「孫 泰蔵」さんとYahoo! JAPAN 誕生秘話

よく晴れた「文化の日」。

溜池山王にある日本財団で行われた、NPO法人ETIC主催の「Impact Gathering」に出掛けた。

詳細はETICのウェブサイトでご覧いただければと思うが、ソーシャルアントレプレナーが集まるイベントで、ソフトバンクの孫さんの実弟「孫 泰蔵さん」が基調講演をされた。

泰蔵さんとは多少の接点があるが、Yahoo! JAPANの立ち上げに携わった経緯を伺うのは初めてだった。

どういう経緯かの説明はなかったが、1995年、まだ、スタンフォードの学生(大学院生)だった Jerry YangDavid Filoと知り合い、衝撃を受けたという。

彼らは、自分たちが行っていることは、ニュートンの前に「リンゴを落とす」ような仕事であり、全世界の人々に「知識」を提供する、とても社会的意義のある事業であると熱く語り、これから「Yahoo! World Tour」に出る(日本、韓国、ドイツ、フランス/順不同でYahoo! を立ち上げる)という話をされたらしい。

その後、自分たちにやらせてくれ!と言ったところ、「じゃあ、やってくれ!」となり、Yahoo! JAPAN は、日本人がウェブ上に散在する知識にリーチできるようにするためのものであり、米国のやり方を踏襲する必要はなく、とにかく、日本の人達にとって「役に立つ」検索エンジンを創って欲しいというのが、唯一のリクエストだったという。

この話には、もう少し続きがあるが、その詳細を書くにはかなりの根気と時間を要するので、今日のところはこの辺で止めておこうと思う。

僕が、泰蔵さんの話で最も感動というか頭に焼き付いたのは、「こんなに苦しい思いをしてまでやり抜くというモチベーションは、(自分の)哲学からしか生まれない」というひと言である。

泰蔵さんも言っていたが、起業にはリスクはつきものであり、殆どは失敗する。

事実として、彼が手掛けた事業で世に出たものの陰には、死屍累々の失敗があるという。

僕自身の経験に照らし合わせてみても、起業したり、事業を立ち上げるにあたっては、辛いことがたくさんある。

そして、その困難に打ち勝っていくには、名誉や金銭欲もあると思うが、泰蔵さんが言うとおり、最後の最後は、自分自身の「信念や価値観」つまりは「哲学」しかない。

では、僕の「哲学」は何だろうか?

その問をもらった基調演講だった。

「捨てるもの」を決める。

「内定式」と「日本社会」というエントリーを書いた後、暫く間が空いてしまったが、僕にしては珍しく?、これといったテーマが無かった。

書こうと思えば書けるネタはいくつもあったが、どうしても書きたいテーマが無かった。

今日は久しぶりに、起業というかベンチャーに関することを書いてみたい。

今年4月から法政大学のビジネススクールで「プロジェクト(事業計画立案)」の指導を仰せつかることになり、様々な事業計画(ビジネスプランのドラフト)を拝見する機会が増えたことは以前にも書いたが、ここ最近、既に起業されている20代30代の方やこれから起業しようとしている人から相談されることが多くなった。

彼・彼女達の相談にのることにより、自ずと自分自身のことを振り返ることになるが、僕にも彼・彼女たちにも共通して言えるのは、「市場の構造化」が出来ていないということだ(僕の場合、出来ていなかった)。

「市場の構造化」とは、どのような「顧客」が存在し、彼らがどのような「理由」により、どのような「商品・サービス」を買っており、その「市場規模はどのぐらいか?」ということと、その中で「自分(自社)」にとって「市場機会」となるのはどの領域で、自分の「顧客」は誰か?ということを明確にするということである。

特に、自分の「顧客」は誰か?(顧客の定義)ということが、意外と明確になっていない。

確かに、多少の分析スキルや経験を要することではあるが、それほど難しいことではない。

にも関わらず、「顧客の定義」が出来ていないのは、「捨てる顧客とサービス」を明確にできないからなのだろう。

何故なら、少々無理をしてでも頑張って色々とチャレンジする方が人間の性(特に起業するような人)には合っており、出来そうかもしれないことを止める(捨てる)ことは、相当な勇気が必要だから。

ドラッガーが「劣後順位(やってはいけないことの優先順位)」が重要だと言っているが、まさしく、そういうことだ。

話は変わるが、今週の土曜日、ドリームゲートのアドバイザー総会なる会合で、「起業を成功に導くプロ支援者とは?」なるテーマで講演をさせていただくことになっている。

あまりにご大層なテーマで、少々気が引けてしまうところがあるが、自分自身の経験と最近の相談事の内容を踏まえて、少しでも参考になる話ができればと思っている。

ところで、日銀が「ゼロ金利」を容認する追加金融緩和を決めたが、はたして、どの程度の効果があるだろうか?

