「巨樹」にもらった希望。

今朝、自宅を出る前にNHK教育テレビで「道徳ドキュメント」という番組を見た。

我が家では、子供が保育園に出かけるまでの間、いつもNHK教育テレビをかけており、その流れで時々、この番組を見ることがある。

今日は「巨樹にもらった希望」というテーマで、画家の「平岡忠夫さん」という方の「生き方」を紹介していた。

この「道徳ドキュメント」という番組がいいなと思うのは、副題のとおり、「現実から学ぶ道徳番組」という構成になっている点だ。つまり、すべては「ドキュメンタリー」であり、登場する人物の「現実の生活」に基づいている。

今日の番組で紹介されていた画家の「平岡忠夫さん」は現在、樹木、それも「巨樹」だけを描いている。描いた「巨樹」は通算2,000本以上らしい。

その平岡さんは、ある時から、自分が興味を持って「描く対象」を見出せなくなってしまい、10年もの間、画家としての活動ができないでいたという。

昭和30年代の半ば以降、日本の人口が急増していった時代、マイホーム需要に応えるために、自然に生えていた樹木を「建材」として、どんどん伐採していった。伐採した後に植えられたのが、「杉の木」である。

説明するまでもなく、「杉の木」は真っ直ぐに成長するので、住宅の柱にはうってつけだ。

その結果、日本全国、どこへ行っても似たような「杉林」が出現し、平岡さんにとっては、精魂込めて「描く対象」がなくなってしまったということだ。

余談だが、「花粉症」の原因がここにあるわけだ。「経済的成長」と「健康」が両立できていない事例のひとつだろう。

話しを元に戻すと、平岡さんは、ある時、たまたま、樹齢1,200年の「杉の巨樹」と出会い、その巨樹に、言葉には表せない「エネルギー」を感じ、「生きる勇気」をもらったという。画家である彼にとっては、精魂込めて描く対象が出現したわけだ。

彼は、日本中の「巨樹」を「2,000本」描くことにチャレンジすると決心した。

人間は、何に勇気づけられ、何によって自信を取り戻すか、人生の意味を見出すかは、人それぞれである。

大切なことは、どんなことでも構わないので、自分を励ましてくれる、勇気をくれる何かが必要だということだ。

ところで、平岡さんの番組の後、「鮭の産卵」に関する番組が放映されていた。

海から必死の思いで、自分が生まれた川に戻ってくるメスの鮭は、卵を産み落とした時には、尾ひれは、もうボロボロになっている。そして、生命を全うする。

母親の鮭が亡くなった後、彼女が産み落とした卵から、稚魚が生まれる。

自分の命と引き換えにして、子孫を残していく。

当たり前と言えば、当たり前のことかもしれないが、そのことの尊さを、改めて考えさせられた。

田坂広志さんの言う、「勝利(競争)の思想」「達成の思想」「成長の思想」という考え方にも通ずるものがあるように思った。

話しは変わるが、今日のお昼時、当社の株主でもある蛭田さんという方が来社された。

彼が温めている、ある事業プランに関して意見交換をするためだ。

とても社会的に意義のあることだが、それを「事業」にするには様々なチャレンジがあり、その実現のハードルはかなり高い。でも、だからこそ、挑戦のしがいがあるように思う。

蛭田さんと僕の共通項は、なかなか「お金にし難い」ことにこそ興味を持ち、価値を見出し、何とかそれを具現化しようと悪戦苦闘するところにあるようが気がした。

そういう「対象」がなければ「生きるモチベーション」が沸いてこないのであれば、世の中一般の経済合理性には欠けるかもしれないが、僕らにとっては、「理に適っている(合理的)」と言える。

誰しも「自分らしく生きたい」と思っているはずであり、それに合致することが、最も合理的である。

追伸:元気な時はそれを貫けるが、精神的に参ってくると、それ(自分らしさや自分の尺度)を貫けなくなるのが、人間である。自分自身を含めて。