さようならGGC。やっぱりDreamVision!(後編) 〜Connecting the dots. 終わっていない宿題。〜

シリコンバレーでの一週間は、改めて自分自身に向き合う時間になった。特にKeith Teareとの対話は、何が自分を衝き動かしているのか? 僕にそのことを考えさせた。

ひとつは、職業的問題意識に根ざすもの。もう一つは個人的情熱というか憧れのようなものだった。
ただ、その両者が、自分のアイデンティティの源泉であり――自分が何者なのか?――をより深く理解することになった。

中学2年生の時だったと思う。

どこだったかは忘れたが、担任の先生が、アメリカのある州との交換留学制度を紹介した。僕は迷わず手を挙げた

だが先生は「中学生には危険だ。高校や大学に行ってからにした方がいい」と言った。
だったら、なぜ紹介したのか? 矛盾も甚だしい。

そのとき以来、僕は「(将来は)海外に住んでみたい」と思い続けてきた。そして「コスモポリタンな人間」になりたいと・・・。

職業的問題意識は、「なぜ、日本から次のソニーやホンダが生まれないのか?」ということだ。

Keithは僕に言った。
日本は大きな潜在力を持っているにも関わらず、それが発揮されていない。だからIkuoは『Next Sony, Next Hondaが生まれて然るべきだ(生み出せないはずはない)』と思っているんだよ」。

確かにその通りである。GoGlobal Catalystとして実施した「日本人と外国人の共同創業者マッチング」は目的ではなく、手段である。高度にグローバル化した世界では、「単一民族国家」という構造は大きなハンディキャップだと思うからだ。

シリコンバレーには、大胆に挑戦を続ける若い日本人起業家たちがいる。
僕は時々、彼らからエンジェル投資をして欲しいと相談されることがある。でも、今の僕は十分な資金がない。

僕は長年、起業家であり、エンジェル投資家としても活動してきた。シリコンバレーのスタートアップに投資し、小さなファンドも運営してきた。そして、周囲には大きな資産を作った起業家仲間がいる。

自分では投資ができないので、そういう彼らを紹介している。

でも、それではおもしろくない。人生は短い。もうひと勝負するなら、今しかない。
「自らが次のソニーやホンダを創ることに挑戦するのか? それとも、誰かを支援することで実現するのか?」。

インタースコープをM&AでYahoo! Japanに売却、WebCrewのIPO、DreamVisionでの挫折、SunBridge Global Venturesでのアクセラレーターの運営。Infarmへの投資し、Infarm Japanの設立。本体はユニコーンになるも破綻。成功も失敗も、すべてが僕のアイデンティティの源になっている。

Connecting the dots.

そろそろ、終わっていない宿題に取り組むとするか!

乞うご期待!

さようならGGC。やっぱりDreamVision!(前編) 〜 10年の思索と1週間の決断 〜

振り返れば、このアイデアは10年前から考えていた。具体的には、Entreprenerur First の二人との出会いがきっかけになっている。では、なぜ10年間も、温めたままにしておいたのか?

それは「日本では機能しないだろう」と思っていたからだ。実際に実施してみると、やはり機能しなかった。

それでも、やってみたこと自体には意味があった。ある意味、自らの仮説が証明されたので(苦笑)。むしろ、今は気持ちが晴れやかである。

僕のブログを読んでくれている人は覚えているかもしれないが、僕が10年間にも渡り、温めてきた構想を具現化させた「触媒(Catalyst)」は、Dan Brassington だった。彼との出会いが無かったら、僕は10年間抱え続けてきたアイデアに着手しないままだったかもしれない。

2024年7月12日(金)、代官山でいつものように彼と会った。その場は「10年間温め続けたアイデアを実行に移す」という決意を告げるためのMTGだった。

ここからGoGlobal Catalyst(GGC)の「実験」が始まった。
2025年7月、GGCとして初めての「Co-founder Matching Program」を実施し、7月22日にはDemoDayを開催した。

実績ゼロの挑戦であったにもかかわらず、30名の応募があり、11名の起業家に参加していただいた。

しかし、僕が懸念していたとおり、日本人の応募者はわずか「3名」。僕が採択し、実際に参加してくれたのは「1名」に過ぎなかった。その1名も僕の10年来の知り合いである。

すなわち「日本人と外国人をつなぐ共同創業者マッチング」という構想は、その名のとおりには機能しなかった。

日本には優れた起業家が数多く存在する。だが、英語でビジネスができるという条件が加わった途端、母集団は極端に小さくなる。

それは、僕が「Co-founder Matching」を考えた理由でもあり、10年もの間、このアイデアを先延ばしにしてきた理由でもある。
その惰性を断ち切ったのが、Danだった。彼の後押しがなければ、僕は一歩を踏み出せなかっただろう。