今の日本社会は、人口減、財政破綻リスク等の先行き不透明感(閉塞感)から、「リスクを売りたい人(資金需要)」も「リスクを買いたい人(投融資先を求める組織)」も少ないのが現実であり、量的緩和がストレートに経済の活性化に結びつくとは、当の日銀も考えてはいないだろう。

今日、資金(財源)を必要としているのは、年金や健康保険、介護等の「社会福祉」領域が殆どであり、その財源の元となる、次の成長分野が存在しない。

いや、存在しないのではなく、既得権益を保持しようとするがあまり、これからの成長分野に、人材と資金を思い切って振り向けることができないのだろう。

「ノーベル化学賞」を2人も受賞するほど、日本には優秀な人材と技術が存在することが、そのことを証明している。

ブログの更新が滞っている間に「ハーバードの『世界を動かす授業』」という本を読んだが、戦後の焼け野原から、日本がいかにして「奇跡的な経済成長」を遂げたか?が「ジャパン・ミラクル」として紹介されている。

そこには、緻密な「国家戦略」があった。

人間は結局、危機感からしか変われないのかもしれないし、裕福になった国(国民)は、一度得たものを失いたくはなく、既得権を守りたくなるのは宿命なのかもしれない。

ネットバブルの頃は、一攫千金を狙って、千載一遇のチャンスとばかりに、放っておいても若者が起業したわけだが(そういう僕もそのひとりだった)、今日のような社会情勢の時ほど「リスクを売りたい人」が必要だし、オールジャパンで、彼・彼女達を応援するべきではないだろうか?

あれから、ほんの10年。まるで違う世界に住んでいるようである。

ソーシャルゲームだけは、元気がいいけれど・・・。

日本を本気でSEOU会。

本日の日経新聞15面でご紹介いただいたが、前日銀総裁の福井俊彦氏が会長を務められる経済界の交流組織「SEOU会」とプロジェクトニッポン(ドリームゲート運営企業)と共同で、起業家の発掘・育成を目的とした「エンジェルズ・ゲート」という取り組みを始めた。

僕もアドバイザリーボートのメンバーとして参画させていただいている。

閉塞感の漂う日本社会の活性化に、微力ながら尽力したい。

明日は、3度目の「八戸」。

インターネットリサーチ時代の盟友「大谷さん」からの依頼で、明日は「八戸大学」で講演。

大谷さんが所長を務めている「八戸大学・八戸短期大学 総合研究所」が運営する「起業家養成講座 第3期生」の修了式に出席し、起業家としてデビューする皆さんに、ひと言、応援メッセージを頼まれている。

大谷さんから依頼をされた時、何を話すかのイメージはすぐに思い浮かんでいたが、今日の夕方、明日の資料に手を加えていた際、昨年の10月3日に「第1期生」の皆さんに話をさせていただいた時の資料を見つけた。

改めて、その資料を見ると、その半分は、明日の修了式で話をしようと思っていることと同じことが書かれていた。

そして、その資料(メッセージ)は、まるで自分自身に対するもののようだった。

すなわち、昨年の僕は、自分で話をしながら、その本質を理解していなかったとも言える。

物事には、理屈で理解するのではなく、痛い思いをして、尚かつ、ある程度の「消化期間」を経て、初めて理解できることがあるということだ。

閉塞感漂う日本社会にあっても尚、敢えて起業しようとする3期生の皆さんにとって、少しでも役に立つ話をしたいと思う。

「想い」や「情熱」がないのであれば、やめた方がいい。

巷を騒がせている「Groupon」系サービス(フラッシュマーケティング)だが、業界筋の情報によると、既に60社以上が参入し、準備中のところを含めると、時間の問題で100社を超える勢いのようだ。

