僕に数学の才能がありコードが書けたら、間違いなく人生は変わっていただろう。2000年頃、HTMLを少し書いたことはあったが、僕には向いていないと思い、すぐに辞めた。でも、そんな僕でもネットバブルの波に乗り、ウェブクルー(2004年9月に東証マザーズ上場)とインタースコープ(2007年にYahoo! Japanに売却)というスタートアップを共同創業した。
AIが世の中を席巻する今、プログラミンができる人にとっては千載一遇の好機だろう。ネットバブルに湧いた2000年前後を彷彿とさせるものがある。
さて、プログラミングができない僕だが、2011年3月、サンブリッジという会社に関わったことで、僕の人生は大きく変わった。そういう意味では、「平石さんがやることなら、よっぽど変なことじゃない限り、NOと言わないから!」とまで言って、僕をサンブリッジに誘ってくれたAllen Miner には感謝しかない。
僕と同年代でインターネット関連のスタートアップやベンチャーキャピタルに関わっていた人はご存じのとおり、彼は日本オラクル初代代表だ。日本語が堪能で、オラクル時代、創業者のラリー・エリソンから「日本市場を立ち上げて来い!」と言われて日本に送り込まれた人間だ。
サンブリッジは、そんなアレンを含み、米国のオラクルおよび日本オラクルのOBが6-7人で立ち上げたユニークな会社である。今でこそ当たり前だが、2000年当時、渋谷マークシティの17階(だったと思う)をワンフロア借り切り、Co-Working Space を運営していた。そこには、NPO法人のETICも入居しており、今で言う「Diversified(多様性に満ちた)」された空間だった。
アレンは米国オラクル時代、セールスフォースのMarc Benioffと同期で、マークがセールスフォースを立ち上げる時、「日本は間違いなく、クラウドの大きな市場になるだろうから、(日本は)アレンにやって欲しい」と言ってきたそうだ。
でも、アレンはオラクル時代の仲間と共にサンブリッジを立ち上げた直後だったので、彼はそのオファーを受けることができず、創業メンバーの一人の北村さんがセールスフォース日本法人を立ち上げた。そこに、サンブリッジと米国セールスフォースが出資し、合弁会社としてセールスフォース日本はスタートした。それから10年後、マーク・ベニオフが大成功したセールスフォース日本法人を100%子会社にしたいということになり、サンブリッジには「100億円以上」のキャピタルゲインが発生する。
それをもとに、とある事情によりシリコンバレーに帰っていたアレンは日本に戻り、Co-Working Space、スタートアップへの投資、アクセラレーションプログラム等を再開するが、浦島太郎状態の彼のもとに、昔の仲間は集まったものの、当時の若い起業家やスタートアップは集まって来なかった。
そりゃ、当然だよね。暫くの間、日本を離れていたわけだから。
そこで偶然、2年半ぶりに再会した僕に「一緒にやらないか?」と声を掛けたということだ。
さて、タイトルとは関係ない話でイントロが長くなったので、そろそろ本題に入ろうと思うが、先日、とある用件で久しぶりにアレンと会った。その結果、期待はしていなかったけど、新しく始めた会社にAllenが出資してくれることになった!Yeah!!!
申し訳ない。本題に入る前に、もうひとつ、伝えたいことがある。それは、サンブリッジに参加したことで、Keith Teareという、TechCrunchの事実上の共同創業者と知り合ったことだ。「事実上」と書いたのは、TechCrunchは、彼が運営していた「Archimedes Labs」というスタートアップスタジオから生み出されたスタートアップで彼は株主の立場ではあったが、オペレーションには関与していなかったから。
Keithは日本での知名度は殆どないものの、シリコンバレーのテック業界で彼を知らない人はいない著名人で、イギリスからシリコンバレーに移住し、最初にベンチャーキャピタル(DFJ)から投資を受けた際、Elon Muskと同じラウンドだった。MicrosoftやGoogle の二人とも仕事をしたことがあり、シリコンバレーの変遷を実体験を持って知っている人だ。
そのKeithも僕の新しい会社の出資に応じてくれ、アドバイザーに就任してくれることになった。
彼は今、SignalRankという、シリーズB以降のスタートアップがユニコーンになる確率を予測するアルゴリズムを開発し、シリーズB以降のスタートアップの「Index」化(例:S&P500等)するスタートアップを経営している。極めて野心的でイノベーティブな事業である。
彼のスタートアップの投資家には、Tim Draper(彼がDFJから投資を受けた際の担当キャピタリストだった)、Garry Tan(現Y-Combinator CEO)等、錚々たるメンバーが名を連ねている。
さて、いよいよ本題に入る。TechCrunchから派生して始まった「crunchbase」というデータベースがある。世界中のスタートアップの創業者、資金調達状況、ビジネスの状況等を網羅している。
そのcrunchbase 現CEO, Jager McConnell が「Historical Data is Dead.」とパブリックアナウンスメントした。
Today, we’re relaunching Crunchbase as an AI-powered, predictive company intelligence solution. We’re moving beyond historical data, showing people not just what happened to a company yesterday or today, but what will happen to that company tomorrow. by Jager McConnell, CEO at crunchbase
本日、私たちはCrunchbaseをAIを活用した予測型企業情報ソリューションとして再始動します。私たちは過去のデータにとどまらず、企業が昨日や今日に何をしたかだけでなく、明日には何が起こるのかを人々に示します。
記事中にビデオが貼ってあるのでご覧になってみて欲しい。
では、AI による、このような変化は、ベンチャーキャピタル業界に何をもたらすのだろうか?
それが今回のエントリーの主題である。
Keithが創業し、経営するSignalRankでは、シリーズBに至るまでの様々な出来事(例:創業メンバーのバックグラウンド、どんなところから資金調達をしているか等)をデータ化し、シリーズBに至ることができたスタートアップとできなかったスタートアップでは、何がどう異なるのか?を分析している。
では何故、シリーズB以降なのか?
答えは「シリーズA」までは「属人的」な要素が強く、また統計学的な分析ができるほどパターン化されておらず、そこに「法則性」を見出すのは極めて困難だという。
「属人的」と書いたのは、シード・アーリーステージに投資する際の判断には、科学的な分析は機能せず、エンジェル投資家やキャピタリストの「嗅覚」によるところが殆どだという意味である。
実際、僕がサンブリッジ グローバルベンチャーズを経営していた時、LP(Limited Partner:ファンドへの投資家)の皆さんへの説明責任があるので、投資委員会で議論はするものの、定量的に検証可能な要素は無く、僕を含めた投資委員会のメンバーの「視点」に基づく議論で意思決定をしていた。
さらに言えば、僕がエンジェル投資家として個人で出資しているケースでは、事業計画書を精査したことは一度もない。それなりの頭があれば、誰でもキレイな事業計画は書けるが、そのとおりに行くことは100%近く無いし、pibotしないスタートアップは皆無と言っていい。
シード・アーリーステージで判断のポイントになるのは、創業者および創業メンバーの資質しかない。
事業に投資をするというよりも、創業者&創業メンバーに投資するに近い。
では、シリーズB以降は、どうなるのだろうか? アルゴリズムの勝負になって行くだろう。
Keith が経営する SignalRankの例をもって考察してみよう。
SignalRnkのアルゴリズムは、シリーズB候補の「93%」に「NO(投資不適格)」と評価する。SignalRankが「NO」と判断したスタートアップの「87%」が成功しないという。
彼らが定義する「成功」は、シリーズBから「5年位内に、評価額が5倍以上」になることだ。
成功を予測できることはもちろん素晴らしいことだが、「失敗する確率」を予測できることは、とても有益なことである。
では、アルゴリズムが「YES」という「7%」のスタートアップはどうかというと、その「31%」が、彼らが定義する「成功」を実現する。つまり、SIgnalRankが「推奨」するシリーズBラウンドの「1/3」が、「5年以内に6倍以上」の評価額に成長するということだ。
では、一般的なベンチャーキャピタル投資の成功確率はどうか? 答えは、30%(10社中3社)の確率で成功するのは極めて稀である。以前にも紹介したが、米国のベンチャーキャピタル投資を紹介したエントリーへのリンクを貼っておく。
「Correlation Ventures」のGeneral Partner, David Corts氏 が、米国のベンチャーキャピタルに関するとても興味深いデータを紹介している(下のグラフ参照)。