プログラム終了後、僕たちは都内のカフェで再び顔を合わせた。

Danはシンガポール、バンコク、シドニー、ロンドン、東京に拠点を持つ、「AI」に特化したコンサルティング会社「INCITE Advisory Group」経営している。「AI」という時流に乗り、彼の事業は飛躍的に成長し、彼自身は益々多忙を極めるようになっていた。

そのような事情もあり、彼は「取締役を辞し、持株をGGCに貢献できる他の者に譲りたい」と言って来た。また、彼は多忙さに加えて、日本語が話せず、GGCを支える余力がないと・・・。

僕は彼の申し出を受け入れた。

その一週間後、僕はシリコンバレーに行った。武蔵野大学アントレプレナーシップ学部(EMC = Entrepreneurship Musashino Campus)の学生を対象としたプログラムを実施するためである。

「シリコンバレーでの一週間、GGCをどの方向へ持って行くか?考えなよ」。Danはそう言った。

EMCプログラムでは毎年、僕の起業家仲間や投資先の創業者たちに、学生たちに向けて、起業家としての生き方やシリコンバレーという地域の「磁力や魅力」、そこで生きていくための条件等、メディアの記事では読むことができない、リアルな話をしてもらっている。その一つひとつが示唆に富み、学生だけでなく、僕自身にとっても深い示唆を与えてくれる。

最終日、学生たちはPlug and Playで英語によるプレゼンを行う。帰国子女等、英語が堪能な学生は殆どおらず、皆んな緊張マックスでプレゼンをする。最後は、僕から彼らにメッセージを送るのが恒例である。

僕は毎年、日本の財政状況が如何にクリティカルな状況にあるかや、周回遅れになっている現実を語り、危機感を植え付けてきた。

でも今年は、僕がシリコンバレー滞在中に下した決断――すなわち、GGCを解散するという意思決定とその理由について話をした。

実は、僕の話の前、投資先の一社、ModuleQというスタートアップの創業者、David Brunner が、その週の月曜日、大変遺憾ながら会社を畳むことになったという話を全社員向けに話をした、という話をしてくれた。

学生たちは「2連発」で、とてもシリアスな話を聞くことになった。そんなことで、学生たちは全員、とても神妙な表情で、僕の話を聴いていた。

続きは「後編」にて。

「AI」はベンチャーキャピタルを代替するか?

僕に数学の才能がありコードが書けたら、間違いなく人生は変わっていただろう。2000年頃、HTMLを少し書いたことはあったが、僕には向いていないと思い、すぐに辞めた。でも、そんな僕でもネットバブルの波に乗り、ウェブクルー(2004年9月に東証マザーズ上場)とインタースコープ(2007年にYahoo! Japanに売却)というスタートアップを共同創業した。

AIが世の中を席巻する今、プログラミンができる人にとっては千載一遇の好機だろう。ネットバブルに湧いた2000年前後を彷彿とさせるものがある。

さて、プログラミングができない僕だが、2011年3月、サンブリッジという会社に関わったことで、僕の人生は大きく変わった。そういう意味では、「平石さんがやることなら、よっぽど変なことじゃない限り、NOと言わないから!」とまで言って、僕をサンブリッジに誘ってくれたAllen Miner には感謝しかない。

僕と同年代でインターネット関連のスタートアップやベンチャーキャピタルに関わっていた人はご存じのとおり、彼は日本オラクル初代代表だ。日本語が堪能で、オラクル時代、創業者のラリー・エリソンから「日本市場を立ち上げて来い!」と言われて日本に送り込まれた人間だ。

サンブリッジは、そんなアレンを含み、米国のオラクルおよび日本オラクルのOBが6-7人で立ち上げたユニークな会社である。今でこそ当たり前だが、2000年当時、渋谷マークシティの17階(だったと思う)をワンフロア借り切り、Co-Working Space を運営していた。そこには、NPO法人のETICも入居しており、今で言う「Diversified(多様性に満ちた)」された空間だった。

アレンは米国オラクル時代、セールスフォースのMarc Benioffと同期で、マークがセールスフォースを立ち上げる時、「日本は間違いなく、クラウドの大きな市場になるだろうから、(日本は)アレンにやって欲しい」と言ってきたそうだ。

でも、アレンはオラクル時代の仲間と共にサンブリッジを立ち上げた直後だったので、彼はそのオファーを受けることができず、創業メンバーの一人の北村さんがセールスフォース日本法人を立ち上げた。そこに、サンブリッジと米国セールスフォースが出資し、合弁会社としてセールスフォース日本はスタートした。それから10年後、マーク・ベニオフが大成功したセールスフォース日本法人を100%子会社にしたいということになり、サンブリッジには「100億円以上」のキャピタルゲインが発生する。

