AI(人工知能)と、その熱狂 in シリコンバレー。

AI(人工知能)と、その熱狂 in シリコンバレー。

シリコンバレーに(限らない)おける「AI(人工知能)」に関するテクノロジーは今、異常なほどの熱狂に包まれている。

※今回(Vol.3)は、シリコンバレー在住の当社Venture Partner, Ron Drabkin による英文でのレポートを平石が翻訳したものである。原文は本稿末尾にリンクを掲載した。

Tesla CEO, イーロン・マスクは、ロシアのプーチン大統領の「最初にAI のグローバルリーダーになった者が、この先の世界のルールを決める」という発言に対して、「AI に関する競争は、第3次世界大戦の原因になりかねない」と反応した。

この熱狂状態(あるいはパニック?)は、少々心配だ。「AIは今、どのレベルにあるのか? 過剰な期待が掛けられているのはどの領域か? AI 関連で近い将来、リーディングカンパニーになるのは、どのスタートアップか?」。多くの人々にとって興味があるのは、こういうことだろう。

How Effective is AI Today?:AI は今、どの程度有効か?

AI は驚くべきスピードで進化している。その一方、シリコンバレーの著名VCの何社かは「現在のAIがコンピューターに指示することができるのは、賢い3歳児に教えることのできる内容と同等なレベルである」と言っている。最も分かりやすい事例は「画像認識」技術だろう。「AI」はその写真に写っているのは「誰か?何か?」を、3歳児と同じように解析することができる。facebookが写真に写っている人を認識し、その候補者の名前を提案してくることは、ご存じのとおりである。

A Simple Example:分かりやすい事例

画像認識に関して非常にシンプルで分かりやすい事例を紹介したい。「Silicon Valley」という米国の人気コメディ番組がある。番組名のとおり、内容はシリコンバレーに関するコメディだが、その番組制作者の一人に優秀なAIエンジニアがいた。彼は「Not Hot Dog」というアプリの開発者である。そのアプリは、AI を使って、写真の中にホットドッグがあるか?ないか?を判別する。勿論、それは実用的ではないが、AI が何に使えるか?をとても分かりやすく教えてくれる。

※The Not Hot Dog app correctly categorizing a picture as containing a hot dog.

Popularity of AI and Focus by Large Silicon Valley Companies:過熱するAI とシリコンバレーの巨人たち。

シリコンバレーには現在、何百何千という「AI スタートアップ」が存在するが、長期的に見れば、殆どすべての新しいプロダクトにAIが搭載されるだろう。そして、AI スタートアップの殆どが、自社製品の開発だけでなく、彼らの「アルゴリズム」を他社に販売したいと考えている。例えば、先述の「Not Hot Dog」のようなアプリは、将来的には単独での機能ではなく、買い物、スーパーマーケットやダイエットアプリ等に搭載されるようになると思われる。

The BIG 5 と言われる「Amazon, Apple, Facebook, Google, and Microsoft」は、彼らの殆どすべてのプロダクトやサービスにAIを導入し、競合他社に対する競争優位を構築することに躍起になっている。そして彼らは、非常に高額なサラリーを支払って、優秀なAIエンジニアを採用競争を繰り広げている。

Forbesの調査によると、セルフドライビングカー専門の「標準的なエンジニア」の年収は「30万ドル(現在の為替レートで約3,400万円!)」だそうである!

また、The BIG 5 は、AI を自社プロダクトの開発に使うだけでなく、”Artificial Intelligent as a Service” として、規模の大小を問わず、外部の会社に提供している。近い将来、殆どの会社が自社で、例えば、食品認識技術を開発するのではなく、Amazon Rekogtition のようなサービスを活用するようになるだろう。

あるエンジニアは私にこう言った。

The BIG 5 や海外の会社のAI に関するイノベーションのスピードは、驚くべきほど速い。従って、スタートアップは、仮に、AIのエキスパートに高い給与を払えたとしても、汎用的なAI 開発では、彼らに太刀打ちできない」。

大企業によるAI スタートアップの買収は非常にアグレッシブで、今年だけで既に「50社以上」のAIスタートアップを買収している。その中で最も高額なディールは、フォード・モーターによるセルフドライビング技術開発の「Argo.ai」というスタートアップの買収で、その額はなんと「$1B(約1,125億円:$=112.5円換算)」である。