(以下は以前のエントリーからの抜粋)上のグラフの「Financings」は「投資ラウンド(投資案件)」、「Dollars」は「投資回収した金額」を指していると思われる。
過去10年間(2013-2022)に「EXIT」したスタートアップの投資案件のうち、「10倍以上」のリターンを生み出したのは「7%未満」であり、「48%」は「1倍未満のリターン(損失)」。要するに「案件の半分」は「儲からない」ということだ。
「1-3倍」の明細が書かれていないので、その分布は分からないが、仮に、平均倍率が「2倍」だとしよう。
米国のVCファンドの運用期間は「10年」が一般的であり、LPの合意が得られれば、2年間の延長ができる。つまり、最大12年間の運用が可能ということだ。
現在の米国の金利は「約5%」。1,000万円を12年間、銀行に預けたとしよう。複利で5%で回ると、約1,700万円になる。因みに、14年で2倍(1,000万円)になる。
一方、米国でVCに「1,000万円」を投資すると、50%の確率で損をする、ということだ。
下のグラフは「1倍割れ」してしまう投資案件と「10倍以上」になる投資案件の比較である。

話をKeith のSignalRank に戻すと、彼らのINDEXに投資すれば、通常のベンチャーキャピタルファンドに投資するよりも遥かに高い確率で高い収益を期待することができる。僕もお金があったら投資したい!

ところで、海外、特にシリコンバレーでは、シードからシリーズA, Bまでのステージで「ユニコーン」になるスタートアップが増えて来ている。その理由は「AI」により、少ない人数でより早く事業を成長させられるようになったからだろう。
AIは確実に世の中を変えている。僕もどうAIを活用するべきか? 自分の仕事にどのように活用できるか? 真剣に考えようと思う。