それをもとに、とある事情によりシリコンバレーに帰っていたアレンは日本に戻り、Co-Working Space、スタートアップへの投資、アクセラレーションプログラム等を再開するが、浦島太郎状態の彼のもとに、昔の仲間は集まったものの、当時の若い起業家やスタートアップは集まって来なかった。

そりゃ、当然だよね。暫くの間、日本を離れていたわけだから。

そこで偶然、2年半ぶりに再会した僕に「一緒にやらないか?」と声を掛けたということだ。

さて、タイトルとは関係ない話でイントロが長くなったので、そろそろ本題に入ろうと思うが、先日、とある用件で久しぶりにアレンと会った。その結果、期待はしていなかったけど、新しく始めた会社にAllenが出資してくれることになった!Yeah!!!

申し訳ない。本題に入る前に、もうひとつ、伝えたいことがある。それは、サンブリッジに参加したことで、Keith Teareという、TechCrunchの事実上の共同創業者と知り合ったことだ。「事実上」と書いたのは、TechCrunchは、彼が運営していた「Archimedes Labs」というスタートアップスタジオから生み出されたスタートアップで彼は株主の立場ではあったが、オペレーションには関与していなかったから。

Keithは日本での知名度は殆どないものの、シリコンバレーのテック業界で彼を知らない人はいない著名人で、イギリスからシリコンバレーに移住し、最初にベンチャーキャピタル(DFJ)から投資を受けた際、Elon Muskと同じラウンドだった。MicrosoftやGoogle の二人とも仕事をしたことがあり、シリコンバレーの変遷を実体験を持って知っている人だ。

そのKeithも僕の新しい会社の出資に応じてくれ、アドバイザーに就任してくれることになった。

彼は今、SignalRankという、シリーズB以降のスタートアップがユニコーンになる確率を予測するアルゴリズムを開発し、シリーズB以降のスタートアップの「Index」化(例:S&P500等)するスタートアップを経営している。極めて野心的でイノベーティブな事業である。

彼のスタートアップの投資家には、Tim Draper(彼がDFJから投資を受けた際の担当キャピタリストだった)、Garry Tan(現Y-Combinator CEO)等、錚々たるメンバーが名を連ねている。

さて、いよいよ本題に入る。TechCrunchから派生して始まった「crunchbase」というデータベースがある。世界中のスタートアップの創業者、資金調達状況、ビジネスの状況等を網羅している。

そのcrunchbase 現CEO, Jager McConnell が「Historical Data is Dead.」とパブリックアナウンスメントした。

Today, we’re relaunching Crunchbase as an AI-powered, predictive company intelligence solution. We’re moving beyond historical data, showing people not just what happened to a company yesterday or today, but what will happen to that company tomorrow. by Jager McConnell, CEO at crunchbase

本日、私たちはCrunchbaseをAIを活用した予測型企業情報ソリューションとして再始動します。私たちは過去のデータにとどまらず、企業が昨日や今日に何をしたかだけでなく、明日には何が起こるのかを人々に示します。

記事中にビデオが貼ってあるのでご覧になってみて欲しい。

では、AI による、このような変化は、ベンチャーキャピタル業界に何をもたらすのだろうか?

それが今回のエントリーの主題である。

Keithが創業し、経営するSignalRankでは、シリーズBに至るまでの様々な出来事(例:創業メンバーのバックグラウンド、どんなところから資金調達をしているか等)をデータ化し、シリーズBに至ることができたスタートアップとできなかったスタートアップでは、何がどう異なるのか?を分析している。

では何故、シリーズB以降なのか?

答えは「シリーズA」までは「属人的」な要素が強く、また統計学的な分析ができるほどパターン化されておらず、そこに「法則性」を見出すのは極めて困難だという。

「属人的」と書いたのは、シード・アーリーステージに投資する際の判断には、科学的な分析は機能せず、エンジェル投資家やキャピタリストの「嗅覚」によるところが殆どだという意味である。

実際、僕がサンブリッジ グローバルベンチャーズを経営していた時、LP(Limited Partner:ファンドへの投資家)の皆さんへの説明責任があるので、投資委員会で議論はするものの、定量的に検証可能な要素は無く、僕を含めた投資委員会のメンバーの「視点」に基づく議論で意思決定をしていた。

さらに言えば、僕がエンジェル投資家として個人で出資しているケースでは、事業計画書を精査したことは一度もない。それなりの頭があれば、誰でもキレイな事業計画は書けるが、そのとおりに行くことは100%近く無いし、pibotしないスタートアップは皆無と言っていい。