GoogleのDeepMind が世界最高レベルの「碁」のプレイヤーを破ったのは有名な話だが、DeepMind はもともとロンドンのスタートアップだった。買収額は「$500M(約560億円)」と報道されている。

AIスタートアップの買収合戦は、The BIG 5 だけの話ではない。米国の農場関連機材の開発会社 John Deere は、従業員60名のAI スタートアップ Blue River Technology を「$305M(約340億円)」で買収している。

AI Focus by Startups:スタートアップのAI 戦略

規模の小さなスタートアップは、一般的なAI アプリケーションの開発で The BIG 5 と競合しないように慎重になっている。The BIG 5に勝つためには、どこか特定の領域にフォーカスする必要がある。

例えば、交通領域ではDriverMiles」というスタートアップがある。シスコのエンジニアとモルガン・スタンレーで自動車セクターをカバーしていた人間たちが創業した会社である。

あるいは、ある特定領域の技術では、The BIG 5 に先行しているかだ。マルチセンサー技術で一日の長がある「Deepscale」や言語解析にフォーカスしている「Basis Technology」等を挙げることができる。Basis Technology は、約20年に渡り、言語解析のノウハウを蓄積している。

他のスタートアップもニッチな領域をつかもうとしている。実用的なプロダクトを開発しているとこともあるが、中には単にキュート(おもしろい)だが、実生活では役に立たないケースも散見される。しかし、成功するスタートアップは、むしろ、地味な内容のことが多い。

AI を活用し、家の中で家族の周りをついてまわる「DOMGY」というロボットを開発している「ROOBO」という北京のスタートアップがある。たしかに、愛らしくおもしろいプロダクトではあるが、個人的には、世の中を大きく変えるイノベーションをもたらすスタートアップは、地味な領域から生まれると思っている(ROOBO は、DOMGY以外にもユニークで実用的なプロダクトも開発している)。例として「Thrive Bio」というスタートアップを紹介したい。彼らのAI 技術は、研究室の中で「正常に育たなかった細胞」を特定することができる。新薬開発のスピードを劇的に向上させる可能性がある。

※Photo from ROOBO website: DOMGY will follow around family members and such, but is unlikely to change the world.

Self Driving Trucks > Self Driving Cars

メディアのAIに対する最大の興味関心は、間違いなく、セルフドライビングカーだろう。ロボット同様、セルフドライビング技術はエキサイティングだし、人々の関心を惹きやすい。

しかし、改めて申し上げるが、派手さはなく、地味な領域、自動車産業であれば「自動運転トラック」の方がより早く実用化されるだろう。トラックの自動運転であれば、隊列の先頭を走る「人間が運転するトラック」の後ろを付いていけばいい。これなら格段に容易であり、且つ、安全だ。英国では、2018年末までに、公道で自動運転トラックのテスト走行が認可される見込みである。

Photo from engadget: A self driving truck convoy, with the human driver in the first truck only.

What is Next?  Lessons for Large Corporations:次は何か?大企業にとっての教訓

今まで述べてきたように、今日のAI で実現できる(AI がコンピューターに指示を出せる)のは、我々が賢い3歳児に教えることができるレベルである。しかし、AI の進化は驚くほど速く、少年ができるレベルに到達することも期待することができるだろう。

日本企業を含めて、自社のプロダクトにAI を導入したいと考えている大企業は、汎用的なAIプラットフォーム提供者である Amazon や Google に注目すべきだが、特定の問題解決のためのプロダクトやソリューションに関しては、その領域のスタートアップを探す必要がある。但し、AI に関しては今がまさに「Hype(熱狂)」のピークであり、どのスタートアップが自社にとってのベストパートナーかを見極めるのは容易ではない。入念なリサーチが必要だろう。

原文はこちら。

原文:Ron Drabkin, 当社Venture Partner(シリコンバレー在住のシリアルアントレプレナー&エンジェル投資家)

翻訳:平石郁生 シリアルアントレプレナー&スタートアップアクセラレーター(当社創業者 代表取締役社長)