僕らがインターネットリサーチに参入した頃の状況と酷似している。

当時とは時代環境も違うし、ビジネス自体が異なるで、一概には言えないが、おそらく、数年後にまともに残っているのは、せいぜい10社だろう。

さらに言えば、仮に、このモデルが10年続くとして、そこまで存続できるのは、3~4社だろう。

つまり、大多数は、淘汰されるということだ。

でも、当の本人達は、そんなことは考えず、千載一遇のチャンスと思ってビジネスに取り組んでいるはずである。

僕たちがインターネットリサーチの事業開発に着手して暫くした1999年頃、日経マルチメディア(だったと思う)でインターネットリサーチ特集があり取り上げていただいたが、その当時で既に30社以上、2002年に設立したインターネットリサーチ研究会(インフォプラント創業者の大谷さんと僕とで設立した研究会)で調査した時は、100社以上のプレーヤーが参入していた。

現在、それなりの規模感で残っているのは、マクロミル(マクロミル+インフォプラント+インタースコープ)、クロスマーケティング、楽天リサーチ、マイボイス、そして、従来型調査会社のインテージのインターネットリサーチ部門ぐらいだろう。

因に、1999年時点で先行し注目されていたのは、DR1(ビッグローブ系)、Hi-HO(松下電器産業)、KNOTs(ADK)、iMiネット(富士通総研)、日本リサーチセンター、電通リサーチ、日経リサーチといったプレイヤーだったが、生き残ったところは、前述のとおりである。

ところで、僕は今、Groupon系サービスに関しては「傍観者」の立場で冷めた目で見ているが、10年前の僕は、100社の中で生き残れると確信してビジネスをしていた。

棒にも箸にも引っ掛からなければ論外だが、ある程度の実力を持っているとすれば、生き残れるかどうかは、自分たちを信じて、並大抵以上の努力を続けられるかどうか?のような気がする。

そのビジネスに対する「想い」の強いところが、人並みはずれた「情熱」を注いでいるところが、勝つということだ。

逆に言えば、その「想い」や「情熱」がないのであれば、やめた方がいい、ということである。

僕にとっては人材紹介業がそうだったように、大怪我をするのが落ちである。

僕は「創業者」が好きなんだろうな・・・。

8月も今日で終わり。明日から9月だが、猛暑はまだまだ続きそうだ。

それでも、朝晩は幾分か涼しくなったように思う。

ところで、僕のブログを読んで下さっている方でご存知の方はいないと思うが、日本コンピュータ・ダイナミクス(以下、NCD)という「ベンチャー企業」がある。

ベンチャー企業といっても、今年で「43年」。日本のソフトウエア開発会社の老舗である。

創業者は「下條武男」さんという方で、79歳。

昭和6年生まれで、僕の父と同い年だ。

下條さんはご記憶にないと思うが、2~3度、お会いしたことがある。

1994~1995年頃だったと思う。

その下條さんが自ら書かれたNCDの成長の軌跡に関する本が、2ヶ月ほど前、送られてきた。

編集者は、日本工業新聞社出身の松浦利幸さんという方で、インタースコープ時代、僕も何度か取材していただいたことがある。

さて、数日前から読み始めた下條さんのご著書だが、時代背景が僕が生まれた頃から始まっており、とても興味深く読み進めている。

ベンチャー企業といっても、派手さは一切無く、地道な経営の軌跡が素朴な言葉で綴られているが、その時々の下條さんの心持ちが伝わってくる。

本を読んで初めて知ったことだが、僕が何度かお会いした頃は、バブル崩壊の影響を受けNCDの売上が激減、下條さんと共同創業者の小黒節子さんの役員報酬を「75%」カットし、本社オフィスを賃料が安い武蔵小山に移転した頃だった。

それにも関わらず、下條さんはいつも笑顔が絶えず、にこやかな「いいおっちゃん」という感じだった。

そういう明るい性格が、NCDをここまで成長させたのだろう。

僕の父も、生きていれば、下條さんと同じ79歳。

そんなこともあり、とても興味深く読み進めている。

考えてみると、リクルート創業者の江副さんの本にも、とても心を動かされた。

要するに、僕は「創業者」が好きなんだろうな・・・。

読了したら、改めて感想を書こうと思う。

ハイテク・スタートアップの成功要因

一昨年の下半期、法政のもうひとつのビジネススクールでご一緒させていただいた田路教授からご著書「ハイテク・スタートアップの経営戦略」をご献本をいただいたのは、もう4ヶ月ぐらい前になるだろうか?