シード・アーリーステージで判断のポイントになるのは、創業者および創業メンバーの資質しかない。

事業に投資をするというよりも、創業者&創業メンバーに投資するに近い。

では、シリーズB以降は、どうなるのだろうか? アルゴリズムの勝負になって行くだろう。

Keith が経営する SignalRankの例をもって考察してみよう。

SignalRnkのアルゴリズムは、シリーズB候補の「93%」に「NO(投資不適格)」と評価する。SignalRankが「NO」と判断したスタートアップの「87%」が成功しないという。

彼らが定義する「成功」は、シリーズBから「5年位内に、評価額が5倍以上」になることだ。

成功を予測できることはもちろん素晴らしいことだが、「失敗する確率」を予測できることは、とても有益なことである。

では、アルゴリズムが「YES」という「7%」のスタートアップはどうかというと、その「31%」が、彼らが定義する「成功」を実現する。つまり、SIgnalRankが「推奨」するシリーズBラウンドの「1/3」が、「5年以内に6倍以上」の評価額に成長するということだ。

では、一般的なベンチャーキャピタル投資の成功確率はどうか? 答えは、30%(10社中3社)の確率で成功するのは極めて稀である。以前にも紹介したが、米国のベンチャーキャピタル投資を紹介したエントリーへのリンクを貼っておく。

Correlation Ventures」のGeneral Partner, David Corts氏 が、米国のベンチャーキャピタルに関するとても興味深いデータを紹介している(下のグラフ参照)。

USのVCマーケット

(以下は以前のエントリーからの抜粋)上のグラフの「Financings」は「投資ラウンド(投資案件)」、「Dollars」は「投資回収した金額」を指していると思われる。

過去10年間(2013-2022)に「EXIT」したスタートアップの投資案件のうち、「10倍以上」のリターンを生み出したのは「7%未満」であり、「48%」は「1倍未満のリターン(損失)」要するに「案件の半分」は「儲からない」ということだ。

「1-3倍」の明細が書かれていないので、その分布は分からないが、仮に、平均倍率が「2倍」だとしよう。

米国のVCファンドの運用期間は「10年」が一般的であり、LPの合意が得られれば、2年間の延長ができる。つまり、最大12年間の運用が可能ということだ。

現在の米国の金利は「約5%」。1,000万円12年間銀行に預けたとしよう。複利で5%で回ると、約1,700万円になる。因みに、14年で2倍(1,000万円)になる。

一方、米国でVCに「1,000万円」を投資すると、50%の確率で損をする、ということだ。

下のグラフは「1倍割れ」してしまう投資案件と「10倍以上」になる投資案件の比較である。

話をKeith のSignalRank に戻すと、彼らのINDEXに投資すれば、通常のベンチャーキャピタルファンドに投資するよりも遥かに高い確率で高い収益を期待することができる。僕もお金があったら投資したい!

ところで、海外、特にシリコンバレーでは、シードからシリーズA, Bまでのステージで「ユニコーンになるスタートアップが増えて来ている。その理由は「AI」により、少ない人数でより早く事業を成長させられるようになったからだろう。

AIは確実に世の中を変えている。僕もどうAIを活用するべきか? 自分の仕事にどのように活用できるか? 真剣に考えようと思う。

インスタカートのIPOは失敗か?

さすがに60年も生きていれば、自分に何ができて、何ができないか? は分かるようになる。否応にも・・・。

僕が尊敬するPeter F. Drucker はこういった。「50歳になり人生を振り返った時、何と憶えられたいか(どんな人だと認識されたいか)? その質問に答えられなかった場合、その人生は失敗だったということになる」

日本のスタートアップエコシステムは、グローバルのそれから良くも悪くも「Decoupling」されており、2023年上半期のスタートアップ投資額は昨年から減少しているものの、シリコンバレーと較べると遥かに良い状況のようだ。

グローバルでは相変わらず、厳しい状況が続いている。

Gene Teare at crunchbase のレポートによると2023年Q3のスタートアップへの投資額は「US$73B(約11兆円)」と、Q2より少し増えたが、前年同期(US$86B)から約15%ダウンとなっている。

細かく見てみると、レイターステージでは、半導体、AI、電気自動車、サステナビリティなどのスタートアップが大規模な資金調達を行ったため、前年同期比で10%近く、前四半期比で30%増加している。一方シードおよびアーリーステージでは、前年同期比で「減少」を続け、VC投資がまだ回復していないことを明確に示している。

