「坂道」を登る。

先日、久しぶりに「大岡山」を訪ねた。

今から約10年前、僕たち夫婦が最も貧乏だった頃、住んでいた街である。高級住宅街の片隅にひっそりと建つ、アパートに住んでいた。

久しぶりに訪れた大岡山は、駅前が再開発されて見違えるようになっていた一方、北口の商店街は当時の趣のままで、10年前と殆ど変わっていなかった。

因みに、当時、「4個100円」の納豆を売っている小さなスーパーがあり、その納豆をいつも買っていた。さすがに、その納豆は売っていなかったが、たぶん、あの頃に通っていたと思われるお店は残っていた。

ところで、僕たち夫婦が住んでいたアパートから駅に向かうには、どのルートを通っても「上り坂」があった。

その道を通りながら、この苦労は、はたして報われるのだろうか?と思い、何度も泣きそうになったことがある。

久しぶりに、その「坂」を登ってみると、「なんだ、この程度か?」と感じたが、当時の僕たちには、きっと、その勾配以上に急に感じられたのだろう。

過ぎてみれば大したことのないことでも、渦中にいる当人たちにとっては、大変なことというのが多々ある。

僕は、何か自分の中のものを「リセット」したくなった時、あの頃とは「種類」も「勾配」も異なるが、自分を励ましながら、また、坂道を登っていくために、大岡山を訪ねることにしている。

人生は、まだまだこれから。