「明確な戦略」と「曖昧な戦術」と「経営判断」。

王子製紙による北越製紙へのTOBの結末に関するコラムが、今朝(9/5)の日経新聞に載っていた。

僕は、この事件(?)を注意深く見ていたわけではないので概要しか知らないが、このコラムを読んで印象に残ったことがある。

それは、「明確な戦略」と「曖昧な戦術」という表現(キーワード)だ。

僕は上場企業の経営をしたこともないし、もちろん、TOBをしたこともない。なので、当事者の立場や考え方は分からない。しかし、「明確な戦略」と「曖昧な戦術」という指摘は、企業活動のみならず、自分自身の人生を顧みた時にもヒントが隠されているような気がした。

コラムによれば、北越製紙の経営陣は「有利発行」の疑いもある低価格での第三者割当増資を行い、法的なグレーゾンも辞さず、遮二無二買収防衛策に走ったそうである。

一方、買収によって市場支配力を高め収益基盤の強化を狙うという「明確な戦略」のもとにTOBを仕掛けた王子製紙の経営陣は、そのことによる「企業イメージの悪化」を嫌い、結果的には「曖昧な戦術」を選択し、「明確な戦略」は実現することはなかった。

極めて日本人的な価値観である「体裁・遠慮・しがらみ・情緒」というものを持ち、その一方で「経済合理性」を求められる会社経営を仕事としている自分自身を振り返った時、今回の一件は他人事ではないと思う。

自分が正しいと思ったことであれば周囲の批判を恐れない「強い精神力」と、自分自身の選択により生じ得る「批判や摩擦」を事前に整理できる「知力」の両方が、今の自分にはまだまだ足りないということを改めて認識するに充分なコラムだった。

TOWNWORK(タウンワーク)

リクルートから発行されている「TOWNWORK(タウンワーク)」というアルバイト情報誌(フリーペーパー)がある。

今朝、出勤途中の青山通りで、TOWNWORKというロゴの入ったポロシャツを着ている60才過ぎと思われる男性を見かけた。額に汗をかきながら忙しそうに、TOWNWORKというロゴがプリントされた軽自動車に戻っていった。

おそらく、リクルートから委託を受けている会社の社員として働いているのだろう。年齢的に再就職かな?と思った。

リクルートと言えば「人材輩出企業」として認知されており、華々しいイメージがあるが、その彼らの業績を支えているのは、僕が今朝、見かけたような人々なのかもしれない。

僕がまだ30才を過ぎたばかりの頃、ある仕事で知り合った元マッキンゼーの池末さんという方が、ある会社のビジネスモデルのことを「コンサルティング的な仕事(業務)に価値があるのではなく、エクセキューション(実行できる仕組み)に価値がある」と評価していたことを思い出した。

表に出ている華やかなことの陰には、必ずと言っていいほど、それを支えている人々や仕組みがあるということだろう���

何気ない朝の風景で、そんなことを思った。

「時間軸」。

10年以上前の話しになるが、西武百貨店の社長をしていた水野さんという方の「インタビュー記事」で印象に残っていることがある。

西武の経営が上手く行かず、彼は責任を取って社長を辞任したと記憶しているが、社長在任時の心境を「暗闇の中のカーブを全速力で走っている感覚だった」と語っていた。

人間は誰でも、あとどのぐらい頑張れば、こういう結果が得られるということが見えれば、前向きな気持ちを維持することができるし、最後の最後で頑張ることができると思う。

しかし、「出口が見えない」中で頑張り続けるには、とても強靭な精神力が要求される。

僕は20代半ばの頃、ODSというコンサルティング会社で働いていたが、自分のキャリアデザイン(将来像)が描けず、毎日がとても辛かったことを今でも鮮明に覚えている。

本当にこのまま頑張っていて、先(将来)があるのだろうか?
自分の努力は報われるのだろうか?

常に、そういう想いに駆られており、心の安らぎは一切なかったと言っていい。どこにも「ロールモデル」が無かったことも大きく影響していたのかもしれない。

あとどのぐらい(時間軸)頑張れば、どんな凄いこと(ご褒美)が待っているのか?

そのことを明確に示すことができれば、そして、そのことに「リアリティ(現実味)」を感じられれば、人は高いモチベーションを持って働くことができる。

「有能な指導者は、これぐらいやれば結果が出るというのが分かっているから、冷静でいられる」。

将棋の羽生善治氏の言葉である。

経営者(指導者)の端くれとして、肝に銘じたい。

脳内シェア

今週の月曜日、元ゴルフダイジェスト・オンライン執行役員で、現在はアライドアーキテクツというベンチャー企業を経営している中村さんと食事をした。

彼との会話の中でとても印象に残っている言葉ある。それが「脳内支配」だ。

僕は「支配」という言葉は好きではないので、彼から「脳内支配」という言葉を聞いた時、「脳内シェア」ってことですよね?と言った。

彼が言いたいことは、物理的な労働時間ではなく、どのぐらい仕事のことを考えているか?例えば、水泳をしながらも、自分の仕事をのことを考えているか?カフェでお茶を飲みながらも、ふっとした瞬間に仕事のことを考えているか?ということの方が大切だということである。

特に、経営者の場合、いわゆる労働時間ではなく、どのぐらい、会社のこと、経営のこと、事業のことを考えているか? そして、それを具体的なアウトプットに変換できるか?が重要である。