また、注目すべきは、レイターステージの大型資金調達は、主に北米「以外」で見られていることだ。

アジアでは、半導体、電気自動車、再生可能エネルギー技術大型ラウンドにより、レイターステージ資金調達額前年比50%増と大きく伸びた。

欧州では、レイターステージ資金調達前四半期比倍増し、エネルギーと製造業の大型資金調達案件で前年同期比20%増となった。

さて、僕のブログを読んでくれる人の殆どは、標題のカタカナの説明は必要ないだろう。でも、そのIPOは失敗か? と僕が投げ掛けた質問の意図の解釈は人によって異なるだろう。

最初に僕の考えを書いておくと、僕には成功とも失敗とも評価できない。

但し、我々に、スタートアップとは何か? 投資とは何か? そして、イノベーションとは何か? を考えさせるIPOだと思う。

今日のブログは、Kyle Harrison という人が書いたブログをもとに書いている。かなりの長編だが、興味があったら是非、読んでみて欲しい。

※Source: Twitter (X) of Aswath Damodaran, an Economics Professor at NYU.

上表は、ファイナンスが専門のNYU教授、Aswath Damodaran氏のTwitter (X)に投稿されていたものだ。

Instacart(インスタカート)は2023年9月19日、US$9.9Bの評価額でナスダックに上場した。1ドル150円で計算すると1兆4,850億円になる。悪くない時価総額だ。但し、2021年に資金調達した際の評価額は「US$39B」。同じく150円/US$で計算すると、5兆8,500億円で評価されていたことになる

つまり、75%ディスカウントして、IPOしたということだ。

尚且つ、IPO時の売出し価格30ドルに対して、株価は42ドルまで上昇したものの、その後、株価は下がり続け、現在は25-26ドルで取引されている。時価総額は「US$7B (1兆500億円)」で、IPO時を割り込んでいる

Funding Storyを見てみよう。米国のベンチャーキャピタル(VC)は、S&P500の投資利回りよりも高いパフォーマンスを期待するし、VCに投資するLPも同様だろう。ということは、シリーズC以降の投資は「失敗」だったということになる。

何故なら、S&P500に投資していたら「12.31%」の利回りだったのに対して、IPO時の株価で計算すると、シリーズCの投資利回りは「10.6% (複利)」に留まっている。

それ以降の投資パフォーマンスは下がり続け、2020年のTender Offer Round の投資パフォーマンスは、マイナス13.65%(損失)だ。未公開時の最終ラウンド(シリーズI)に関しては、マイナス51.17%。つまり、投資金額の半分以下になってしまっている。

一方、シードおよびシリーズAで投資したVCは、それぞれ、55.02%、61.96%のリターンを上げている。

ここで注目して欲しいのは、セコイア(Sequoia)は、シリーズA、D、Iと、計3回のラウンドで投資している点だ。結果論だが、セコイアの計US$300M(約450億円)の投資は、US$1.4B(約2,100億円)と、約5倍になっている。但し、そのリターンの85%は、シリーズAの投資から得ている

もうひとつ、考えるべきことは、セコイアのリターンをもたらしたのは誰か? ということだ。

僕がVCから資金調達してスタートアップを経営していたのは2000年代前半であり、また、サンブリッジグローバルベンチャーズでスタートアップへの投資の仕事をしていたのは2010 年代半ばまでだ。その後は、日本のスタートアップエコシステムからは距離が生じている。

従って、日本のVC業界の現状を正確には理解していないが、シリコンバレーと日本では、VCの投資方針や業界構造、インセンティブが異なるように思う。

インスタカートのセコイアの事例のように、シリーズAで投資をし、その後、最後のラウンドまで付き合うケースも散見されるようだが、シリコンバレーでは、シード、アーリー、ミドル、レイターと、各ステージ毎に、メインとなるVCの顔ぶれが異なっている。セコイア、Andreessen Horowitz等のようなメガVCは、各ステージ毎にファンドを組成するが、Floodgate, First Round 等はシード&アーリーステージに特化している

では、それがどのようなメカニズムを生み出しているのか?

インスタカートの「フリーキャッシュフロー(現金収支)」が「ポジティブ」になったのは、2022年らしい。そして、今日に至るまでに「US$1.8B(約2,700億円)」を必要(燃焼)としている

言い方を変えるなら、セコイヤとAndreessen Horowitzのリターンは、US$1.7Bの儲からなかった投資家によってもたらされているということだ。

If a psycho with a commercial real estate business can raise $20B, then anyone can raise anything! But the sudden constraint on capital made VCs realize just how dependent they are on downstream capital.

