘する構造は、日本社会に強く残っているのは事実だろう。

近年の世界的経済危機により、大学生の人気就職ラインキングが、また、大企業志向に戻ってしまっているのも、憂うべき傾向である。

日本に活力をもたらすためにも、「ベンチャー企業」の「勃興と成長」が必要不可欠である。

そして、「価値観の多様化」と「主体性」を善しとする社会が必要である。