このことに近いことを、「風呂に入っている時でも、仕事はできる」いう表現で、グッドウィルグループの折口さんも言っている。

自分が好きなことをしていれば、誰に何を言われなくても、自ら仕事をする筈である。

経営者に限らず、「仕事=苦役」ではなく、「仕事=自己実現であり、楽しみ(Pleasure)」であれば、それが実現できると思う。

そういう会社づくりをしていきたい。

目的と手段

僕のブログでも何度か紹介しているマーケティングジャンクションの吉澤さんが、またしても深いコメントをしてくれました。

以下、先日のブログへのコメントです。少々酔って書いているらしく、助詞がおかしなところがありますが、ご愛嬌(笑)。

「本田宗一郎さんは間違いなく成功した人だと思う。自分のやりたいことを実現できる会社を作っていったからだと私は思う。
取り違えてはいけないことと常々考えるのは、会社が成功すれば、自分のやりたいことができるという勘違いだ。
本田宗一郎が信じていたのは、世界一速いバイク、世界一よく回るエンジンというようなサクセスであり、その信じて疑わない志を実現できる会社が、そこに成長したのだと思っている。だから、彼は「金儲けした者」として胸を張らない、そんな姿を見たことがない。「世界一のバイク屋」であることには、誇らしげにものを語っていた」。

7/26(水)の前刀さんとのセッションのことを書いた僕のブログを受けて、本田宗一郎さんのことを引き合いに出してくれました。

「利益」や「時価総額」を目的にした瞬間、「何でもあり」になってしまう。

僕もそう思うし、前刀さんも同じように言っていました。

僕にとってドリームビジョンという会社を創業し、経営していくことの目的は、僕らの会社がやることで社会がより良い方向に変化し、より多くの人の「夢の実現」に役に立つことです。決して、「時価総額」や「利益」が目的ではありません。

もちろん、適正な利益を出すことは経営上必要不可欠なことだし、僕にとって利益は更なる成長の「手段」であり、投資してくれた方々への「お礼」ではありますが、そのこと自体が会社を経営する「目的」にはなり得ないのです。

因みに、オプトの鉢嶺さん(仲間内ではハチと呼んでいる)は、上場した直後の社内報(取引先等にも配布していた)で、「時価総額が目的ではない」と名言していました。彼のことは10年以上も前から知っていますが、凄い人だなと思いました。

尚かつ、そのハチが経営するオプトの「時価総額」は、極めて高く評価されている。彼の理念が結果的に、「数字」にも表れるということだと思います。

「影響を受ける」という「才能」。

この言葉は、僕が20代の頃に過ごしたODSというコンサルティング会社で使われていたものだ。

「影響を受ける」という言葉は、時と場合により、ポジティブな意味でも、ネガティブな意味でも使われると思うが、「影響を受けやすい」というと、「自分が確立されていない」とか「ポリシーがない」とか、どちらかというと「ネガティブ」な意味合いで使われるように思う。そんなこともあり、それまでの僕は、「他人の影響を受ける」とか「影響を受けやすい」ということに対して、あまりポジティブには捉えていなかった。

それが、ODSで働いたことによって、その概念は大きく崩れ去った。僕にとっては「衝撃的」だったし、昨日のブログで書いた「Turning point(転機)」のひとつだったと言えると思う。

昨日は、そのODSの先輩にあたる、HRIというコンサルティング会社を経営している野口さんという方と久しぶりに会った。

詳細は後日、改めてこのブログで説明したいと思うが、昨日の野口さんとの「会話」も、僕にとっては「転機」になると思う。僕の中で、どうしてもすっきりしないでいたことが、かなり、すっきりした(整理された)気がする。

ODSでいう「影響を受けるという『才能』というのは、謙虚に他人の意見に耳を傾ける姿勢と新しいことを吸収する柔軟性を指していると僕は解釈している。

会社を経営していると、やれ「一貫性」が大切であるとか、「朝令暮改」は良いとか悪いとか、様々なことを言われることが多い。

確かに、その根底にある思想や理念は揺るぎないものである必要があると思うが、それを踏まえた上で、環境変化に柔軟に対応し、新しい考え方や情報を取り入れ、常に「最適」と思われる意思決定をしていくことは、むしろ、必要なことだと思う。

ビジネスの世界においても、「生き延びるものは強いものではない。変化するものである」というダーウィンの進化論そのものである。

経営者という立場でいうと、そこで問題になるのは、「なぜ、その変化が必要なのか?」「どうして、その変化を選んだのか?」ということを、組織の全員に「わかりやすく」説明する必要があるということだと思う。

ベンチャー企業の創業者経営者の場合、人にもよるが、得てして「直観タイプ」の人が多いので、その人の中では「明確な判断基準」があり、それに則って意思決定をしていても、それを「万人に通じる言葉」で説明することをせずに行動を先行させることが多いので、社内に混乱を引き起こすということだろう。

今になってみれば、僕もこうして冷静に分析なり判断ができるが、インタースコープを経営している頃は、そのことを理解していなかった。

山川さんが、僕と一緒にインタースコープを始める時に、「サラリーマンに戻るということだと思うので、懐かしくもあり、大変だなという思いもあり・・・」と言っていたことの「意味(本質)」を、インタースコープを始めてしばらくした時に気がついた。

会社を船に例えれば、数人で漕いでいる小さなボートであれば、船長(経営者)が、急に右だの左だのと言っても、クルーがそれに反応できるし、その意味も理解できると思うが、それが、100人を超える人々が運航に関与している船となると、運航の機能が高度に細分化されており、システマチックな指示系統がないと情報自体が伝達されないし、船の方向を変えることはできないということだろう。

様々なことから「影響を受ける柔軟性」を持ちつつ、システマチックな経営をする(できる)。

そういう人が偉大な起業家なり経営者になっていくのだろう。

創業の理念

今日は、7月1日。はやいもので、今日から2006年も後半戦である。