上記の英文で、Kyle Harrison は、現状を皮肉交じりに指摘している。

要するに、WeWorkのような「ただの不動産ビジネス」が「US$20B(約3.5兆円)」も調達できるなら、誰もがいくらでも調達できる!と思うだろうということだ。そして、突然、世の中が正気を取り戻し、VC(に限らない)は、自分たちの投資は、その後の投資の判断に委ねられている(それ次第)ということに気付かされた

もうひとつ、インスタカートを例に取るなら、シリーズC以降の投資家がいなければ、セコイアやa16z (Andreessen Horowitz)はリターンを出せなかっただけでなく、世の中は変わらなかったということだ

さらに言えば、UberLyft といったインフラも、投資家の損失の上に成り立っている。今や、ベイエリアに出張した際に、UberやLyft無しの移動は考えられない。そのUberやLyftも「ロボタクシー(無人タクシー)」の出現によって、大きな影響を受けるだろう。

ドラッカーは、新しい産業が生まれた場合、個別には黒字化する事例もあるだろうが、その産業全体としてみると「15年は黒字化しない」と言っている。イノベーションは「長期」で見る必要があるということだ。

Infarm に限らず、Vertical Farming(LED/水耕栽培)業界を経験して、身を以て実感した。

そして、「教育」こそ、長期での判断が求められる。成果が出るのは、どんなに早くても10年後、現実的には20年という時間を要するだろう。「現世利益」を求める人には手掛けられない事業である。

還暦少年とMidjourney.

子供の頃、母親とスーパーに行くと、偶然に出くわした彼女の知り合いとの会話で30分は待たされた。でも、当時の僕には長く感じられただけで、実際には5-10分くらいだったかもしれない。近所のスーパーに買物に行った時、二組の家族連れがいて、お母さん同士が楽しそうに会話をしている光景が目に留まり、産みの母のことを思い出した。

会社を解散するのは思ったよりも大変だった。過去形で書いたが、実はまだ終わっていない。今年4月30日付けで、Infarm 日本法人の解散登記をし、法的概念として、会社は解散されている。つまり、Infarmとして、日本で事業を行う主体は存在していない。但し、財務的に整理をするための「清算」という手続きを行う必要があり、まだその手続きが続いている。でも、その手続きの殆どは弁護士と税理士の方々が中心となって進めてくれており、HQ側とのやり取りは必要だが、僕が清算手続きの実務を行っているわけではない。

そんなことで、ここ数ヶ月、時間の自由ができたので、The Economist、Wall Street を購読し、Crunchbase等を含めて、可能な限り、海外のメディアを読むようにしている。下図はの今朝 (2023年8月27日 10:15 am JST現在)の時点で、The Economist 購読者に最も読まれた記事TOP5。

それで感じるのは、それらのメディアには、日本のことは殆ど登場しない、ということだ。ここ最近のエコノミストの主な記事は、ウクライナ情勢、プーチン、プリコジン、中国、習近平、アメリカ大統領選、米国経済、地球温暖化等である。今日のニュースレターに珍しく日本の記事があったが、性風俗産業に関する新しい規制に関するものだ。政治でも経済の話でもない。

仕事柄、シリコンバレーに関する記事を意識的に読んでいるが、スタートアップへの投資に急ブレーキが掛かる一方、AIに関しては、バブルの様相を呈していると言っても過言ではない。

但し、AIはスタートアップが取り組める対象ではない。ChatGPTを運営するOpen AI はマイクロソフトから1兆円以上もの投資を受け、対抗馬のひとつ、ディープマインドの共同創設者ムスタファ・スレイマン氏らが2022年に設立した「Inflectin AI」には、Rein Hoffman も出資者に名前を連ね、$1.3B(現在の為替レートで約1,900億円)を調達している。Computing Powerに莫大な費用を必要とし、スタートアップが数億円の資金で始められるビジネスではない。

一方、together.ai というスタートアップが、オープンソースのAI 構築をサポートするプラットフォームとCould サービスをリリースした。

特定のバーティカルに特化したAIサービスの開発が促進され、SaaSならぬ「AI as a Service =AaaS」の時代が来るように思う。

ところで先日、INITIALの「2023上半期 Japan Startup Finance」をもとにしたウェビナーを拝聴した。詳しくは、同社のレポート(無料)をダウンロードしていただきたいが、印象に残ったのは以下の3点。

(ソース:INITAIL)

1つ目は、シリコンバレーに遅れること約1年、日本でも特にレイターステージにおいて、スタートアップへの投資が急減速したこと。2022年上半期は「4,160億円」がスタートアップに投資されていたが、2023年上半期は「3,314億円(前年同期比:約80%)」に減少

2つ目は、資金調達額上位からも評価額ランキングからも、SaaS スタートアップの存在感が薄れてきたこと。

3つ目は、2つ目とセットで語る必要があるが、DeepTech スタートアップが増えてきていること。

要約すれは、ビットバレーから約25年に渡り続いてきた「インターネット」スタートアップ(日本語でいうネットベンチャー)による時代は終わりを迎えているということだ。

スタートアップ=DeepTechスタートアップの時代になるだろう。つまりは、起業家だけでなく、VCをはじめとした投資家を含めて、スタートアップエコシステムを構成する要素が大きく変わっていくだろう。