献本をいただいた場合は、そのお礼に「書評」を書くのが礼儀であると知ったこともあり、書こう書こうと思いつつ、今日まで時間を要してしまった。

ウェブサイトに反映されるまでには数日ほど要するらしいが、先程、アマゾンにレビューを書いた。

その内容を、僕のブログで先行リリース?しておこう。

多少なりとも参考になれば幸いである。

★ハイテク・スタートアップの成功要因:

私自身が複数のベンチャー企業の創業に参画した経験(ウェブクルー:東証マザーズ上場、インタースコープ:Yahoo! JAPANに売却後、同業のマクロミルと経営統合、等)も含めて、本書から学んだことを整理したい。

※注釈:日本で言うベンチャー企業は和製英語で、本来はスタートアップと言う。

米国シリコンバレー、英国ケンブリッジ、半導体関連の集積がある台湾、そして、日本を含めた4地域におけるハイテク・スタートアップの事例研究をもとに、スタートアップの成功要因をまとめたものが本書である。

本書は、大学関係者(教授および准教授)の手によるものだが、その全員が「産業界」出身であり、また、フィールドワーク(インタビュー)を中心に執筆されており、臨場感溢れる内容となっている。

私が本書から学んだことは、以下のとおり。

・「研究開発」の領域には「規模の経済が働かず」、研究開発の成果はあらゆる規模の企業に分散している。にも関わらず、日本の大企業は中央研究所を本社組織に持っている構造に、日本におけるベンチャー受難の現実を垣間みることができる。

・起業は1人で行うものではなく、複数で行って「経営チーム」を形成する方が「成長性が高く、売上も大きくなる」。これは私の拙い経験でも同じである。

・また、経営チームの「協業経験(同じ職場で働いた経験)」の有無も、成長と関係があることが実証されている。日本の事例としては、リクルート出身の経営チームに成功事例が多いのは、その証左と言える。

・同様に、カルチャーを共有でき、また、その人物の人となりを理解できるという意味において、「同じ大学の出身者」で起業するのは理に適っている。シリコンバレー、ケンブリッジ、台湾の3地域は、いずれも、その地域の大学出身者のネットワークが起業に深く関わっている。日本では、ようやく、慶応SFC(湘南藤沢キャンパス)に、そのような傾向が見られるようになったと言えるだろう。

・スタートアップ時は「技術的イノベーション」の革新性の程度が、そして、成長期には「顧客交渉力」が成長を左右する。つまり、成長プロセスにより、ビジネスの「付加価値の構造が変化する」。ひとりの人間が、複数の分野に通じていることは極めて稀であり、そのことからも「経営チーム」における「役割分担」の重要性が理解できる。

・それは同時に、スタートアップを成功に導くには、適切なタイミングで、適切な人材をリクルートできることが必要不可欠であり、「人材の流動性」が担保されていることが極めて重要な意味を持つ。日本の場合、優秀な人材の殆どは「大企業」に存在し、まだまだ「終身雇用と年功序列賃金制度」を持つ日本の大企業の雇用構造は、オープン・イノベーション(起業促進)の「阻害要因」のひとつだろう。

・阻害要因という意味では、日本では「解雇規制(整理解雇の4要件等)」が厳しく、また、「企業内年金制度(転職先に移行できない)」の存在も、人材の流動性を阻害していると言える。

・また、シリコンバレーやケンブリッジでは、EXIT(エグジット:投資資金の回収方法)の選択肢としてIPO以外にM&A(バイアウト)が存在し、数的には圧倒的に後者が多いのに対して、日本では、文化的背景、VCの投資額(&シェア)が少なく発言力が弱い等の理由により後者のマーケットが小さいことも、起業促進の足枷になっていると言える。
→但し、直近の事例として、Zynga(ソーシャルゲームの巨人)による「ウノウ」の買収や、Grouponの「クーポッド買収」等、新たなEXITの事例が出現していることは、注目に値する。

以上が、私が本書から学んだことであるが、ハイテク・スタートアップに限らず、起業が促進され、経済的な成功を収めるには何が必要不可欠な要素であるかを「体系的」に解説してくれている。

事例には、バイオテクノロジー等、極一部の人を除いて接点のないものも含まれており、読み進めるには根気が必要なパートもあるが、これから起業を考えている人や投資サイドでの仕事を望んでいる人には、一読をお勧めしたい本である。