尚、INITIALのリサーチ対象は「日本のスタートアップの資金調達」であり、そのことには触れていないが、この先、日本のスタートアップおよびスタートアップエコシステムが成長していくには、東証の新興市場(旧マザーズ)に上場することを主要なエグジット(言葉は出口だが、実際はそこからがスタート)とするだけでは、確実に限界が来るだろう。

今のところ、世界第3位のGDP(マーケット)があり、スタートアップというステージであれば充分な成長が可能である。但し、2060年には、日本のGDPは「中国の1/10」になる。いつまでも「国内市場」だけを対象としているなら、スタートアップを語る以前に、日本の存在意義は増々薄れていくのは間違いない。安全保障にも支障を来すはずだ。

最近はそのようなことを口にする人も少なくなってきたが、戦後80年近く経つにも関わらず、未だに実現できていない「Next SONY, Honda」を生み出すにはどうすれば良いか? という「終わっていない宿題」に正面から取り組む必要がある。

僕なりの考えがあるが、またの機会に披瀝するとしよう。

さて、明日(8/27)から、武蔵野大学アントレプレナーシップ学部(通称:武蔵野EMC=Entrepreneurship Musashino Campus)の2年生約30人を連れて、シリコンバレーに行く。主に、僕の投資先のファウンダーや知り合いの起業家、ベンチャーキャピタリストに話をしてもらう予定だ。下の写真は昨年、武蔵野大学EMCとして実施した記念すべき第一回目の模様(投資先のMilesの新オフィスにて)。

僕の記憶が正しければ、サンブリッジ時代から数えて、今年は記念すべき「10回目」のシリコンバレーツアーである

ところで、今回のアイキャッチ画像は、僕がprompt を出し、Midjourney に描いてもらったものだ。生物学的にはだいぶ年を取ってしまったが、気持ちは、EMCの学生(20-21歳)に負けないつもりだ。

おっと、大事なことを忘れるところだった。何年ぶりかでドリームビジョンのウェブサイトをリニューアルした。そして、ブログサイトの「タイトル」と「ドメイン」を新しくした

今後の展開に乞うご期待!

ユニコーンは絶滅するのか?

全世界に衝撃をもたらしたシリコンバレーバンク(SVB)の経営破綻から約1か月。米金融当局が、金融システム不安を未然に防ぐべく、預金の全額保護に動いたことで最悪の結果は免れたが、シリコンバレーやスタートアップの資金調達環境にどのような影響が出ているのか? そして、それは今後、スタートアップ・エコシステムにどのような影響を、どのぐらいの期間に渡って与えるのか?

現地時間で先週水曜日 (4/5)、crunchbase news に「Global VC funding falls dramatically across all stages in Rocky Q1, despite massive OpenAI and Stripe deals」という記事が掲載された。

実はこの記事の著者 Gene Teare とは直接の知り合いだ。知的でとても素敵な方である。サンブリッジ時代に知り合い、その後も親しくさせてもらっており、何社かCo-Investment もしている、TechCrunch 共同創業者 Keith Teare の奥さんだ。

本題とは少し離れるが、彼女が書いた記事を読みながら思ったことを紹介したい。

彼女は、南アフリカ出身で、Keith との結婚により、一緒にシリコンバレーに移住してきた。知り合ったのはロンドンだったと聞いている。Keithはイギリス人で、二人がシリコンバレーに移住して来てから20数年になる。

毎年、クリスマスシーズンには、家族全員で遠く離れた南アフリカに里帰りしているようだが、異国の地でもこうして仕事が出来ているのは、KeithもGeneも英語が母国語なのが大きいと思う。

もちろん、英語が母国語ではなくても、日本人の知り合いを含めて、異国の地で仕事をしている人はたくさんいるが、それでも、英語が母国語ということのアドバンテージは大きい。意思の疎通でハンディキャップが無いわけで、英語圏への移住であれば、我々日本人と比較して、ハードルは極めて低いだろう。

英語が母国語に生まれたか? あるいは、何らかの理由で、ネイティブと遜色の無いレベルの英語が話せるかどうかは、その人の人生を大きく左右する。

そういう僕自身、中学生の時から、いつかは海外に住んでみたいと思っていたにも関わらず、目先のことに囚われて、未だに日本を出たことがない。英語も自分が思い描いていたレベルには程遠い。

さて、ここからは本題。彼女が書いた記事の内容を紹介したい。

Global VC funding と言っているので、米国のみならず、crunchbaseが把握している限り、全世界でのVCによるスタートアップへの投資金額のことだと理解しているが、2023年Q1のスタートアップ投資は$76B (約10兆円:¥130/$で計算。以下同様)対前年比で「53%」の減少 (2022年Q1は「$162B (約21兆円)」) ということだ。

但し、そこには、OpenAI ($10B。大半がマイクロソフトによる投資)Stripe ($6.5B) への投資(計$16.5B)が含まれており、それを除くと約$50Bとなり、2022年Q1の半分以下になる。極めて大幅な落ち込みである。

また、Every funding stage last quarter was down 44%-54% year over year, a clear signal that the slowdown is not confined to late-stage funding. と説明されており、Late Stage だけでなく、シードステージを含む、すべてのステージで対前年比:44-54%ダウンということで、スタートアップ投資は半減した。

冒頭に触れたシリコンバレーバンクの経営破綻は、今後のスタートアップ投資に大きな影響を与えるだろう。SVBの顧客には、売上が$5M(約6.5億円)未満の20,000社を超えるスタートアップがいたらしく、彼らの預金(大半がVCから調達した資金)が保護されなかったとしたら、どうなっていたか? 仮に、1社平均100人の従業員がいたとしたら合計200万人、50人だったとしても100万人が犠牲になっていた。

尚且つ、彼女の記事によると、SVBの顧客は米国のスタートアップに限らず、米国のベンチャーキャピタル(VC)から資金調達をした国外のスタートアップも多く存在したという。

実は、SVB破綻(その時点では破綻懸念)のニュースを聞いたのは、武蔵野大学アントレプレナーシップ学部(通称:武蔵野EMC)の仕事で米国出張中、SXSWに参加するためのオースティン滞在中だった。

尚且つ、投資先のAnyRoad, CEO & Co-founder の Jonathan Yaffe が、SXSWにパネリストの一人として呼ばれており、現地で話を聞いた。

AnyRoad以外にも、シリコンバレーの投資先には、ModuleQ, Miles等があり、ここには詳細は書けないが、SVB経営破綻のニュースが出てからの72時間、創業者たちがどのような状況にあったかは言うまでもない。事なきを得て、僕もホットした。

ところで、2023年Q1の投資が大きく減少したものの、VCに投資資金が無かった訳ではない。むしろ、Venture Capital (VC) には、業界で言うところの「Dry Powder(投資資金)」は潤沢にあった。

James Ephrati, Lightspeed Venture Partners の試算によると、2022年12月末時点のVCの保有資金は「$580B(約75兆円!)」に上るという。その額は、2021年と同じ額らしいが、前のめりに投資をしていた2021年とは打って変わって、2022年は極めて慎重な投資姿勢に転じている。

cruncbase

詳細な説明は割愛するが、以下のとおり、各ステージ毎のグラフを載せておく。

crunchbase

In the first quarter of 2023, seed funding totaled $6.9 billion, down 44% year over year — a signal that even at the earliest funding stages, investors are pulling back.

2023年Q1の投資額は「$6.9B」で、前年同期比で44%ダウンということだが、2022年上半期は、他のステージが減速する中においても、前年同期比で投資金額は増加していたそうだ。2022年Q4になって初めて、前年同期比で25%の減少となった。

また、2008年のリーマンショック当時もVCによるスタートアップへの投資、特にLate-stageは冷え込んだが、Seed&Early-stage への投資は大きな減少を見せず、Square, Airbnb, WhatsApp, Slack 等は、その頃に創業している。

今回は、全ステージにおいてスタートアップ投資に急ブレーキが掛かっているが、OpenAI(ChatGPT)に代表される Large Language Model のAI スタートアップには、引き続き、投資が行われている。

Early-stage funding totaled $25.6 billion in Q1, down 54% year over year.  投資額$25.6B (約3.3兆円)。対前年比で、54%のダウン!

Late-stage funding totaled $43 billion, a dramatic fall from $93 billion in Q1 2022, but up from $34 billion in Q4.

2022年Q1の$93B (約12兆円) から、2023年Q1は「$43B (約5.6兆円)」と半減以下にダウン!

The billions of dollars raised by OpenAI and Stripe made up 22% of all venture capital raised this past quarter, and 38% of late-stage financings.

さらに言うと、2023年Q1のVC投資額の22%、Late-stage 投資額の38%が、Open AIStripe の2社に投資されている。両社への投資額 $16.5B (約2.1兆円)を除くと、2023年Q1のLate-stageへの投資額は「$26.5B (約3.4兆円)」で、2022年Q4を下回る。

では、このVCによるスタートアップ投資冬の時代は、いつまで続くのだろうか?

次回は僕なりの考察を書いてみたい。